イベント食農プロジェクト・レポート

農業ビジネスと都市農業の可能性を考える

「第1回東京ファーマーズイノベーション」 2019年10月17日(木) 開催

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10月17日、都市農業をテーマにした「第1回東京ファーマーズイノベーション」が開催されました。これは東京都の「インキュベーションHUB推進プロジェクト」の枠組みで開催されるもので、今年度全4回の予定。農業分野でのイノベーションを推進するのが狙いとなっています。

視点は2つあり、ひとつは本流の「農業ビジネス」の観点。都市農業で、どんなビジネスを発展させることができるのか。東京の生産者と、参加するビジネスマンのセッションで議論していきます。

もうひとつの観点が「都市農業」それ自体の可能性です。2015年の都市農業振興基本法によって、都市の農地は「守るべきもの」となり、2017年の関連法の改正によって、緑地として維持するという方向性が明らかになりました。こうした環境の中で、都市農業をどのように存続させるべきか、多角的な議論をする必要があります。

イベントは2段構成になっており、第一部は有識者による講演。食の未来とビジネスとしての都市農業の可能性を論じます。第二部は都市農業の生産者が登壇し、現状や今後の展望、課題等をプレゼンテーション。理解を深め、個別のケースの問題と課題を参加者、有識者とともに議論します。そして後半は、試食会・交流会を実施。フランクな場で、食事から得られるインスピレーションをもとに議論を交わします。

有識者には、先年開催され話題を呼んだ「大丸有フードイノベーション」でもおなじみの、楠公レストハウス 総料理長・安部憲昭氏と、「日本の御馳走えん」マネージャーの有馬毅氏のお二人。安部氏には第1回の講師も務めていただきます。会全体を通してのファシリテーター、モデレーターは、6次産業化プロデューサーの中村正明氏が務めました。

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本プロジェクトの意義

本プロジェクトの意義

東京都農業振興事務所所長・武田直克氏

冒頭、本イベント主催・エコッツェリア協会の田口真司から、成長期にある東京の農業の可能性に期待するとともに、この企画から新たな食文化を生み出すことにも期待したいと挨拶がありました。

「農業ビジネスを増やすことがひとつの大きなテーマ。ビジネス創発にはいろいろなステージがあるが、ここでは成長期・拡大期のステージの生産者が多いと感じています。この会場である3×3Lab Futureでは、これまでも生産者と消費者をつなぐ取り組みを実施してきましたが、今回は、単に生産―消費という枠組みを超えて、食文化をどう醸成するかということも考えていってほしいと思います」(田口)

もうひとつの重要な視点である「都市農業」については、本イベントに登壇する生産者との連携にも協力している東京都農業振興事務所所長の武田直克氏が、東京の都市農業には「多面的な意義がある」とし、挨拶で次のように述べています。

「多くの人にとって、そもそも東京で農業というイメージがないかもしれません。しかし、今東京で農業をやっている生産者は代々、大消費地・大都市のために生産し続けてきた人たちで、30年前のバブルの時代に農地をなくそうとした動きにも耐えて残ってきた粘り強さもあります。都市農業には、緑地としての機能、癒やし、人々の楽しみなど多面的な意義、価値が見いだされるようになってきました。今後ますます、いろいろな形で大都市にとってなくてはならないものになっていくだろうと思います。今日登壇する生産者の皆さんは、新しいことをやろうと取り組んでいるので、ここ大丸有(大手町・丸の内・有楽町)という東京の中心で、ぜひ力になってほしいと思います」(武田氏)

講演「都市の食のトレンド」――楠公レストハウス総料理長 安部憲昭氏

前半、第一部として、都市の食のトレンドをテーマに、楠公レストハウスの安部氏の講演がありました。ファシリテーターの中村氏からは、「生産者と消費者とも違う、食を提供する外食産業の立場から、現在の東京の食事情を語ってもらいます」と紹介がありました。

安部氏は、東京の外食産業の現状を、「世界的な食の都」と表現しています。

「江戸城下が百万都市に発展し、江戸時代のころから、美味しいもの、いいものだけが集まる有数の都市となってきた歴史的背景があります。現在では、東京で食べられない世界の料理はないというほどに多様な食が発展し、ミシュランの星ももっとも多く付けられています。飲食店の種類、レベル、価格も多様で、まさに世界的な食の都と言えるでしょう」

しかし、それは喜ばしいことばかりではありません。ひとつは、日本中から良いものが集まって成立した食文化のために、東京オリジナルの食文化がないこと。もうひとつは、経営視点からすると他の店との差別化が難しいという問題があるのです。そこで安部さんは、楠公レストハウスで東京の野菜を積極的に取り入れる取り組みを10年前からスタート。当初はさまざまな問題もありましたが、現在では安定した供給を受け、お客様から好評もいただくようになっています。

「江戸野菜が注目を集めるなど、東京の野菜の需要は非常に高いのですが、実は安定した量を供給するのがとても難しいという問題がありました。買い手側の都合に合わせて、『いつ、この野菜を、これだけ揃える』という生産をしていないんです。それで最初は『無理』と断られたんですが、週に1、2回、JAの職員の方に、朝開店と同時に市場に行っていただいて、『その時出ているものを、適宜入手する』という、緩やかな形で始めて、なんとか東京の野菜を手に入れられるようになりました。このように、コンセプトやストーリーを打ち出さないと、お客さまに選んでいただけないのが今の時代なのかなと思います」

「EDO→ECO プロジェクト」のパンフレットを読む参加者また、東京ならでは、皇居外苑ならではの取り組みとして「EDO→ECO プロジェクト」についてもご紹介いただきました。これは江戸の食文化をもとに「江戸」と「エコ」を組み合わせたメニューを提供するもの。行楽弁当の形を取り、江戸時代の調理方法がいかにエコだったか、それを現代で実行するにはどうしたら良いかを伝える冊子とともに提供します。これは、楠公レストハウスが小学校の修学旅行で使われることが多いために、「学びの場にふさわしい食を」という思いと、「江戸時代の食を再現したい」という思いが組み合わせて実現したものだそうです。

「江戸時代の料理は、1600年代の『料理物語』に始まり、100冊くらいの文献が残されていますが、材料は書いてあっても分量が書いてない。紐解くのは大変難しく、江戸時代の"五味五色"(5つの味、5つの調理法を基本とする料理の思想)を守りつつ、現代のさまざまな人に受け入れられるようにアレンジしました」

研究には、東京家政学院大学名誉教授・食文化研究者の江原絢子氏にも協力していただき、1年掛けて開発したそうです。

このほか、中村氏のファシリテーションで、安部氏が手掛けた東京土産『皇居外苑PB商品』や、麹を中心にした調味料研究の様子、そこから発売された酢についてのお話も伺いました。共通しているのは、歴史と伝統を踏まえつつも、大胆にそれを乗り越え、現代にアジャストしていこうという野心的な姿勢。会場からも「商品開発、6次産業化に役立ちそう」という声が聞かれました。

東京・都市農業の旗手のプレゼン

第ニ部は、生産者からのプレゼンテーションです。安部氏が「都内でも抜群の生産者揃い」と評価するみなさんが登場しました。

Base Side Farm(西多摩郡瑞穂町)――デュラント安都江氏

その名の通り、横田基地横にある1200坪の畑でさまざまな野菜を作っています。日本人向けの定番野菜のほか、基地で暮らす米国人向けに洋野菜も栽培。この日は試食用にケール、落花生を提供しています。

試食で提供されたのはケール「夫がオーストラリア人ということもあって、食文化の多様性をテーマに農業に取り組んでいます。珍しい野菜は基地でも喜ばれるし、地元の直売所、仲卸を通じてレストランなどでもご利用いただいています」

また、「幸せの分かち合い」も大切なテーマのひとつ。
「今、うちの農業は、いろいろな人たちに来ていただいて成り立っていると感じています。畑が文化交流の場所になるようにと思い、農業体験などにも取り組んでいます」

矢ケ崎農園(西東京市)――矢ケ崎宏行氏

江戸東京野菜の栽培、1年365日いつも何かしら収穫している、東京都GAP(農業生産工程管理)を取得しているという、非常に特徴のある生産者。2018年は1年で113回種まきをしているそう。3日に1回は種まきをしている計算になります。

矢ケ崎農園からは、定評のあるルッコラが試食に登場。「大体3日で取り切れる量を目安に、細かく切れ目なく種まきをするのがコツ。いつでもなにか穫れている状態を作り、消費者に提供できるようにしています。33年ずっと、そのスタンスでやっています」

江戸東京野菜は、大家・大竹道茂氏(江戸東京・伝統野菜研究会代表)の勧めで手掛けるようになり、2/3の品種を経験したが、東京都GAPを取得した関係で、現在は「ごせき晩生小松菜」「しんとり菜」「あやめ雪かぶ」の3種を中心に栽培しています。他、一般の野菜でルッコラ、パクチーも栽培。

「面白いなーと思ったら何でも挑戦するようにしています」

GAPの取得は「生産者の自衛のため」というスタンスで取り組んでいるとのこと。今後2020年にはHACCPが義務化されるなど、食品衛生のリスク管理はますます厳重化されることは間違いなく、生産者がリスク管理を行うことは、収穫物を確実に販売するために必須のものとなるだろうし、市場競争で優位に立てると見ています。

ファーム渡戸(練馬区)――渡戸秀行氏

江戸東京野菜を中心に、優れた野菜を作ることでよく知られている生産者。今回は、試験的に作付けした「尾島早生」という小麦で作ったうどんを持ち込み、評価を受けるのが狙いだとか。「6次産業化産品が、どういう評価を受けるか見てみたかった」と渡戸氏。

試食は金町小かぶ。貴重な国産小麦粉で製麺したうどんは、交流会で提供された。「都市農業は、消費地に近く、消費者と顔の見える関係を作れるのが強み。うちも畑横に直売所を作って、8割方そこで販売しています。3年前に近くに大手スーパーができた折には、うちの野菜は買ってもらえないと心配していましたが、まずうちに寄って、足りないものをスーパーに買いに行くという人ばかり。来てくれるお客さまには本当に感謝しています」

とはいえ、都市農業は「決して楽なものじゃない」とも。畑は砂埃が舞い上がり、近くの住民からは疎んじられることも少なくありません。「今も残っている農家は、さまざまな摩擦や苦労を頑張って乗り越えてきた人たち」だと話しています。収穫体験にも熱心に取り組んでおり、練馬大根、時季の野菜の収穫を楽しむ人が多く訪れます。

今年、小麦を約15a作付けし、200kgほどの収穫がありました。国産小麦は非常に貴重で、都内の製麺所で小麦の味、香りを楽しめる細めのうどんに加工し、今回も試食に提供しています。

小坂農園(国分寺市)――小坂友儀氏

江戸伝統野菜、カラフル野菜など少量多品種の生産体制、6次産業化への取り組みなど、意欲的な活動を展開しており、よく知られた小坂農園。今回は小坂農園の後継ぎとなる若き友儀氏が登壇。

「学生の頃は陸上で長距離をやっており、スタミナを付けるために高タンパクの野菜を食べていましたが、やっぱりうちの野菜が一番うまい。それは卒業後に行った海外農業研修でも感じたことで、農場の後を継ごうと強く思うきっかけとなりました」

試食にはスティックセニョール(茎ブロッコリー)と、ジンジャーシロップ。ジンジャーシロップは試行錯誤を重ねており、市場ニーズを見据えて甜菜糖で作ったバージョンも登場。海外研修ではバーゼルにほど近いドイツのビンツェンに1年間、「多品種多品目で、すべて挙げるのは大変なほどたくさんの種類の野菜を栽培していた」という農場で経験を積んだそう。

今回は、今後の経営方針をどうするか、アドバイスをもらうために参加したと話しています。

「普通の商談会とは違って、さまざまな業種業界の人がいると聞いたので、今後も少量多品種生産でいいのか、どういう作付けの仕方をしていくのがベストなのか、アドバイスをもらえたらと思う。食以外の関係者からの話にも期待したい」

試食・交流会

イベント後半はコミュニケーションゾーンへと会場を移して、試食・交流会となりました。最初は、各生産者が持ち込んだ生産品を、できるだけその味、風味、素材の良さが分かるような形で提供。参加者が試食し、食材の可能性や、各生産者の課題のヒアリング、解決についての議論などを行いました。どれも特徴のある生産物ばかりで、参加者からは驚きとおいしさへの称賛の声が多く聞かれました。議論では、新たな商品開発の方向性や、流通についての問題など活発に意見交換がなされました。

そしてさらに後半は、お持ちいただいた生産物を使って料理を、お酒とともに提供し、和気あいあいとした雰囲気のなか、親睦を深めました。

最後にご登壇いただいた各生産者の方に、本イベントの感想と期待をお聞きすると、次のようなコメントをいただきました。

試食し、生産者のみなさんと交流する参加者

矢ケ崎氏「しゃべるのは苦手だが、楽しいか・楽しめるかが仕事のスタンス。面白いことが起こればいいなと思って参加しました。若い人が、夢のある農業に取り組めるように後押しできればと思っていて、そのためには売れなきゃいけないし、安全を守り、環境を保全して、持続可能な農業をしなければいけないと思っています。この場が、そうしたことにつながればと願っています」

渡戸氏「参加したのは、6次産業化の品物、うちの生産物を見てもらって、どんなビジネスチャンスが見いだせるかを考えたかったから。野菜を作る人、食べる人がリンクすると、心に残り、東京農業の生産物を買おう、食べようという人が増える。このイベントのような草の根的な活動で生産者のこだわりが伝われば、東京農業の振興につながるだろうし、その意味ではこの会はとても意味のあるものだと思います」

デュラント安都江氏「食に興味のある参加者の方々が多く、ぜひ畑に来ていただければと思いました。個人的には、他の農家の方とお近づきになれたことも良かった点。また、いろいろな業界の方とお話しして、多くの人に知ってもらうことが大事だということ、流通がこれからの課題だということも教えられました」

小坂氏「外に出ていくことが大事だと思っていて、農業以外のさまざまな人の意見を聞けると思って今回参加しました。生姜を使ったシロップも新しいバリエーションを作っている、その反応を確認したいということもある。参加者のみなさんがとてもフランクで、すごく話しやすくて、参考になりました」

試食する安部氏(右)、有馬氏(中)

また、冒頭で挨拶に立った武田氏は、都市農業の可能性について改めて次のように述べ、本イベントへの期待を語りました。

「都市農業には、緑地としての都市環境の保全、体験型の農業などによる教育的価値の側面、消費地に近いことで豊かな食生活を提供するといった多様な機能があると期待されています。パリの市民一人あたりの公園面積は11平米ですが東京は約6平米。しかし、農地を加えれば、パリに匹敵する緑地を持つことになることでも、その価値が分かるでしょう。これまで都市の農地は宅地の予備軍といった位置づけで、あまり重視されていませんでしたが、2015年の都市計画基本法によって都市の農地は『あるべきもの』として認められ、それに向けた法改正も行われてきています(2017年の生産緑地法、都市緑地法の改正)。一方で、生産者にとっては、都市農業が生計の立つものでなければ農地を守ることはできないし、緑地としての保全もできないし後継者も育ちません。

この会は、生産者のビジネスをサポートするものですが、広く、都市農業の支援という観点からも取り組んでいただけると良いかもしれません。そのためには、もう少し具体的なアドバイスをしていただくのも良いですし、登壇する生産者が、どんなことを期待しているか、どんな要望を持っているかを参加者に明示して、今後参加者と生産者のやりとりがもっと活発に行われると良いですね」

ファシリテーター、モデレーターを務めた中村氏は、第1回目となる今回について、次のように話しています。

「都市農業の実践者は、スタートアップというよりは、ミドルステージ以上の相談だったように思います。どういうイノベーションを目指すべきなのか、そこに迷っているというところでしょう。今回は、生産者の方々からいろいろなものを出してもらって、どんな都市ニーズがあるか、生の声を聞いてもらう機会を作ったわけですが、良い交流ができたと思います。一方で、都市の農業の未来を考えるという側面もあります。都市農業はこれからの東京に必要なものとして位置づけられていますが、生産者だけの問題にせず、オフィスワーカーやビジネスマン、住民とどうやって守っていくのかを考える場にできればと思います」


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