シリーズコラム

【Inside/Outside】観光の終焉を宣言したコペンハーゲンの歩き方

#3 一時的市民として体験するコペンハーゲン

シリーズコラム 「Inside/Outside」
丸の内エリアのPRを担当しながら、米国・ポートランドやデンマーク・コペンハーゲンでも活動をするクリエイティブディレクター・宇田川裕喜が、海外で仕事をする中で見つけた未来をつくるビジネスの種となる新しい動きや考え方を、現場目線でご紹介する。
第三回目は、一時的市民として体験するコペンハーゲンをテーマにお伝えします。


訪日外国人旅行者が初めて3000万人を突破した2018年。2016年に政府が策定した『明日の日本を支える観光ビジョン』において掲げられた、「2020年、訪日外国人旅行者を4000万人に」という目標に向けて大きな弾みとなった。

この節目となる目標まで残すところ1年となった今、あらゆる施策が急速に進められている。今後1年の行動計画をまとめた「観光ビジョンプログラム」が示すところでは、魅力ある公的施設やインフラのさらなる公開・開放、文化財の多言語解説の充実、欧米豪を中心とするグローバルキャンペーンの推進、地域のDMOの育成強化など、多角的な施策が張り巡らされている。さらに2030年には訪日外国人旅行者6000万人を目指しており、今後も加速が進むことが予想される中で、「訪日」という括りに含まれる日本の各地域では、それぞれの戦略と成果がこれまで以上に求められているだろう。
こうした「観光先進国」の実現に向けたシビアな動きの中で、各地域において観光促進の取り組みをどのように考えれば良いのだろうか。

2017年に新しい観光促進戦略を発表し、注目を集めたデンマーク・コペンハーゲン。小国の小規模な首都だからこそ生まれたアイデアから、これからの観光のあり方を探る。

「観光の終焉」を宣言

2年前、大胆な言葉選びで新しい戦略を発表したデンマークのコペンハーゲン市のDMO(Destination Management Organization)。
英語で45ページにわたる宣言は、「"観光時代"に別れを告げて新たな時代を築きます。2020年、その先に向けて」の一文からはじまり、観光マーケティング担当であるはずの彼ら自己批判的な内容を交えてリズミカルに展開される。

  • ・観光客として扱われたい観光客は激減した
  • ・観光客は一時的な市民として接するべき、コミュニティに貢献できるはずであり、それがきっと魅力になる
  • ・コペンハーゲン市民の生活こそが観光資源
  • ・リトルマーメイドはなにも気持ち的なつながりを生まないが、市民は生んでいる
  • ・マスメディアでキャッチコピーを届けることより、市民ひとりひとりからストーリーが伝わっていくことが大切
  • ・ひとりひとりの体験が伝わっていくことがコペンハーゲンのブランディングの成功指標となる

内容としてはSNS時代を前提としたブランディング理論に基づいていて、先進的な街では他でも語られていそうな内容であるものの、メッセージ性が強く、これ自体がしっかりと目的地としてのブランディングになっている。

小さすぎる人魚像、高すぎる物価、休業期の長いチボリ公園、単調な料理といった10年ほど前までにデンマーク観光をした人なら誰しも抱いた印象は変わりつつある。Nomaをはじめ世界をリードするレストランが次々登場し、街には若い人がはじめた気の利いたカフェや雑貨店がどんどん増えている。しかし、いわゆる「観光」の視点で見たときに競争力のある街であるかと言われると、やはりロンドンやパリには見劣りしてしまう。ショッピングをしようにも市内のデパートとショッピングモールをあわせても大きな施設は4~5軒しかなく、話題の先進的なレストランを除くと旧態依然とした食環境であり、観光名所も少ない。冒頭で紹介している宣言はつまり、「その軸では、もう競争しません」という宣言でもあるはずだ。
ではそのコペンハーゲンでいま見るべきもの、いやDMOの言葉を借りれば"一時的市民として、いま体験すべきこと"とは。数年前からはじめた二拠点生活での経験から7つ挙げてみる。


1.コミュニティディナーでコミュニティの一員に

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これはどの都市にいっても最も難しそうな体験だが、コペンハーゲンでは体験できる。たとえばヴェスタブロ地区の使われなくなった教会をリノベーションした多目的施設Folkehuset Absalonでは毎日午後6時からコミュニティディナーがある。これは時間厳守で、大皿で提供される料理はあっという間に各自に取り分けられるから遅刻はできない。そもそも大人気で毎日満員なので早めの時間から待っていないといけない。大テーブルに着いた順番に座る。料理をとりわけながら自然に会話が生まれる。ある時、若いアメリカ人の高校生が同じテーブルにいた。ケータイばかりみて、ちょっと話かけづらい感じの子。同じテーブルにいた白髪の女性二人組は、構わずどんどん質問する。どこから来たの、何の勉強をしているの、彼女はいるの。実はデンマーク人は、我々日本人が抱くような陽気で気さくな欧米人という印象の人は多くなくて、どちらかと言うと物静かな人が多いからこの会話もとても落ち着いた感じで進んでいる。食事が終わる頃にはこの高校生もすっかり打ち解けた。1時間ちょっとの間だけれど、確かにこのコミュニティに一時的に参加している感覚になる。

■Folkehuset Absalon


2.自転車生活

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ありきたりのようだがコペンハーゲンの暮らしの魅力はこれが大きい。自転車専用道路は世界のどの都市よりも発達しており、市内の一部に通っている高速自転車道路の気持ちよさは特筆すべきだろう。観光客で混雑する中心部を除けば、ストレスなく移動でき、ニューヨークやロンドンのように自動車に殺されかけるようなこともない。市民の40%以上が自転車通勤をすると言われているが体感値もやはり高い。カジュアルな服装の職業でない人も多く自転車通勤をしている様子が見られる。これは同国では自動車には100%の税金がかかることが大きい。所得に50%〜60%の税金がかかった上でのその負担なので、地価の高い都市部での維持費を考えると自動車はとても贅沢で非効率なものになる。
公式に提供されるシェアサイクルもいいが、市民感覚を得るには街角の自転車店で現地の人が乗るような自転車を借りたい。

■Baisikeli


3.キャッシュレス生活

二拠点生活をはじめて3年、現金を銀行で下ろしたことがほとんどない。100円くらいの買い物でもすべてクレジットカードか同国独自の決済システムモバイルペイ。2013年の導入以来、爆発的に普及し、街角の屋台やストリートミュージシャンへのチップに至るまですべてキャッシュレス。これは増税後の日本でも一気に進むと予想されているが、ひとまず先に体験しておきたい感覚だ。

■Mobile Pay
※本稿執筆時点では日本発行のクレジットカードからは登録できない


4.コペンハーゲン運河での遊泳

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コペンハーゲンの中心部は川のように見える運河が流れている。他の大都市同様、かつては汚染されていたものの、浄化が進んで泳げるレベルまでになった。夏の運河沿いには遊泳スペースが登場する。多くの人が行き交う都心部で泳ぐのはなんとも不思議な体験だが、SUPやカヤックを楽しむ人にまじって水の中から眺める街はなかなか新しい気づきがある。夏の街中で遊泳なんて騒がしい若者ばかりのような印象を抱くが、なかなかどうして落ち着いた人が多い。大人も子供も、おじいさんもおばあさんも、障害を抱えた人もみんな楽しく泳いでいる。世界的建築家ビャルケ・インゲルス率いるBIGがデザインしたHavnebadet Islands Bryggeは運河の上に浮かぶスイミングプールでその美しさも相まって地元でも人気。冬場は会員専用のサウナクラブになるが毎年2月~3月頃には非会員も参加できるサウナイベントが開かれ大変な賑わいになる。

■Havnebadet Islands Brygge


5.ダークトーンのコーディネート

市民として街にダイブする感覚を得るとしたらドレスコードは大切だ。コペンハーゲンのドレスコードは簡単。黒、グレー、ネイビー、ブラウン。多くの人が、信じられないくらい同じ色調でコーディネートしている。もちろんパーティーともなれば色とりどりのドレスでおめかしして揃うが、普段はとても地味。こだわりがないようで、なかなかこだわっている人が多くて、いい黒いTシャツだね、とかこれはいいダークブルーだね、なんていう微妙な色調についての褒めあいが行われる。街の洋服屋さんもよく観察していると、グレーだけで何色も用意されていたりする。


6.大胆なリノベーションで花咲くスモールビジネス

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変わった使い方を発明するのが大人気。小さな湾全体をレストランに、ガソリンスタンド自体や駅のホームをハンバーガー店に。地価高騰のあおりもあって、物件は常に不足しているから、物件さがし自体にもクリエイティブな発想が求められている。市内に立ち並ぶ同じフォーマットで統一されたアパートメントビルにはかつての暖房設備で半地下1階がある。地域暖房が普及して不要になったスペースは多くが長らく物置だったが、店舗として利用されるように。中心部の繁華街周辺でよく見られる。秘密基地のような感覚がバーやコーヒー店にマッチして繁盛している。

■Gasoline Grill
Gasoline Grill 1号店(LANDGREVEN 10 - 1301 CPH. K)=ガソリンスタンド

Gasoline Grill  VESTERPORT STATION=駅のホーム

7. 平日のピクニック

夏になると日照時間が長くなり、午後9時くらいまでは太陽が出ている。暮らしも活発化して、夕方にもなるとあちこちの芝生でピクニックがはじまる。ワイン一本にチーズ、なんてお洒落な人たちもいれば、同国ではどこでも手に入るアルミ製の簡易BBQグリルを持ってきてさっとBBQをたのしむグループも。年齢層にも多様性があり、老夫婦も、学校帰りの子供と両親、同僚同士など様々なグループがあちこちで食事やボードゲームに興じている。

■Nørrebroparken


観光以外にもコペンハーゲン市のまちづくり戦略は先進的なものが多く、まちづくりの仕事をされている日本の方の視察も増加しているそう。視察というとどうしても企業・団体、インフラに即したものが多くなるが、街に飛び込む人を歓迎する方針を打ち出している街だからこそ、「一時的な市民」としてたのしむことをお薦めしたい。言葉の壁が気になるところだが、70代以下のほとんどの人が英語を話せるし、同国の文化では英語が下手な人を笑うようなことは恥ずかしいこととされている。
自治体人口60万人、都市圏人口が200万人、国全体の人口で570万人。小国の小規模な首都だからこそのアイデアは、市民生活レベルから見てこそ得るものがあるはずだ。

宇田川裕喜(うだがわ・ゆうき)
株式会社バウム 代表取締役

東京都生まれ。一行の文章も商品も街も、人が関わる「場」だと捉えてブランディングやデザインを行う。2012年より米国・ポートランド、2016年からデンマーク・コペンハーゲンでも活動を開始。西海岸的な未来志向な仕事の進め方、北欧的な生活文化の価値観をもって、関わる仕事においては経済価値、個人益、社会益の鼎立を目指すのが信条。 主な仕事に街づくり「大手町・丸の内・有楽町エリア」、市民大学「丸の内朝大学」、街ブランディング「ポートランド」、コーヒー「Coffee Wrights」、アート展「BENTO おべんとう展 ―食べる・集う・つながるデザイン」、果実酒「サノバスミス ハードサイダー」、スポーツ用具「MIZUNO MADE IN JAPAN」「MIZUNO 1906」、イベント「小屋フェス」、キャンプ場「Hytter Lodge&Cabins」、書籍「発酵文化人類学」。

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