シリーズコラム

【さんさん対談】農業に取り組むということ

小川紘未氏(OGAWA FARM)×田口真司(3×3Lab Futureプロデューサー)

8,11,15

エコッツェリア、3×3Lab Futureが長年取り組んでいるテーマである「食」。都市部でできる農業支援は何か、単なる「食べて応援」を超えて何かできることはないのか。それを探るうちに、地方では生産者と深い関わりを持つようになりました。その一人が、今回登場する小川紘未さんです。小川さんは東京出身、SEとして活躍した後、宮崎県小林市に移住し、ミニトマトで新規就農。「OGAWA FARM」のミニトマトは、今では都内でも人気となっています。SEからの転身や、トマト栽培の苦労、そして都市と農業の関係など、東京と現場の事情、両方に通じた立場から、さまざまなご意見を伺いました。

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根拠はないが自信しかなかったSEから農業への転身

根拠はないが自信しかなかったSEから農業への転身

田口 この対談シリーズは、3×3Lab Futureに関連のあるプレイヤーの方にご登場いただくものなんですが、農家、生産者の方にご登場いただくのはこれが初めてだと思います。小川さんには、3×3Lab Futureの共同購入のプロジェクトなどにもご協力いただいていますが、良いものを生産するということだけでなく、農家としてできる社会貢献にも取り組んでいるという印象があります。今日は、もちろんトマトの生産についてもお聞きしたいんですが、農業を通じたソーシャルインパクトとはどんなものなのかといったこともお聞きしたいと思います。

早速なんですが、まず小川さん、自己紹介を兼ねて、どんな経緯を経て、今どのようなことをしているのか。その辺からお話しいただいても良いでしょうか。

小川 はい、今日はありがとうございます。今、私は宮崎県小林市でミニトマトの生産をしていますが、もともとは東京出身です。東京で生まれ海外で育って、帰ってきてSEとして就職して、そのまま生きていくのかなと思っていたんですが、ある日突然、同じ職場で働いている主人が、生まれ育った宮崎で農家をやりたい、と言い出したんです。

あまりにも突然でびっくりしたんですが、いつまでも同じことをやり続けているよりは、冒険するのもいいかも、と思いまして、翌日に返事をしました。それで今は農業にどっぷりとハマっております(笑)。

小川さんご夫婦(写真:OGAWA FARM提供)

田口 SEとしてはどのようなお仕事をされていたんですか?

小川 SEの仕事は、ざっくりいうとプログラムの設計をすることです。最初は、SEが設計したものを実現するプログラマーとして、システム開発における製造工程を担当していました。プログラマーとしてある程度の経験を積んだ後は、金融システム設計などに携わりました。

田口 農業とは全然違う世界ですよね。

小川 当時は鉛筆、ノートパソコンよりも重いものは持ったことがないくらい(笑)。でも、都会育ちだったんですけど、両親に連れて行ってもらうキャンプとか、田舎に行くのがすごく好きで。田舎への憧れというのは、子どものころからあったかなと思います。

田口 ご主人が宮崎ご出身だそうですが、ご実家は農家だったんですか?

小川 いえ、サラリーマンでしたが、農地を持っていたので畜産農家に貸していたそうです。牛の餌になるイタリアンライグラスを栽培していた畑を返してもらい、自分たちでトマトハウスを建て農業を始めました。

田口 SEからの転身、しかも青天の霹靂といった感じですが、ご主人は前から考えていらしたんですかね。

小川 いえ、突然。本当に突然農業をやりたいと思ったらしいです。思ってから半年間は、本当にやりたいのか、やれるのか、とずっと自分に問い続けていたそうです。その後、農業はしたいが一人ではできない、だから一緒にどうか?と私に打ち明けてくれました。

田口 SEからの転身では、ITで活かせるものはもちろんありますけど、農業の経験がない中で大変だったんじゃないですか。

小川 大変だと想像しつつ、なんだか根拠のない自信があったんです。二人であれば何でもできる、となんとなく自信はあって。就農研修を受けている間に、だんだんそれが確信に変わっていきました。

田口 実際に農業はどのように学ばれたのですか?

小川 宮崎県の農業大学校で勉強して、その後トマト農家に住み込みで1年修行しました。そこでは何かを教えてもらうというよりも、従業員の方々と一緒に暮らして作業しながら覚えていきました。

田口 農業で起業したいという人は結構いるので、その部分は丁寧にお聞きしたいんです。その勉強の間、収入は途絶えるわけですよね。そこはそれまでの蓄えで対応していましたか?

小川 そうですね。私たちはSE時代の蓄えがあったので困ることはありませんでしたが、これから就農したい人には、どの自治体でも研修制度があって、研修中は補助金で毎月8万円くらいの生活費が支給されるはずです。

その他にも、新規就農の際には2/3の補助が出るなど、非常に潤沢な制度もあるので、そういったものを活用していくと良いと思います。特に若い人にもどんどん間口が広がると嬉しいですね。

田口 どの自治体でもそういった制度があるんですか。

小川 はい、あります。農林水産省で推奨されていますし、県でも独自の制度を作ってやっているところもあります。

好奇心と情熱と不器用さ

田口 なるほど。では、少しさかのぼって、小川さんのルーツを探りたいと思います。先程田舎が好きというお話がありましたが、その辺りのルーツはどこから来ているんでしょう。

小川 自分では、比較的平坦な人生を送ってきたと思うんですよ。大学に入り、就職してSEになって。農業を選ぶ背景やルーツがあったかというと、特になかったようにも思います。

でも、ひとつ思うのは、子どもの頃から好奇心が強かったこと。返答に困るような質問が多かったそうです。

田口 疑問がふつふつと沸いてくる感じだったんですか。

小川 子どものころのことはあまり覚えてないんですが、学生のころには、自分の心に従うというか、欲求に正直なタイプではあったと思います。疑問に思ったことはすぐ確認したい。そのままにしておけない。そういうタイプだったし、それは今もそうかな。

田口 ふーむ、それはSEに向いている性格だったんですかね?

小川 もともと理系で情報処理学を学んできて、システム構築をやりたかったんです。それで選択肢に上がった会社に入りました。

田口 システム構築も曖昧なところがなく、微細に作り込むという印象がありますね。

小川 そうですね、多分曖昧なコトが苦手で、「なぜ?」に対して納得のいく答えが返ってこないと、次に進めないところがあって。それは子どもの頃からそうだったと思います。ロボットとか車のおもちゃを分解して、また組み立て直すような遊びを一人でやっていたそうなんですよ。それで母が「この子はお嫁さんになれるのか」とずっと心配していて、お人形遊びしなさい、って言われたりしていました(笑)。

中の仕組みが知りたくなるんですよね。そういう点では、小さいころはすごく問題児でした。家の中で分解できるものはなんでも分解してしまって、そして元に戻せない(笑)。

田口 なるほど、何か通じるところがあるようにも思えますね。そういう性格だと、農業をやり始めてからブレることはなかったんじゃないですか。

小川 そうですね。基本的に、やりたいこと、好きなことが決まったら、それに向かってブレないですね。逆に、ひとつに決めしてしまうと、方向転換ができないというか、方向を変えるのに時間がかかるというか......。不器用なんですよね。その辺をもう少し器用にできればいいんですけどね。

田口 でも、一度これだと決めて、根拠はないけど「できる」という感覚を持つことは大事ですよね。なにか新しいことを始めようとすると、どうしてもできない理由を探そうとしてしまう。でも「できるだろう」という思いが先になければ、突き進む勢いが弱まってしまうと思うんです。

小川 その辺は理系っぽくなかったかもしれないですね。農業を始めたおかげで出会いも増えて、3×3Lab Futureの皆さんにも出会うことができたので、あの時突き進んでよかったなと思います。

田口 品目は最初からトマトに決めていたんですか?

小川 農業全般の知識・技術を実践的に修得して、品目を選ぶときになってトマトを選びました。トマト農家を見学に行ったときに「これは収穫が遅れたので出荷できない」と言われたトマトを食べて、主人と2人で目を見合わせてこれだねと。

それから、ミニトマトで生活ができるのかを計画・計算した結果、ミニトマトで新規就農することにしました。

当時は反対意見もあったんです。小林市でトマトの専業農家は1軒もないので、絶対に止めたほうがいいって。農協職員や市の農林課の方からはイチゴを勧められたんです。補助金も潤沢にあるよって。それで3カ月イチゴ研修を受けたのですが、結局最初に感じたインスピレーションから「やっぱりトマトだ」と決断しました。

農業をする中で、きっと壁にもぶつかるだろうと考えたときに、やっぱり好きなものでないと乗り越えられないと思ったんです。

災害との戦い

田口 作業する中で、何か大きな壁にぶつかったエピソードはありますか?

小川 直近では、2018年の台風24、25号の記録的な暴風雨による倉庫の破損やトマトハウスの浸水などで、就農10年目にして初めて大きな被害を受けました。

台風の後は無我夢中で復旧作業をして、倉庫を修復できたのは今年の3月に入ってからでした。

田口 そのような大きなアクシデントがあると、心が折れそうになってしまいますよね。

小川 本当に1度だけ、農業を辞めることを本気で考えたのが、2011年の新燃岳の噴火のときでした。就農して3年目のことで、ようやく軌道に乗り始め、おもしろさを分かりはじめたころのことです。

あの時は火山灰が毎日8ミリも積もる日が続いたんです。ハウスにそれほど多くの灰が積もれば光も入らなくなってしまうので、毎朝3時に起きて、ホースを使ってハウスの屋根の灰を洗い流すことから一日の作業をスタートしていました。ハウス1棟を洗うのに1時間。5棟あるので、終わるのが8時30分くらい。そこからいつもの仕事をしなければいけません。これが1カ月続いたときは本当に辛かったです。

田口 自然災害との向き合い方は本当に難しいですよね。

小川 そうですね。最近は、火山灰対策としてドローンを使用したビニールハウス洗浄も考えています。いざという時すぐにドローンを活用できるよう、アマチュア無線技師と第三級陸上特殊無線技士の資格も取得し、毎日10分ほどドローンを上手に操縦できるようになるためにホバリングの練習をしています。

宮崎県小林市のOGAWA FARMのミニトマトのハウス(2017年3月撮影)

田口 まさかドローンの練習をしているとは驚きでした。

小川 周りからは変わっていると言われます(笑)。何もそこまでしなくても、と。

なにか一つ気になることがあると、調べ尽くさないと気が済まないのかもしれません。トマトの販売価格を決めるために、簿記2級を。台風対策のために、気象学の勉強をはじめたら、主人が気象予報士に。土づくりの勉強にも夢中になり、今年4月に「土壌の医者」と言われる土壌医になりました。

田口 本当にたくさんの資格を取得されたんですね。日本の気象情報は少し遅いと耳にしたことがあります。

小川 そうですね、日本は正確さを期するために、どうしても少し遅れるようです。私たちは2人だけでやっていて、従業員もいませんから、効率よく仕事していくために、早くて正確な情報が必要です。それで、欧州の気象情報や、米軍の台風予測などのデータを参照して、10日前には台風を予測して準備できるようにしています。

田口 さまざまなスキルを身につけると、その分やることがどんどん増えて大変になりませんか?

小川 たくさんだとはあまり思っていないんです。やることのリストを作ってこなしていけばそんなに大変なことじゃありません。

リスト化して管理する体制は、SE時代からの習慣ですね。当時はタスクを見える化して共有するのがルーティンになっていたし、今もリストを見れば、主人とお互いに何をやっているかが分かるようになっています。ひとつひとつチェックしていくことで、仕事もこなせるし、進捗も共有できます。そう考えると、SE時代の経験が活きていますね。

生産者と消費者、システムと現場

宮崎県小林市のOGAWA FARMのミニトマトのハウス(2017年3月撮影)

田口 いつもおいしいトマトを食べさせてもらっていますが、どんな味を目指していますか。

小川 甘いだけでなく、味の濃さとコクがあること、そして良い香りのするトマトです。

毎年、3~5月はトマトが最盛期を迎え、体の疲れもたまる時期。でも、3×3Lab Futureの共同購入企画を通じてトマトをご購入いただく方が増え、Facebookなどで嬉しいお言葉をいただくことが多くなりました。「美味しかったよ!」その一言で、疲れが一気に吹き飛んで元気が湧いてきます。

この企画を、3×3Lab Futureの村上さんと田口さんが考えてくださったおかげで、新しい出会いが増え、私たちの視野も広かった気がします。

田口 ありがとうございます。我々は小川ファームを応援していくのはもちろんなんですが、3×3Lab Futureを起点にもっと生産者を広く応援したいと思っています。それでお聞きしたいんですが、消費者との関係で課題だと感じていることは何ですか。ひとつ思うのは、消費者と繋がる機会が少ないのではないかということなんですが、そのあたりはいかがでしょうか

小川 それで言うと、少なくとも私は消費者のことをもっと知りたいと思っています。ご購入いただく方がどのように食しているのか。また、トマトに関するお客様の多様な声を拾い上げ、より満足していただけるトマトをお届けしたいです。

しかし、規模が大きい農家は大口で出荷できる農協に頼っていることもあり、なかなかお客様の声を直接お聞きする機会がないのだと思います。

田口 なるほど。そういう想いのある生産者を応援する場を作って、輪を広げていきたいですね。生産者同士が通じ合える仕組みを作れば、それに乗っかる生産者の方はいますでしょうか。

小川 全員が乗るとは限りませんが、声をかければ集まる人はいると思います。

田口 小川さんは「農業女子プロジェクト」でもご活躍でしたよね。あのネットワークもいいですよね。

小川 「農業女子プロジェクト」は、女性農業者が新たな商品やサービス・情報を社会に広く発信し、農業で活躍する女性の姿を多くの皆様に知っていただくための取り組みです。 2013年にスタートさせた「農業女子プロジェクト」は、現在、700名を超える農業女子メンバー、34社の企業と6校の教育機関が参画するプロジェクトに成長しました。私は農業の素晴らしさや魅力を発信するお手伝いをしたいと思い、活動しています。若い方が職業を選ぶとき、選択肢のひとつに「農業」を選べる。そのようになれるよう、農業女子として活動していきます。

田口 改めての質問になりますが、なぜ農業を普及させたいのか、応援したいのか。その思いを教えてください。

小川 食は人間の心身を作る基本ということ、農業の大切さを伝えたいからです。国産農産物の大切さや、輸入品より価格が高い理由などもきちんと伝えていきたいと思っています。

少量しか流通させられないと値段も高くなる、だから消費者の皆さんにもっとたくさん買っていただければ安くもできる。利用してもらえれば、良さも伝わるし、値段も安くなっていく。そういった活性化全般のために、農業女子の活動も大切だと思っています。

田口 農業の全体的な課題とは何でしょうね。

小川 やはり高齢化、少子化。若い農業従事者がいないことです。他産業並みの農業所得の確保が可能となれば、 新規就農者も増えるかもしれません。

田口 今、全国的な人手不足だと言われるんですが、どうしてこれをポジティブに捉えないのかな、と疑問に思うことがあります。人手が足りないということは、作る人さえいれば売れる。つまりマーケットがあるということで、非常に贅沢な悩みなんじゃないかなと。

小川 その通りだと思います。これはチャンスだと捉えている企業的農家が増えることを期待しています。昨今、労働力不足や担い手不足による耕作放棄地の増加、農業人口の減少の対策の1つとして「農業」と「IoT」を結びつけた「次世代の農業」を農林水産省やJAが推進していますが、大変高価であるIoT機器を使いこなす農家が非常に少ないのが現状です。機器を使いこなすためのサポート体制やITに精通した農家の育成無しでは、費用対効果の高いサービスだとは言えないと思います。

田口 これは、農水省やJA側が現場を知らなければならないという問題であるとともに、逆もしかりで、現場の人は全体のシステムを知らないといけないということもあると思うんですね。システム側の人間も、現場側の人間も、両方が双方をしっかり把握していくこと。小川さんには、その先陣を切って、「全体のシステムを知る現場の人間」の第一人者となって、システム側と積極的に関わっていってほしいと思います。今日はありがとうございました!

小川紘未(おがわ・ひろみ)
OGAWA FARM

大学院修了後、大手シンクタンクでSEとして勤務。職場で結婚したSEのご主人とともに2008年8月に農業に転身。小林市の環境はトマト栽培に適さないと言われ、トマトの専業農家が1人もいない中、ミニトマトの栽培を始める。その後、こだわりの味と香りが人気となり、東京の三越伊勢丹百貨店で販売されるようになり、都内有名レストランにも納品している。トマトソースやドライトマトなどの加工品も手がけ、こちらも人気。農林水産省「農業女子プロジェクト」に参画するほか、国の農政へも積極的に提言している。

[OGAWA FARM]HP

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