シリーズコラム

【Inside/Outside】 ポートランドはまだ流行っていますか

#2 世界中から注目を集めた地方都市・ポートランド

シリーズコラム 「Inside/Outside」
丸の内エリアのPRを担当しながら、米国・ポートランドやデンマーク・コペンハーゲンでも活動をするクリエイティブディレクター・宇田川裕喜が、海外で仕事をする中で見つけた未来をつくるビジネスの種となる新しい動きや考え方を、現場目線でご紹介する。
第二回目は、世界中から注目を集めた地方都市・ポートランドをテーマにお伝えします。


東京一極集中の改善策として、地方創生が掲げられたのは2014年。国を挙げて日本各地での取り組みが推進される一方で、5年目を迎えるいま、均質化された施策内容や東京への人口流出など未ださまざまな課題が指摘されている現状だ。

地方創生が叫ばれはじめた頃、先進事例として注目を集めた米国の地方都市・ポートランドは、市民参加型や環境に配慮した独自の都市開発によって発展を見せたが、世界的なブームの中で急激な人口増加や従来のコミュニティ消滅など、新たな問題に直面しているという。
この成功は問題を生み、またその問題がイノベーションを生む。地方創生にゴールはあるのだろうか。
成功に潜む影と街の持続可能性を探るべく、ポートランドの現状に迫る。

ポートランドはまだ流行っていますか

ここ数年はこんな質問をよく受ける。2010年代前半の日本のファッション、商業開発、都市計画、そして地域活性化の各分野で大ブームになったのが、米国北西部・オレゴン州の都市ポートランド。米国の地方都市がこれだけの分野を横断して一斉に話題になることは歴史上初めてのことのはずだ。事実、日本でも「ポートランドの次はどこでしょうね」なんて話はよく聞くし、米国でも「ミネアポリス...いやバッファローじゃないか」なんて冗談も聞いた。

筆者が通いはじめた2011年頃は、まさに発展が大きく花を咲かせはじめた時期にあたる。同市中心部の北西部、再開発地区のパール地区にはお洒落なレストランや雑貨店が続々とオープンし、地元発のスーパーマーケットの店頭には、地元産のクラフトフードが地元デザイナーによる個性的なパッケージに包まれて並んだ。個性的な風貌や自然志向とリベラルな価値観を持つヒップスターと呼ばれる若者が注目されたのもこの頃だ。テレビではポートランドのヒップスター文化と偏屈な人々を描いたドラマ「ポートランディア」が大人気に。全米が、世界が、ポートランドに注目しはじめた。それでもまだまだ農業州であるオレゴンの牧歌的な空気はしっかりあり、「日本人に会うのは初めてだ」なんておどける人も多くいたのがその頃だ。

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ポートランドは、まだそこにある。

ポートランドは、まだそこにある。

ポートランドの発展は経済、文化各方面で同時多発的、いや強く関連して起こった。街中ではジェントリフィケーションと呼ばれる変化が街の姿かたちを変えた。ジェントリフィケーションとは、地域の活性化であるし、地域の転換でもある。地価の安いエリアに、新しい価値観をもった若い裕福な層が注目するような動きが起こり、経済的な発展を果たすことを指す言葉だ。

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たとえば、夜ひとりで歩くのが憚られるようなエリアの廃ビルで前衛的なアーティストがインスタレーションや展示を行う。それが話題になる。人の流れができて、注目のお店ができる。まだ家賃は安いから、実験的なコンセプトのお店ができやすく若い人の参入が相次ぐ。予算は多くないから既存の建物を利用し、古さをポジティブに捉えた改装だ。それがまた魅力になる。そうすると居住エリアとしても注目される。ちょっと不便でも、安くて気の利いた店がいくつかあると既存の価値観にとらわれない、クリエイティブな若者が引っ越してくる。賃貸市場としても注目されていなかったようなエリアの家賃が上がりはじめる。ここまで来ればコンサバティブな人たちの耳目を集める。雑誌では特集が組まれる。テレビの取材が相次ぐ。SNSで頻繁に話題になる。住環境としての人気は、うなぎのぼりになる。そして家賃は上がり、人口は増え、環境が変わっていく。

これは今の東京でも起こっていて、昔では下北沢や吉祥寺で、最近では清澄白河や蔵前だ。ソウルでは町工場の密集地で、コペンハーゲンでは娼屈で、若者たちが古い倉庫や工場をリノベーションし、斬新な店舗、オフィス、住居を生み出し、人気のエリアをつくりあげた。このうねりは大企業にコントロールされるでもなく、価値観の変化の連鎖によって起こる。
外から見ていればいいことずくめに思える。人が増えて、経済はまわり、税収があがる。生活の質が改善される。観光客もやってくる。魅力のある街だ。

しかし一方で、従来からの住民にとってはそうとも限らない。人気と一緒に、家賃は急激にあがる。これは住宅に限らず店舗でも起こる。道路は渋滞し、街の顔なじみは見かけなくなっていく。
これは活性化の負の側面でもあるし、米国においては人種間の問題とも混ざり合い、複雑化する。ジェントリフィケーションは白人層が有色人種コミュニティのあったところに流れ込むといっても齟齬がない。事実、ポートランド北西部、工業地帯から住居・オフィス・商業のミクストユーズのエリアリノベーションの事例としても明快であるパール地区の住人のほとんどは白人だ。当地の先進的な町会においても人種的単一性は、繰り返し重要課題として議論されてきたという。リベラルな民主党支持層が多くいる街で、人種的分断は回避すべきという信条を持つ人は多い。
高級コンドミニアムを中心に集合住宅がならぶ同地区では総住戸数のうち一定の割合を低所得者向け住宅とするようになっており、分断を避けるような仕組みはある。それでも問題は起こっている。

サンフランシスコ的な新住民たち

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ポートランドでは、ヒッピームーブメントの頃よりサンフランシスコと並んでLGBTに寛容な気風があり、それが新鮮な文化が生まれる土壌になった。クリエイティブな感性を持つ人が多く、それがスポーツやデザイン分野の産業が育つ下地にもなった。「ゴールドラッシュの頃、ヨーロッパからの移民のうちお金に目がくらんだ人はカリフォルニアの近郊へ、森に惚れ込んだ人はオレゴンに残った」なんてジョークがあるが、似ていてもちょっと気性が違うのがオレゴンとカリフォリニアだ。

今、ポートランドにはサンフランシスコから企業の拠点進出が相次いでいる。アマゾンの第2本社の誘致合戦には破れたものの、エアビーアンドビー、フェイスブック、グーグル、アンダーアーマーなど大企業だけでなくスタートアップ企業の進出も盛んだ。筆者にもサンフランシスコのスタートアップ企業の経営者の方々から問い合わせをいただく。多くの場合、住環境についての優先順位が高いようだ。シリコンバレーの大発展によるサンフランシスコベイエリアの住環境を巡る問題は、それほど深刻なのだ。1000万円以上の年収があっても苦しい住宅事情、郊外に引越そうにも東京に勝るとも劣らない通勤環境、切れ目なき大渋滞。世界一優秀な人材が集う都市ではあるものの、そのQOLに悲鳴をあげて新天地を求める企業や個人が増加している。

ポートランドの友人と食事をしていても、サンフランシスコから引っ越してきた友人を紹介されることが増えた。「ポートランドはどう?」と聞くとこう返ってくる。
「最高!給料は変わらないけど、家賃が1/3になったんだ!」

そんなポートランドでも毎週500人以上とも言われる人口増加により、急激な家賃上昇と住宅開発につながっている。1軒分だった土地には3軒の小さな家が新築されることもあるほど。
昨年エアビーアンドビー経由で泊まったお宅は新しく開発されたN. Williams St. エリアにある瀟洒な一軒家だった。ホストの方はサンフランシスコで育って、IT企業のストックオプションで資産を築いて、今はポートランドで暮らしているそう。やはりサンフランシスコは古くから住んでいる方にとっても住みづらくなっているようだった。そして現在暮らしているポートランドにも、ジェントリフィケーションの玉突き現象が起こっている。

しかし、ジェントリフィケーションによる旧来のコミュニティの消滅への対策は学問的に研究され、法や税による防止策の案が出てきている。都市の再開発や地域活性化の先にある課題に力が注がれはじめているのだ。

そこにあるポートランドで見聞きするべき物事

ポートランドはまだそこにあるし、今でも素晴らしい街だという人が多い。たしかに友人も、会社も、店も、随分いなくなった。(これは日本のように首都圏集中型ではない移動、転職の流動性が高い国民性の違いからでもある)
たしかにいなくなる人も多いが、ポートランドには、新しい人や店がやってきた。70年代から再興への動きがはじまり、40年を経て花咲いた都市がこの10年のうちに直面している課題。ここに多くのヒントがあると思う。競争が激化し、厳しい状況を生き抜いている人、事業が、ポートランドにある。そこにあるどころか他州に、海外に展開している。

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例えば牧師のNat Westがはじめたハードサイダー醸造所、REVERED NAT'Sはハードサイダーが認識されていない状況から事業をはじめ、ポートランドにハードサイダー市場を築いてきた。コツコツと試飲会を繰り返して新しい飲み物の分野を10年以上かけて切り拓いてきた。工場は大きくなり、今や、日本のスーパーマーケットでも買うことができるまでになった。そのREVERED NAT'Sも参加した2018年春に開催されたFuji to Hoodでは、多くの新興クラフトビールメーカーが、日本の新興メーカーとのコラボレーションビールを開発し、当地で大好評のイベントとなった。その創発の熱は今年も続いていて今年は6月8、9日に東京で開催される。
その動きを後押しするオレゴン州農政局と食品分野に強いオレゴン州立大学ではオレゴンフードイノベーションセンターを開いて、門戸を世界中の食品メーカーに開放しようとしている。米国においてトップクラスのリベラルさをもつポートランド市民の舌や眼をサンプルに、新商品の試験ができるプログラムを提供しはじめようとしている。日本の地域発の食品の米国デビューのハードルが下がろうとしている。

食の分野での交流は、流行から1歩抜けた段階、共創や協業の段階に来ている。ポートランド発の紅茶やビールは、コンビニエンスストアの店頭に並び、日常的なものになろうとしている。
都市計画や街づくりの分野でも少しずつ実績が広がってきた。首都圏でも地方でも、ポートランド発の都市計画家が活躍している。彼らが目指すのは開発のコピーアンドペーストではないから、彼らの仕事が「ポートランド式○○」のように喧伝されることはない。

冒頭の質問に応えるとすれば、もう流行ってはいないと思う。流行のその次の段階にあるのだ。ニューヨークやサンフランシスコ、ロンドン、パリと同じように常に渦を巻き起こすような場所になりつつある。でもそれらの大都市ほど混沌とはしていない。まだ家賃はシアトルやサンフランシスコよりも安いし、風変わりなものも次々に発明されている。競争は激しくなり、次の景気の波を予感してか新しい展開を模索する動きも日に日に大きくなっている。他州から移住してくる日本人の起業家も増えてきている。日本に住む我々にとっても、見に行って情報を得る街から、協業をはじめやすい街になろうとしている。

宇田川裕喜(うだがわ・ゆうき)
株式会社バウム 代表取締役

東京都生まれ。一行の文章も商品も街も、人が関わる「場」だと捉えてブランディングやデザインを行う。2012年より米国・ポートランド、2016年からデンマーク・コペンハーゲンでも活動を開始。西海岸的な未来志向な仕事の進め方、北欧的な生活文化の価値観をもって、関わる仕事においては経済価値、個人益、社会益の鼎立を目指すのが信条。 主な仕事に街づくり「大手町・丸の内・有楽町エリア」、市民大学「丸の内朝大学」、街ブランディング「ポートランド」、コーヒー「Coffee Wrights」、アート展「BENTO おべんとう展 ―食べる・集う・つながるデザイン」、果実酒「サノバスミス ハードサイダー」、スポーツ用具「MIZUNO MADE IN JAPAN」「MIZUNO 1906」、イベント「小屋フェス」、キャンプ場「Hytter Lodge&Cabins」、書籍「発酵文化人類学」。

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