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【コラム】日本と海外をつなぐビジネス創発拠点設立へ

インタビュー:GLOBAL LABO設立発起人 板越ジョージさん

世界有数のオープンイノベーション大国・アメリカ。そのアメリカ、ニューヨークで、日本人を対象にしたビジネス創発の「場」が設立される。クラウドファンディング「Makuake」でスタートアップ資金を募り、わずか開始4時間で目標額に達し話題になった「GLOBAL LABO」だ。発起人は長年ニューヨークでビジネスに携わってきた板越ジョージさん。2002年からは「NY異業種交流会」を開催し続けるなど、長年人と人、コミュニティとコミュニティをつなぐ活動を続けてきた人物である。

日本でも、世界を舞台にビジネスを創発しようとする機運は高まりを見せつつある。GLOBAL LABOは、3×3Laboとの提携も決め、日本から世界へ、世界から日本へと新しいフィールドを切り開こうとする人々に向けて大きく間口を開けようとしている。今回は、GLOBAL LABO設立に向けて一時帰国した板越ジョージさんに緊急インタビュー。GLOBAL LABOの可能性について、また、近著『クラウドファンディングで夢をかなえる本』についてお話を伺った。

ニューヨークに日本人の活動拠点を

-「GLOBAL LABO」のような海外拠点を待ち望んでいた人は多いと思います。今回はまずGLOBAL LABO設立の経緯を教えてください。

GLOBAL LABOの前に、私が2002年から開催している「NY異業種交流会」についてお話ししたほうが良いでしょう。私が渡米したのは1988年ですが、ニューヨークには日系人や、日本びいきのアメリカ人のコミュニティはあったものの、私のような日本から飛び出してアメリカに根付こうとする人のためのコミュニティはありませんでした。そのことを痛切に感じたのが「9.11」です。テロ発生直後から日本人の安否確認が行われましたが、それはあくまでも駐在員を中心としたもので、私たちのような人間は対象にならなかったんです。悪い言い方をすれば、ニューヨークは駐在員の街であり、現地で活躍しようとする日本人とは明確な格差がありました。そのため、私たちのような日本人が集まれる場所を作りたくてNY異業種交流会を開催するようになったんです。同時にニューヨーク初の日本人向けフリーペーパー『アメリカン★ドリーム』も創刊、頑張る日本人を応援するようになりました。おかげさまで月1回の交流会も先日139回目を開催することができました。交流会をベースに、リトルイタリーのような日本人街ができたらということも考えて、2008年にNPO法人化、2011年には5番街に「JaNet会館」を設立しました。

第137回NY異業種交流会の様子

このように、交流会、会館はもともとは、在米日本人同士の交流を目的として設立したものですが、最近になって、アメリカでの起業を考えている人、アメリカで一旗揚げて箔を付けたいと考えるアーティストやクリエイターといった人がどんどん増えてきました。私が渡米した27年前なんて、ビザもしっかり取らなきゃいけなかったし、渡米時にはみんな総出で送り出してくれたほど、大げさなことだったわけですが、最近は3カ月まではビザも不要ですし、渡米することなんてすっかりカジュアルになりました。異業種交流会は東京でも開催しているのですが、そこでもニューヨークに行きたいです、という方がものすごく増えてきたんです。

そこで考えたのが、「ニューヨークに日本人が集まる場所を作ろう」というミッションはコンプリートできただろうと。じゃあ、次に「日本から出て海外進出したい日本人を応援する」というミッションを手掛けようということだったんです。それがGLOBAL LABO設立のきっかけです。ちょうどJaNet会館が入っていた建物が再開発のために移転を余儀なくされたこともあり、改めて日本からの受け入れ拠点として設立することになりました。

-ビジネスを始める人を対象にしているということでしょうか。

明確なビジネスマインドを持ち、行動に移したい人には、進出のお手伝い、プロデュース的な役割を果たします。コ・ワーキングスペースだけ作っても、立ち寄っただけで終わってしまいますから、具体的にビジネスアウトするための土壌を作り、背中を押してあげることをします。日本でいう司法書士のような役割を果たすこともあります。アメリカでは、起業の際にビジネスコンサルタントに依頼して体裁を整える必要があるのですが、まれにぼったくりのような目に遭うこともあります。それを防ぎたいという思いもありますね。
その一方で、漠然と、やみくもにアメリカに行きたい、ニューヨークで仕事をしたい、と考えている人も大勢いらっしゃいますし、それを否むものではありません。もちろん憧れだけでビジネスはできません。しかし、もし本当に何かやりたいのなら、まずはニューヨークでゆるくつながりを持ちながら、ネットワークを作り、お互いに理解を深めて、それでも本気でやりたい、となったらお手伝いしましょう、というスタンスです。

日本から世界へ、世界から日本へ

GLOBAL LABOのイメージ図

-3×3Laboとの提携も決まったそうですね。提携の理由は何ですか。

いくつか理由があります。まず、場の趣旨や目的性が共通していることですね。3×3Laboも、ゆるやかな人のつながりを作り、ビジネス創発の土壌を作ろうとしていると伺いました。人と人のつながりばかりではなく、さまざまな目的を持ったコミュニティが集まる場になっている点もいいですよね。私も、ニューヨークで異業種交流会とは別に、さまざまなコミュニティを作ってきました。飲食店を経営する人たちとの「NY飲食経営の会」とか、フォトグラファー、ライターなどを募った「NYクリエイターの会」ですとか、起業関連のコミュニティも立ち上げています。GLOBAL LABOはそんなさまざまなコミュニティがゆるやかにつながる場にもしたいと考えています。この点、3×3Laboさんと非常に考え方が近いと感じています。具体的には、相互支援という形でそれぞれの利用者が双方の施設を使えるようにする予定です。

また、アメリカで成功した人の多くが、「日本に進出したい」と考えるようになることも、日本側の拠点を持ちたかった理由のひとつです。アメリカで成功しても日本ではネットワークがない。そういう人に、3×3Laboなどの拠点を足掛かりに、日本での活動を広げてほしい。3×3Laboが「大丸有」という日本のビジネスの中心地であることは大きなメリットであると思います。海外でどんなに成功していても、いきなり大手企業に相談に行っても相手にしてもらえることはまずありません。3×3Laboをネットワークの起点にすることで、大手も巻き込んだ日本進出の可能性が開けるのではないかと期待しています。

-中小企業基盤整備機構(中小機構)のTIP*Sとの親和性もありそうですね。

おっしゃる通り、日本中の中小企業とつながりがありますから、これはすごく期待しています。今のところ具体的な活動プランはまだ計画中ではありますが、いずれ3×3Laboとの提携を進める中で、TIP*Sとも良い関係を作れたらと考えています。

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大切なのは「気持ち」

「使命感」と実現のための「戦略」

-スタートアップはクラウドファンディングですし、GLOBAL LABO自体に高い収益性があるわけでもありませんよね。

そうですね、最低限赤字にならないように、ということしか考えていません。私自身が儲けたくてやっていることではありませんから。私はもともと「いい人」ではなくて、むしろ周りの人に迷惑ばかりかけて生きてきた人間です。その恩返しをしなくてはという思いがあります。起業のお手伝いをするのも、私は「コンサルティング」という言葉は使いたくない。コンサルとは仕事であって、お金を払いさえすれば、仕事として何でもやるということになりますが、私は気概にほれ込んだ人のお手伝いしかしたくないんです。だからその費用も最低限しかいただかないことにしています。結局のところ、これからの社会では、「会社で働く」というような、社会参加の形態が変わっていくのだろうと私は思っています。ソーシャルネットワークによって人と人がつながり、さまざまなコミュニティができ、「コミュニティに属している」という意識がとても大切になっていく。デジタル化が進むからこそ、逆に直接会うリアルなコミュニティと対話が重要になっていくだろうと。私がやりたいのはそういうことで、フリーペーパーを作ったり、交流会を開いたり、GLOBAL LABOを立ち上げたのもそれを目指してのことです。

また、これは"私にしかできない"という「使命感」のようなものがあります。私は1995年にインターネットの黎明期にビジネスを立ち上げて成功し、贅の極みも尽くしたし、その後ネットバブルの崩壊や9.11のあおりをくらって膨大な借金を背負い、どん底まで落ちたこともありました。自分で何かをやったりビジネスを興すというのは、もうさんざんやってきたので、もうそれはいい。それよりも、良いことも悪いこともやりつくした僕だからこそできること、いや、私でなきゃできないことがあるだろうと思うんです。ポジション=使命感なんですよね。

ちなみに、クラウドファンディングで資金を募って初日で目標額に、翌日には倍額に達したのは、まさに"教科書通り"のことでした。今、大学院で戦略経営の研究もしているのですが、その成果の一部として出版したのが『クラウドファンディングで夢をかなえる本』(ダイヤモンド社)です。今回のクラウドファンディングでは、この本で著した内容がいかんなく実証できたと感じています。

板越ジョージ著『クラウドファンディングで夢をかなえる本』(ダイヤモンド社)-確かに実務レベルでのクラウドファンディングのノウハウ、ハウツーを記した本はこれまでありませんでした。

これは前著『結局、日本のアニメ、マンガは儲かっているのか?』(ディスカヴァー携書)の末尾を受けて企画、執筆したものです。前著の末尾で、これからのコンテンツ産業では、クリエイター養成が必須の課題だが、そのための資金調達としてクラウドファンディングがあると締めました。そこを深く掘り下げたのが本書です。執筆に当たっては、出版社の編集者と相当にやり合いました。まさに戦い。最初に徹底して行ったのが、構成、章立てです。編集者から「原稿なんてすぐ書けるでしょう」と言われ、これを半年以上かけてじっくりと検証を繰り返しました。この編集者がものすごく"見せ方"にもこだわっており、章ごとに、文章を読まなくても要点が分かる図説やチャートを入れたり、章の末尾には要点を書きだした表を作るようなこともしています。研究職にある身としては、あまり軽い内容に見られるのはためらわれるところもあったのですが、結局のところ書籍も多くの人に読んでもらって初めて意味があるものです。その点、今回はアンケート、マーケティングから献本、アウトプットまで、徹底して戦略的に進めることができました。

-そこまで戦略的なのはなぜなのでしょうか。

私は、大きな目標を達成するために5つの段階があると考えています。「大目標」があり、それを実現するための「目的」があり、目的を達成するための「戦略」があって、その戦略を遂行するために個別の「戦術」がある。そしてその戦術のもと、実際に「戦う」わけです。大目標とは「夢」と言い換えてもいいかもしれない。私が持っている大目標、夢は「もっと良い社会にしたい」ということ。私が今している活動は、すべてその夢につながるものです。異業種交流会を開催し、フリーぺーパーを出し続けていたのもそうですし、GLOBAL LABOを設立したのもそうです。2009年に日本の大学院に入り、来年の3月には博士課程も修了しますが、それもその夢を実現する一部。出版しているのだって、本を出すことが目的なのではなく、より多くの人に読んでもらって、夢の実現に近づけたいからです。つまり、大きな目標に向けて、これをやれば勝てる、という道筋が見えているのだから、それをひとつひとつキチンとやろうということです。フェイスブックやメルマガをよくまあ、こまめにやるよね、と言われますが、それも夢の実現のためにやっていることです。

あなたは「覚悟」を決めているか?

NY異業種交流会in東京の様子(第45回)

-そうは言っても、それを徹底してやるのが難しい。

私からすると、逆になぜそれをやらないのかがわからない。知人のアスリート――ゴルフ選手ですが、たかが止まっているボールを打つのに苦労するが、うまく打つためには素振りをするしかない、それをやるか、やらないかしかないと言っています。私が渡米するときにも、うらやましがる友達はたくさんいて「でも俺長男だから」「お金ないしなあ」とか言うんですね。でも私に言わせればそれは言い訳でしかない。お金がないなら稼げばいい。私だってアメリカの大学に通いながら、時折日本に帰ってきてバイク便で稼ぐ生活を繰り返しましたし、今だって、大学院の学費は全額奨学金を取っています。結局のところ、目標が決まっているかどうか、その目標に対して使命感を感じ、覚悟を決めているかどうか。私が応援したいと思うのも、そうやって覚悟を決めて、肚が据わった人なんです。

-今、ビジネス創発では「拠点」や「場」が議論の中心になりがちですが、やはり一番大切なのは人の気持ち、「覚悟」なんですね。しかし、そうした「覚悟」は培われるものなんでしょうか。

もちろんですとも。そのために「場」があり、つながりがあるんです。コミュニティというのは、類は友を呼ぶといいますか、主催者や中心メンバーの気質に近い人が自然と集まるようになります。異業種交流会も、私は裏方に徹していますが、面白い人がいっぱい集まってきます。そういう人たちと触れ合うことで、アイデアも出てくるだろうし、本当にやりたいという腹も決まるはず。3×3Laboもそういう場なんだと思います。GLOBAL LABOもそういう場になるようにするつもりです。興味を感じてくれた方は、ぜひGLOBAL LABOに参加してみてください。また、東京でも定期的にNY異業種交流会を開催しているので、いきなりニューヨークは......という方は、まずそちらから覗いてみてはいかがでしょうか。
今、私は大学で研究員として研究もしている身ですが、これは宮本武蔵が『五輪の書』を書いているようなものかなあと思っています(笑)。私が培ってきたビジネスの知恵や経験をできるだけ多くの人に伝えたい。それが、私自身の夢の実現にもつながる。そう考えて頑張っていきたいと思います。

板越ジョージ(いたごし・じょーじ)
GLOBAL LABO設立発起人

1968年東京生まれ。12歳でジャニーズJrに所属。高校卒業後、バイク便で留学費を稼ぎ、1988に渡米。サウスカロライナ大学国際政治学部卒業。1995年にNYで起業。ネットバブルに乗じて、上場目前まで行くも、9.11テロの影響で倒産。その後、在ニューヨーク日本人のコミュニティ「NY異業種交流会」を設立(2008年にNPO法人化)、日本人の海外進出のコンサルティング業務を手掛ける。2009年中央大学大学院戦略経営研究科に入学、2011年に修了、MBAを取得。現在は中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程在学中。在NY日本国総領事館海外安全対策連絡協議会委員、坂本龍馬財団理事。『クラウドファンディングで夢をかなえる本』(ダイヤモンド社)『結局、日本のアニメ、マンガは儲かっているのか?』(ディスカヴァー携書)など著書多数。

GLOBAL LABO

GLOBAL LABO(Makuake内)
NY異業種交流会
『クラウドファンディングで夢をかなえる本』(ダイヤモンド社)

『クラウドファンディングで夢をかなえる本』(amazon)

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