シリーズコラム

【コラム】農と食をより深く理解する"MOO&PLANT"

REBIRTH食育研究所・村井康人氏

エコッツェリア協会、3×3Lab Futureは、農と食の問題に深く関わるようになりつつあるが、農業の問題をさらにひとつ深化させて考えると必ず土壌と肥料の問題にたどり着く。日本の耕作地は、世界的にも豊富な土壌微生物を育んでいると言われているが、それは先人たちの優れた知恵に支えられてきたもので、今後も保たれる保証はどこにもない。その問題に、農業-工業、都市-地方という枠組みでアプローチしているのが、有機液肥「MOO&PLANT(ムーアンドプラント)」を製造販売するREBIRTH食育研究所の村井康人氏だ。MOO&PLANTは、酪農からのふん尿を再利用する"6次産業"であり、循環型農業の象徴であり、日本の農業を救う切り札にもなりうる。村井氏から、MOO&PLANTの可能性を聞いた。

食の問題を掘り下げる

-早速なんですが、まず、「MOO&PLANT(ムーアンドプラント)」について教えていただけますか。

はい。MOO&PLANTは乳牛のふん尿から作る完全有機の液肥です。乳牛のふんは85%以上が水分なんですが、そのふんを絞って出た水分と尿をタンクで発酵させて完全熟成させたもの。それがMOO&PLANTです。今、北海道・足寄の酪農家さんのもとにプラントがあり、そこで分離したMOO&PLANTの素を新潟で発酵させています。このプラントは発酵熱が出るために、厳冬期の北海道でも凍りつくことなく、省エネで稼働するというメリットもあります。

嫌気性細菌と好気性細菌がリレーして自然に発酵していくもので、昔ながらの肥溜めと同じような作り方です。あれは十数年かけてじっくりと熟成するものですが、季節や混ぜこむものによって作り方が変わりますから、いいものを作るには技術と経験が必要なんです。現代ではきちんと作れる人はなかなかいないんじゃないかな。MOO&PLANTも窒素、リン、カリウムなどの成分で作る化学肥料とは違って、微生物が豊富ですから、土壌微生物も豊かになるというもの。

MOO&PLANT(提供:REBIRTH食育研究所)

3年寝かせると完全に熟成し、まったくの無臭になります。半年熟成でも若干の匂いが残りますが、農業利用が可能です。これ、ある方からは「ワインの作り方とおなじですね」と言われました。早出しするMOO&PLANTは、さしずめボジョレーのようなもの。じっくり樽で寝かせると芳醇な仕上がりになり、効果も少しずつ変わります。樽を開けるタイミングで、含まれる微生物の種類も少しずつ異なるというのも興味深いものがあります。

農業、園芸・家庭菜園でご利用いただけますが、3年熟成の無臭化したものは都市部のご家庭でお使いの方にはとても喜んでいただけています。農業利用は、そのまま使うこともできますし、堆肥を作るための助剤としてご利用いただくこともありますね。今、「大地を守る会」さんのほか、都市部の園芸店、地方の安心安全な製品を販売している企業やお店でも扱ってくれるようになりました。

肥効ですが、窒素やリンなどの成分はもちろんのこと、先ほども申しましたように、土壌微生物を増加させ、土壌を豊かにする効果があります。道路脇のガッチガチに固まってしまった土でも、MOO&PLANTを使うとふかふかに変わるんですよ。
ただ、こういう効果は科学的に証明が難しいんですね。普通の化学肥料は、成分がはっきりしていますし、それが土壌から植物にどう吸収されていくか、どう影響を与えるか、挙動を追って検証することはできる。しかしMOO&PLANTがもたらす微生物の効果は、挙動や影響が複合的で検証しにくいものなんですね。そもそも土壌微生物量自体、以前は計測することができず、近年になってようやく「SOFIX(ソフィックス)」と呼ばれる技術などで、調べることができるようになったばかり。

MOO&PLANTを施肥した有機JAS栽培米の水田は、虫や病気、台風などにも強かった(提供:REBIRTH食育研究所)

新潟の農家さんにご協力いただいて、MOO&PLANTでお米を作っていただいたところ、おいしいうえに、お米が酸化しにくいという結果が得られました。古米になっても味が落ちないんです。野菜も味が格段に良くなったとか、病気にならなかった。園芸をやっている方からも、植物が元気になった、というお言葉をたくさんいただいています。

ひとつ面白いのは、カブトムシの幼虫を育てている方から寄せられた声でした。カブトムシ愛好家のみなさんは、腐葉土の中で幼虫を育てるそうなんです。しかし、保湿をはじめその管理は大変難しく、状態のよくない腐葉土で育つと成虫になっても体が小さかったりするそうなんですね。それで、その方が幼虫用の腐葉土にMOO&PLANTを使ったところ、「腐葉土から、土の良い香りがするように」なって、幼虫もすくすくと育っているそうなんですよ。

-面白いですね。微生物のレベルで土壌を本来の姿にしてくれる。それがMOO&PLANTなんですね。ところで、そんなMOO&PLANTを手掛けるようになった理由、きっかけは?

はい。実はおじの一人が北海道で乳牛のふん尿処理の設計に携わり、できたのがMOO&PLANTの原料を作るプラントでした。

北海道の酪農で出るふん尿は年間でおよそ1300万トン。膨大な量のふん尿によって、土壌の窒素過多、水質汚染、悪臭問題など、さまざまな被害が発生しています。その解決のためにふん尿の再利用が促進されるようになりました。メタンガスによる再生可能エネルギー利用などが有名ですよね。MOO&PLANTのプラントもその事業の一環で作られたものです。

ふん尿を自然発酵によって再利用ができる。しかも発酵熱によるものなのでコストも少なくて済む。土壌を豊かにし、循環型農業を実現する。おじに誘われて初めてプラントを見学したときには、「これは地球を救うかもしれない」と思いました。

それから、北海道のプラントで処理したものを、新潟でさらに発酵熟成させる体制を整え、少しずつ販売するようになりました。2011年から始め、ようやく今年になって、扱い量を10トンまで増やす予定です。肥料の市場は年間8000万トンと言われていますから、量としては依然として微々たるものです。しかし、だんだん支持してくれる人も増えてきましたし、今後さらに扱う量を増やせるように、移転することも検討しています。

北海道にあるプラント(提供:REBIRTH食育研究所)

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医療から食、そして肥料へ

-もともと村井さんは食に関するジャーナリストでいらっしゃったわけですが。

ジャーナリストになる前は医薬品の仕事をしていました。その当時は、私も「病気は薬で治る」と考えていたんですが、仕事をしている中で、"薬で病気は増えていく"という側面もあることに気付き、結局、健康は生活習慣で守らなければならないし、それは取りも直さず"食"が重要だということだと考えが変わってきたんです。

例えば血液中のコレステロールの数値を改善しようと思えば、ある程度まで薬品でコントロールできるのかもしれませんが、究極的にはどうしても食に目が行かざるを得ないわけです。
そういう分野から、普段の「食べること」を真ん中に据えて子どもたちに伝えていかないと、生活習慣病はなくならないだろうという思いが生まれて、食のジャーナリストとして活動し、食育の講演などを行うようになったんですね。

そうやって食の活動を続けていたのですが、農産物の生産現場に出向く中で、"単に食を変えるだけではダメなのでは"と思うようになってきたんです。最初のきっかけは、「野菜の生産現場でもまた、食と同じような問題が起きている」という気付きでした。

北海道には80万頭以上の乳牛がいると言われている(提供:REBIRTH食育研究所)

それは、野菜もまた、人間が薬を飲むようにして、作られているのではないか、ということです。

大規模な野菜農家では、商品化・商業化に欠かせない「安定収量」、「計画的収穫」を実現するために、例えば大規模なハウス栽培に切り替え、化学肥料を施肥し、F1(品種改良された一代限りの種)の種を使って野菜を作ります。化学肥料を一概に否定するつもりはありませんが、野菜に効果的に栄養を与える反面、土壌微生物に必要な栄養素が欠けているために、土壌がどんどん痩せていく、という側面もあるんです。化学肥料はまさに、野菜にとっての「薬」なんですね。野菜が健康であろうとするならば、薬だけじゃなくて、「食べ物」のことも考えなければならない。MOO&PLANTは、土壌微生物によい「食べ物」を与えるようなものなんです。

最初は、食の問題から肥料に行くなんて自分でも違和感がありましたが、ある大学の先生から「農学はすべてを含む総合学問だ、食べることと作ることを一緒に考えなければいけないものなんだ」と教えていただいてから、私自身、すごく腑に落ちました。

-MOO&PLANTが実現する「循環」とはどのようなものですか。

プッシュタイプは手軽で使いやすい(提供:REBIRTH食育研究所)

まず、100%有機であるという循環性。自然のものを自然に還して肥料として利用しています。

そして、酪農家さんがお金をかけて処理していたふん尿を、MOO&PLANTとして販売することで酪農家さんへ還元されること。

そして、プラントはダウンサイジングが可能なので、いずれ、MOO&PLANTのプラントが日本各地にできたらいいなと思っています。

実はMOO&PLANTに含まれる成分は、乳牛が育つ土地土地によって微妙に異なるようなんです。それはとても素晴らしいことだと思っています。日本各地には伝統野菜がありますよね。あれも、もともとは同じ種類だった野菜が、世代を経てその土地に適した独自の形になったもの。同じように肥料だって、その土地独自のものであったほうが、そこに育つ野菜にとっても良いはずです。日本各地で独自のMOO&PLANTが作られれば、その土地土地にぴったりの循環型農業が生まれるのではないでしょうか。

そしてもうひとつの循環は、都市と地方をつなぐ循環です。MOO&PLANTは、農家の方ばかりではなく、都市で暮らしている方にもご利用いただいていますが、その両方の人たちが、MOO&PLANTを通して近づいてほしい。MOO&PLANTを使っている人は、循環型農業や、土壌微生物のことなどを理解し、理念を共有してくれていると思うんです。MOO&PLANTの安全性や効果についても理解してくれるから、野菜を安心して買えると思います。

最近話題になった、廃棄食品転売の問題がありましたが、ああした食品にまつわる問題の多くが、生産・流通・販売という各段階がバラバラになってしまっていることに起因していると私は思っています。理念や体験を共有すれば、そこがつながります。MOO&PLANTは、その象徴的なアイテムになればと思います。

-今後について、お考えのことがあれば教えて下さい。

MOO&PLANTの利用者からは日々、利用した成果や効果についての声が寄せられている。写真は無農薬のいちご生産者から送られた写真(提供:REBIRTH食育研究所)

まず、扱える量を増やしたいと思っています。今、北海道に気候条件が近い長野県のどこかに拠点を移し、生産体制を拡充することも検討しています。また、MOO&PLANTで作られた野菜を使った加工食品を製品化することも考えています。

普及拡大については、取扱店を増やしたいと思っていますが、カブトムシの例もあるように、食とは違ったところからのお話があるのも面白いところです。例えば住宅関係です。エクステリア(住宅の外構)、造園を扱う建築業関係で需要が高まっていることですね。今、新しく家を建てる施主さんたちの間で、庭をオーガニックで作りたいという意識が増えているそうなんです。化学肥料で育てた芝生で子どもを遊ばせたくない、殺虫剤をまいた草を食べた犬が嘔吐や下痢をした、などなど、現在の庭造りに不満を持った方たち向けにオーガニックの庭を提案したいという施工業者さんたちが集まってMOO&PLANTを応援する「ソルブッフ・クラブ」という団体を結成してくれています。

また、肥料市場で有機質肥料が増加傾向になっていることも追い風になると思っています。大手メーカーでも有機質肥料の製造を始めるなど、全体として、良い方向に動いていることを感じています。
最近感じるのが、若い世代の就農者が増えている中で、有機栽培を志す人も増えているということ。どうやら、そういう人たちは、今の世の中、衛生状態はますます良くなって、食べ物も豊富にあるのに、なぜかアレルギーのような病気はどんどん増えているということに対して、違和感を覚えているようなんですね。そして、直感的に有機農法を選んでいる。つまり、「有機農法で農作物を作りたい」のではなく、「有機農法で健康を作りたい」、そう考えているということです。特に3.11以降、そうしたモチベーションで有機農業に取り組む人々が増えている印象があります。もちろん、そうした人々すべてがMOO&PLANTを使ってくれているわけではありませんが、そこにはこれからの可能性を感じています。

-エコッツェリア、3×3Lab Futureなど都市部との連携で期待することは。

ひとつは、情報発信の部分です。エコッツェリア協会や3×3Lab Futureに集まる人たちに、このMOO&PLANTを知ってもらって、興味を持ってもらうことが、まず最初の一歩かと思います。そして、興味を持った人が、MOO&PLANTを使って、この循環型の暮らし方に参加してくれればうれしいですね。そうした一歩一歩が、大きなムーブメントにつながっていくのだと思います。

そうやってMOO&PLANTに関わる人が増えると、今生産している酪農家の方にとっても大きな励みになるんです。
実は、この酪農家さんは、「酪農やっていても将来がない」と、一時は廃業するつもりになったこともあったそうです。しかし、MOO&PLANTを使ってくれる人がいて、都会の園芸や各地の農業に役立っているということを知ると、「すごくうれしい」と話してくださいました。思わぬ喜びですよね。MOO&PLANTが、酪農を続ける意欲とやる気につながっています。

今、MOO&PLANTは、ビジネスとしても大きく成長するタイミングに来ています。エコッツェリアや3×3Lab Futureを通じて、そんなビジネスの話もできればうれしいです。

村井康人(むらい・やすひと)
REBIRTH食育研究所 代表

大学で環境学を専攻した後、医薬品メーカーで生化学検査導入などに従事。その後「健康」のあり方を考えるため、独立、2000年に出版社REBIRTHを設立、食と食育に関する出版を手掛けるようになる。2008年にREBIRTH食育研究所に改称。2011年から「MOO&PLANT」の製造販売に携わるようになる。現在もMOO&PLANTのほか、執筆業や食育に関する講演も行っている。食生活ジャーナリストの会会員、スローライフ学会会員、サプリメントアドバイザー、新潟県食育推進委員(~2014)、新潟県新潟市食育マイスター、フードバンクにいがた評議員。

MOO&PLANT(REBIRTH食育研究所)

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