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【レポート】 マザーハウスの"Warm Heart とCool Head" 

いい会社の経営理念塾 第3クール「つらぬく経営」 第3回 (10月28日)

「NPO法人 いい会社をふやしましょう」の理事・新井和宏氏がファシリテーターを務めるいい会社の理念経営塾第3クール『つらぬく経営』。10月28日(水)に開催された第3回のゲストは、株式会社マザーハウス 取締役副社長・山崎大祐氏です。

同社は、代表取締役社長兼チーフデザイナーの山口絵理子氏と山崎氏が、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念のもと、2006年3月9日に創業。素材の開発から染めなどの細かな工程に至るまで、バッグを主としたアパレル製品・雑貨の企画・生産は、すべて自社内で行うというユニークなスタイルを一貫しています。

現在、日本に16店舗、台湾に5店舗、香港に1店舗、計22店舗の直営店を展開中。生産の主体であるバングラデシュの自社工場は、約160人の従業員を抱えるまでに成長し、国内外問わず、多くのファンに愛される唯一無二のブランドになりましたが、起業当初は、例に漏れず、"予想外のこと、大変なこと"の連続だったのだそうです。

いつにも増して熱気あふれる会場は満員御礼。真剣な眼差しの参加者たちを前に、"Warm Heart とCool Head"と題した今回は、山崎氏の自社にかける"想い"の話からスタートしました。

「豊かさとは何か?」と問い続けた20代。その末に辿り着いたのがマザーハウス

壇上に上がるなり、開口一番、「今日、すごい楽しみにしてきました。こういう形で皆さんにお話できること、そして、新井さんと対談させていただけることをとても嬉しく思っています」と山崎氏。

「最初に、少しだけ"想い"についての話をさせてください。山口(絵理子氏)と共にマザーハウスを設立する以前の私は、ゴールドマン・サックスという会社で、4年間、エコノミストの仕事に就いていました。そもそも、この仕事を選んだ理由は、金融市場に対して、極めて高い問題意識を持っていたことにあります。二十歳の頃に、ベトナムのストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮りに行ったんですね。そこには、私が想像していたのとは全く違った彼らの姿がありました。元気で明るい子供たちは皆、目輝かせて、夢を語るんです。

帰国後、"豊かさとは何か?"というテーマに基づいて、ひたすら勉強を続けました。就職してからも、"経済的な豊かさは大事だけれども、その一方で物質的な豊かさだけでは私たちは満たされていない、それはなぜなんだろう?"と常に考えていました」

「働いてみて、金融自体が問題ではなく、金融を動かしている人たちそのものが問題なのではないかと気づき始めました。でも、すでに構造化されているものを変えていくのは、とうてい無理なこと。そんな時に出会ったのが、マザーハウスという会社でした」

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「途上国から、世界に通用するブランドをつくる」-創業10年の今も変わらない理念

「途上国から、世界に通用するブランドをつくる」-創業10年の今も変わらない理念

徹底した現場主義で、思ったことはすぐさま行動に移すというバイタリティあふれる山口氏。バングラデシュについて深く知りたいと思い立ったら、現地の大学院に通いながら、工場でインターンとして働く。「バングラデシュが誇る素材・ジュートをもっとより良く生かせば、カッコイイ、カワイイバッグが作れるのでは?」とアイデアを思いつけば、日本へ飛び、短期間、集中的にアルバイトをして50万を貯めてしまう。そして、現地に戻り、生産してくれる工場を探し回り、見つける。売り先も決まっていないのに、想いが先行して、気づけば、自らデザインしたバッグを160個、先に作ってしまった。

当時24歳の同氏の行動は、一見すると、突拍子もないように見えますが、一生懸命働いている現地の人たちに触れ、「途上国から、世界に通用するブランドをつくる」という決意が生まれたのもこの頃のこと。「これは、創業以来、変わっていません。でも、最初聞いた時は、そんな簡単じゃないよ、と正直思いました。でも、彼女のビジョンややりたいことに深く共感したのは事実。色々と話した結果、一緒に会社を創った方がいいねということで、お金を出し合って、マザーハウスを設立しました」

提供するモノすべてに、責任が持てる会社でありたい

本来、コーヒー豆の袋などに使用されるジュート素材で始まったマザーハウスのバッグですが、今では8割ほどがレザー製品なのだそう。バングラデシュの自社工場は、国内で3、4番めの輸出工場として、誰もがその名を知る存在になったといいます。

「バングラデシュとネパールではストール、インドネシアではジュエリー、ラオスでは伝統的な生地を作るなど、途上国での生産体制を広げていますが、いずれにしても、生産の"入口"から、お客様の手に渡る"出口"の部分まで、自社内で行うスタイルは変わりません。お店も、創業当初から手作りですし、カタログ類なども、すべて自分たちで作っているんです(笑)。提供するモノすべてに、責任が持てる会社でありたい、そう思います」

自分たちの手で作る喜びって、すごい!

「"人の手"というものは、規格化されていないものに宿るんだと思います。私たちは、木材屋さんから木材を仕入れて、自分たちで木を切るんですね。ちょっとは、ズレます。でも、そのズレこそが、人間が作った証だと、私は最近、つくづく思うんですね。そこにズレがあるからこそ、温かみがあるのだと。何よりスタッフの想いが全然違いますね。自分のたちの手で何かを作ると、人間力が上がった気がするんですよ(笑)、作る喜びって、すごいです」

また、「"ストーリーテラー"と共に、ブランドのストーリーと共に販売していくことを大事にしている」と山崎氏は語ります。「どの店舗でも同じように、お客様に対して説明ができるように、ストーリーテラーの社員研修を行っています。商品については、永久修理対応しているのですが、"もう少しこんな風だったらいいのに"とか"これは非常に便利です"といったお客様の生の意見を得られるんですね。それらを工場にフィードバックすることで、より良い商品開発に存分に生かすことができています」

お客様と作り手の架け橋になりたい

他にも、マザーハウスは他にはないユニークな取り組みを行っています。例えば、大手旅行会社のエイチ・アイ・エスと組み、2009年より実施している工場見学ツアー。「バングラデシュの工場に、お客様に来ていただいて、オリジナルのエコバッグをスタッフと一緒になって作っていただくんです。つまり、国境を越えて、お客様にものづくりに参加していただくわけです。

言葉が通じなくても、絵で描いて説明・表現するなどして、コミュニケーションを取り合うんですね。お客様にはマザーハウスのこと、作り手のことをよく知っていただく機会になりますし、現地スタッフにとっては、お客さんの顔が見えて、お客様に見ていただくことで、意識が変わるという効果がありました。見られるって、大事なことです。何より、品質が格段に変わりました」

キャンサーソリューションズと乳がん経験者向けショルダーストラップの開発を行うなど、商品開発においても斬新な取り組みで注目されていますが、特筆すべきは、のべ1300人の参加者が集うマザーハウスカレッジでのゲスト対談やマザーハウスのバッグを持っている人なら参加できるお客様総会の開催です。

「起業当初は、先にバッグを作ってしまったので、卸やインターネットで販売していましたが、誰が買ってくれているのか分からないし、使った感想も分からない。そこで、"オフ会をやろう!"と思って、呼びかけたら40人くらいの方が集まってくださったんですね。起業して半年ほど経った頃でしたが、バッグを使ってくれている人がこんなにいて、こんなこと考えて買ってくれたんだっていう想いを受けてすごい楽しくて。

この時、決めたんです。どんなに会社が大きくなっても、こういうイベントをやり続けようと。お客様総会は、毎年続けていて、今で11回。多い時で500人ほどの方に参加いただけるまでになりましたが、原点はここにあります。何か想いのために仕事をするって、何をするよりも楽しい。それをお客様とマザーハウスに教えてもらいましたね」

想いに人が集まる。仲間って、素晴らしい

山崎氏と山口氏の熱い想いに共感し、共に働いてきた歴代スタッフのうち、約8名は自身で起業したといいます。「世界には、素晴らしい仲間がたくさんいます。いい志を持った人は、いっぱい世界にいるんですよね。自社工場を作る前、バングラデシュでかつて取引のあった工場が突如、彼らの事情により、生産停止になったことがありました。その時、私をバイクの後ろに乗せて、国中一緒に駆けまわり、工場を探してくれたのが、現在、現地のディレクターを務めるモインさんです。苦しい時こそ、一緒にいてくれる人は、本当に信頼できる仲間だと心底思っています」

セッション開始から1時間ほど経った頃、ファシリテーターの新井氏も登壇。直営店の店長や商品開発チームのスタッフ、社員研修の担当スタッフなど、計4名のマザーハウスの社員の紹介があり、新井氏より各自、質問が寄せられました。「山崎さんの印象は?」 「フランクで、当初抱いていた印象とはいい意味でギャップのある方ですね」 「山崎さんは、山口さんと会社で言い合うことがあるの?(笑)」 「以前はすごかったと色んな方から聞いています(笑)」-若いスタッフたちの率直な回答に、参加者たちのあいだではドッと笑いが起きて、よりいっそう和やかなムードに。

後半は、山崎氏と新井氏の対談からスタートしました。「いろんな会社をご覧になられていると思いますが、率直に、マザーハウスのことをどう思いますか?」と山崎氏。「経営は、バランスが欠けていたら、やはり難しいですが、その意味で、山崎さんと山口さんって名コンビだなと思います。想いの部分だけでなく、しっかりと経営のバランスもとっていらっしゃる。特に、山崎さんは数字の語り方が上手いですよね。いかにその数字が自分たちにとって必要なのか。なぜこの売り上げを達成しなくてはいけないのか。どうして利益を出さなくちゃいけないのか。そこに対して、ちゃんと伝えられるところは、他の会社とは全然違いますよ」。

「何度説明してもうまくいかない時期もありましたが、数字を達成していった先に、夢が達成できることがリンクできるかどうかなんですよね。今、一緒にやってきて良かったなと思うのは、"この数字で行くぞ!"っていうと本当にできてくることが増えたんですね。会社として、その共有体験こそが大事。ゴールは数字ではなく、数字だけが一人歩きしてもダメ。その先に何ができるようになるかということを伝えるのはすごく大事です」

「たしかに数字を持たせることには、すごく勇気がいる」と山崎氏は続けます。「店舗が独立採算なので、予算から何から何まで、すべて店長が責任を持っているんですね。数字を持たせないと、数字を扱えるようにはならないというのが持論です」

実際、マザーハウスの社員たちと接したことのある新井氏は次のように語ります。「店長クラスの方々の数字に対する意識がすごくはっきりしていますよね。お店に行くと分かると思いますが、店員さんのレベルに差が感じられない。きちっと商品説明できて、クオリティが担保されているのはさすがだなと。逆にこれから必要になるのは、会社としての規模が次のステージに行く時に、人材育成においてマニュアル化するべきこととそうでないことの定義だと思います。

その辺りが成長に比例して、越えるべきハードルになっていくだろうと。ところで、逆に質問させてください。"この人はこの先ずっとマザーハウスにいるのかな?"と思えてならないのですが、いかがですか?」

「居たいですね!でも、正直なところ、元々は金融に戻るつもりでしたので、長い間、スタッフには"辞めるよ"と口ぐせのように言っていました。ところが、辞めると言っても辞めないので、もう辞めるっていうのを辞めようと(笑)。ここ一年くらいですね、自分は、一生この会社と関わっていくんだろうなと思い始めました。この会社は自分を作ってくれたすべてだし、こんなに素晴らしい会社は作れないなと。この仲間と行くところまで行こうと、思っています」

最後に、新井氏から激励の言葉が贈られました。「マザーハウス、圧倒的に勝って欲しいです。素晴らしい商品をずっと提供し続けてもらって、圧倒的に利益を出して欲しいんですよね。その強さが結果として、他の企業たちもそうありたいと思えるようなきっかけになっていただければと願います」

「クラウド・ファウンディングの現状についてどう思いますか?」 「2人の経営者がいる場合、性格的にも、左脳派、右脳派など、相対する方がうまくいくのでしょうか?」など、参加者からはさまざまな質疑応答が飛び交いましたが、中でも盛り上がったのは、「ナンバー2がナンバーワンを説得するコツは何ですか?」という問いに対する山崎氏の回答でした。

「はっきり言うと、毎日、ずっとそれをやっていますよ(笑)。山口とは学生時代から15年の付き合いですし、昔からよく議論していました。今も、個人的なことも含めて、心が折れてたら、その理由を全部聞き出して、それに対して話し合います。ラッキーなのは、互いにコーチングし合える仲があることですね。お互いが鏡になって経営できます」

大いに盛り上がった2時間、冷めやらぬ興奮が残る会場では、両氏が参加する懇親会が行われました。参加者の方たちの意気揚々とした笑顔は、何よりも、素敵な学びがあった"しるし"でしょう。


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