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【レポート】近く遠い「アスリート」の世界と可能性

第6回 さんさんストラテジックミーティング@オンライン 2020年9月28日(月)開催

2,9,12

3×3Lab Futureに集うコアメンバーとともに、日本の「現在地」を確認し、ディスカッションする「さんさんストラテジックミーティング」。その第6回が、「アスリートのデュアルキャリア」をテーマに開催されました。エコッツェリア協会では、東京都の「インキュベーションHUB推進プロジェクト」という事業の中でアスリートのデュアルキャリアに取り組んでおり、昨年から啓発イベントの開催とともに、現役アスリートのインターンシップの受け入れなども行っています。

「今回は、これを聞いてメンバーの皆さんがどう感じるかがテーマ」とエコッツェリア協会プロデューサーの田口は話します。ゲストとして、アスリートのデュアルキャリアの活動に取り組む槙島貴昭氏(B-Bridge)のほか、現役アスリートでインターンシップ参加者の吉林千景氏、佐々木一輝氏の3氏が話題を提供し、デュアルキャリアの可能性について議論しました。

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アスリートを超えて、アスリートをつなぐ――槙島氏の話題提供

アスリートを超えて、アスリートをつなぐ――槙島氏の話題提供

槙島氏は、大学卒業までサッカーに本格的に取り組んだ後にアメリカに渡り、さまざまな経緯を経てB-Bridgeに入社。現在はエコッツェリア協会と共同でアスリートのデュアルキャリアの推進に取り組んでいます。中学時代にはイタリアの国際大会に招待されるなど、レベルの高い環境で活躍してきた選手でしたが、あることをきっかけにサッカーで身を立てることを諦めたという経緯があります。

「平成生まれ初の日本代表になった香川真司選手と幼馴染で、彼は僕が高校2年生のときに代表入りしました。身近な存在が世界に羽ばたいていく姿を目の当たりにした時に、僕はそれに比べて何をしているんだろうと落ち込み、違う道で世界に通用する人間になろうと思うようになりました。香川選手をきっかけにサッカーの道を諦め、同時に彼のおかげで今こうして活動できています」

槙島氏は大学時代、カフェでアルバイトをしながらプロとしてプレーする選手を間近で見てきました。そんな姿を見て、選手のステージによってこんなにも差があるのかとショックを受けたことから、「世界ではどうなのか」と関心を持ち、大学卒業とともに渡米。そして、シリコンバレーへ行ったことが転機となりました。

「Googleもシリコンバレーもよく知らないまま渡米して、毎日が勉強の日々でした。それと同時に、日本のアスリートにもさまざまな分野への視野を広げる機会があれば、社会でもっと活躍できるようになるのではないかと考えるようになりました」

つまり、何らかの形でアスリートと社会の接点を設けていくことで、デュアルキャリア形成に役立つのではないかという発想です。

現在、日本のプロスポーツは、9競技12リーグが存在しており、303チーム・6000名以上が在籍しています。サッカーの場合、Jリーグ54チーム、JFL16チーム、地域リーグが存在し、大学生以上のアマチュア含む競技人口は15万人。そのうちプロスポーツだけで生活が成り立つのはごく一部で、超が付くトッププロアスリートはさらにごくごく一部。

「サッカーの場合、選手としての寿命は30歳くらいまで。だからこそ、デュアルキャリアの必要性を考えるようになりました。今は、アスリート、チーム・協会、企業、行政・自治体の4者で連携した仕組みを作り、全国へ広げる活動に取り組んでいます」

当日の資料より

スポーツやアスリートを起点として街を盛り上げ、新たな価値を生み出すプラットフォームを創出することが狙いだと槙島氏は話します。デュアルキャリアプログラムやインターンシップの実施を想定しており、アスリートはビジネスを学んで視野を広げる機会に、企業にとってはアスリートの雇用やスポーツを通じた企業PRの機会につながります。また、自治体はスポーツによる企業連携の強化や地域振興などが期待できるとしています。

エコッツェリア協会とB-Bridgeは、昨年に続き、今年も東京都の事業「インキュベーションHUB推進プロジェクト」の枠組みで「アスリート・デュアルキャリアプログラム」を4回講座で開催します。

「実際にビジネスを起こすには少し時間がかかるかもしれないが、この講座をきっかけに参加者それぞれが走り出す準備をするところまで進めたい」と槙島氏は話しています。

アスリートのマインドと実際――吉林氏の話題提供

エコッツェリア協会とB-Bridgeが実施しているアスリートインターンシップに参加している吉林千景氏は、日本女子フットサルチームの「府中アスレティックFCレディース」に所属しており、2012年からフットサル女子日本代表として活躍しています。この日は自身の足跡とともに、デュアルキャリアを目指すアスリートの実態を赤裸々に語りました。

吉林氏は、もともとサッカーをしていましたが、大学入学を機にフットサルの世界に飛び込みます。大学2年生の時に代表入りし、その後オファーを受けてスペインのクラブチームに所属します。

しかし、スペインで大怪我に見舞われ、2年ほど療養期間を過ごしたことをきっかけに将来を考えるようになりました。

「怪我で動けない間、このままじゃダメだと思い、自分の人生を考えるようになりました。その後、働きながらプレーしてキャリアを考え直そうと思い、日本に帰ってきました」

吉林氏は、女子フットサルにおいては代表入りするトッププレイヤーですが、「サッカー日本代表と同じサムライブルーのユニフォームを着るものの、それだけでは生活できない」のが現状です。

「自分の力で生きていくために何をやろうかと考えて、書くことが好きだったので、ライターという職業にたどり着きました。アスリートとライター、どちらかがサブとは思っていません。サブだと思うと辛くなってしまうので、自分の中ではすべて同じ位置づけと考えています」

そして現在は美容、キャリアアップなどの分野で、クリエイティブディレクションやSEOライティングをするWEBライターとして活動しています。

「今は、フットサル、WEBライター、アスリートインターンと活動範囲が広がってきたからこそ、このままでいいのか、と改めて考えているところです。身につけたスペイン語を活かす仕事にも興味がありますし、現役引退後にライフワークにできるものは何かと考えています」

そして、現役アスリートの立場から、デュアルキャリアとして複業を持つことの難しさを以下の項目で説明。アスリートが社会で新たなキャリアを形成する際の偽らざる心情を、実直に語りました。

・競技を続ける本質的な理由を見失うと、両立するメンタルが保てない
・アスリートは24時間常に競技のことがつきまとい、生活から切り離すことが難しい
・アスリートというだけで前向きなイメージを持たれるが、実はメンタル的には辛い
・アスリートとしての経験が社会の役に立つのか。実感できる職を見つけるのが難しい
・セルフマネジメントができないと、競技も仕事も成果を出せない

アスリートとして、吉林氏は代表歴も長くなり、また所属チームではキャプテンに選ばれ、「人とのつながりや、チームマネジメントの経験を積むことはできたと思うが、それがどうやってデュアルキャリアに役立つのかがまだ見えていない」と話します。

「今後は、まず3×3Lab Futureで出会えるさまざまな方から、キャリア形成についてお話を伺いたい。そしてアスリート以外の方とも仕事をしていきたいです。もちろん、収入を得られる方法も増やしたいし、アスリートデュアルキャリアの実践者として、この先、アスリートがいろいろなキャリアを歩めるような社会にしたいと考えています」

リモートで富山・東京をつなぐデュアルキャリア――佐々木氏の話題提供

吉林氏と同じく、アスリートインターンシップに参加している佐々木一輝氏は、Jリーグチームの「カターレ富山」でプレーしている現役のサッカー選手です。U-18では代表歴もある選手ですが、怪我や年齢で「引退」の厳しい現実を感じ、デュアルキャリアを考えるようになりました。インターンシップへの参加も将来への不安、危機感を抱いたためです。

「サッカー選手の寿命はとても短く、怪我や契約満了などで25~27歳で引退する人がほとんど。30歳を超えてプレーする選手はごくごく一握りです。僕も大きな怪我に悩まされ、年齢も30歳になり、初めてサッカー以外の選択肢を探さなければという危機感を抱きました。これまで、サッカー中心の人生で外の世界を知らず、コミュニティが狭いと薄々感じていた。同年代のビジネスマンは活躍し、キャリアを積んでいる一方で、自分は歳を重ねる度にアスリートとしてのキャリアを終えていっているというギャップに焦りや不安を感じていました」

現在は、富山県からのリモートでインターンシップに参加しつつ、デュアルキャリアの活動に取り組んでいます。

「デュアルキャリアによって毎日ニュースを見たり、人前で話したり、将来に対して考えたりするようになり、良い刺激になっています。今まで競技に対するオンオフが明確でなかったのですが、インターンの仕事中は完全に競技はオフになり、スイッチがオンになったときのパフォーマンスが向上していることも感じます」

一方、課題ももちろんあります。ひとつは、デュアルキャリアに関する情報共有についてです。

「実はアスリートでもすでに複業をしたり、起業したりしている人もいます。しかし、その情報がスポーツ業界内でシェアされていません。また、デュアルキャリアは、アスリートとしても人間としての価値も高くするものだと思うので、もっと若いうちから考える必要性を感じています。そういうことを伝えるための交流や学べる機会を作っていきたいですね」

今後は、自らがそのロールモデルとなるために努力していきたいとしており、このインターンシップのほか、9月に富山でオープンした共創スペース「Sketch Lab」での活動に取り組みたいと話しています。

ディスカッション

後半は参加者との質疑応答、議論となりました。

参加者からの感想で聞かれたのは、アスリートのメンタルに関する部分。「みなさんの強く発信されている様子を見て、アスリートならではメンタルの強さを感じる」という感想が出されましたが、逆に3者とも「アスリートはメンタルが弱い」と回答したのは興味深い点です。

佐々木「僕自身のメンタルは強くない。コメントを求められれば前向きのことを言いますが、負ければ落ち込む。ただ次の日には練習もありますし、試合があれば分析もしなければならないので強制的に切り替えている部分があります。僕から見れば、サラリーマンの方がメンタルが強いように見えます」

槙島「切り替える力が強いのは習慣的なものだと思う。アスリートは、競技についてはメンタルが強くても、それ以外のことにはガラスのハートの持ち主が多いのではないでしょうか」

その他、セカンドキャリアとして何が向いているのか、何をしたいのかという話題も盛り上がりました。中でも農業はホットな話題です。

参加者「農業は体も感性も必要な仕事でアスリートに向いているのではと思うが、アスリートから見てどう思われますか」

槙島「元サッカー選手が北海道でワイナリーを開いた例もあり、農業に取り組みたい、関心を持つという選手は多い印象です」

佐々木「J3の福島ユナイテッドFCは、クラブが農業部を作り、桃や米を選手が育て売るということもしています。こういう社会貢献の仕方はアスリートにとっても良い経験だと思います」

別の参加者からはハンドボールのクラブチーム・フレッサ福岡が現役時代からイチゴ農家の手伝いをし、地域と良い関係を築いている例の紹介もありました。

参加者「アスリートにはどのような仕事が向いていると感じていますか」

槙島「集中とやりがいのある仕事。打ち込み始めたらとことんやる性質の人が多いので、それが合う職業。例えば、農業やエンジニアは向いているかもしれないですね。体力がある=営業が向いている、というものでもないかなと思います」

佐々木「やりがいのあるものが向いているというのは、僕もそう思います。企業に属するだけでなく、フリーランスも向いているようにも感じます。ただ、僕自身は自分の可能性を知る意味でもいろいろなものにチャレンジしたいと思っています」

吉林「私の周辺では、カフェ開業に興味を持つ選手が多いです。女性は圧倒的に飲食を好む印象です」

こうした議論を受けて別の参加者から「サッカー選手とはどんな仕事だと思うか? 言葉にしてほしい」と質問があり、セカンドキャリアについて考えさせられた一幕も。

参加者「元阪神タイガースの奥村武博さんが、アスリートは目標を達成するために緻密に考えて積み上げるのが得意だとお話されていました。アスリートという職業を、そのように分解して、抽象度の高い言葉で語れるようになるとセカンドキャリアに広がりが出るのではないかと感じます」

田口「そういった要素分解が今まさに必要で、相互に『何ができるのか/向いているのか/やりたいのか』と問いかけ合っている状況なのだと思います。互いに需要はあると思うので、共通項を探していくことで見えてくるものがあるのではないかと感じています」

今後も、アスリートのデュアルキャリアに関する取り組みは継続していきます。イベントなどはもちろん、インターンの吉林氏、佐々木氏との交流、会話で新しいデュアルキャリアの方途を見出していくことが期待されています。


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