シリーズコラム

【さんさん対談】地方創生は「犬」から始める。産官学連携で描く「ドッグ・スマートシティ」構想とは

大賀暁氏(昭和女子大 現代ビジネス研究所 研究員、橿原市職員)×田口真司(3×3Lab Futureプロデューサー)

8,9,11

先鋭的でビビットな発想と卓抜した論理力の持ち主で、NECの中央研究所から社内でも前代未聞の30年未来の社会を専門に考える部門、そして新規事業創発部門を渡り歩き、活躍してきた大賀暁氏。地域のスマートシティ化活動にも造詣が深く、現在では「犬」をキーワードに「ドッグ・スマートシティ」の構想を掲げ活動を展開、自治体で職員の任にも就いている。研究機関にも籍を置き「一人産官学」を体現するなど、コロナ禍でもその活動ぶりはまさに縦横無尽。田口とはNEC時代から付き合いがある盟友の一人であり、「今日は昔話に終始しちゃうかも」と始まったトークだったが、蓋を開けてみれば話も過去から現在そして未来へと、縦横無尽に展開するのだった。

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新しいインターフェイスを創るため、メーカーへ就職

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田口 私たちが初めて会ったのは、10年ほど前になりますか。

大賀 そうですね。2009年頃、リーマンショックの後だったと思います。

田口 当時私は外につながりを求めて、いろいろな人に会ったり、社内と社外のネットワークをつないだりするような活動を始めていたところでした。その時に知り合いから教えてもらったのが、NECのC&Cイノベーション研究所(CCIL)。奈良県生駒市まで出掛けて、大賀さんたちにお会いしました。

大賀 覚えています。最初は2人くらいで、2回目は他の企業の皆さんも連れてきてくださいましたよね。その後、みんなで1ヶ月かけて、合宿までしてシナリオプランニングで未来を描き出す活動しました。

田口 大賀さんは当時、CCILで何を担当されていたんですか?学生時代の研究実績を活かして入られたのでしょうか。

大賀 いや、僕はまったくそういうパターンではないんです。大学院生の頃は、世界でも数百人しか研究者がいない超絶マイナーな「レーザー冷却」をテーマに研究していました。何に使えばいいのかも分からないような研究だったのですが、そんな研究ができるのは学生のうちだけだろうと思って、工学部なのに理学部みたいな研究をしていました(笑)。

就職のきっかけは、学生時代に、当時日本一のパソコン普及率を誇る村とされていた富山県山田村(現在は富山市に合併)へ地域活性化のボランティアに行ったことです。実際に行ってみると村人の多くはお年寄りで、案の定パソコンは使われないままホコリをかぶっている。おじいちゃん、おばあちゃんにマウスのダブルクリックを教えても、3日経てば忘れてしまう。そんな状況を目の当たりにして、「マウスなんてある限りこの人たちはインターネットに親しめない。新しいヒューマンインターフェースのパソコンを作らなきゃ」と思いました。

そのことを入社試験で話したら、当時の所長から「目的から入ってくるやつは珍しい」と言われ、採用されました。普通は大学院の研究の延長線上で入る人のほうが多いので、やりたいことを語る人は珍しかったんでしょうね。「フライス盤は使えるけどC言語はできないなんて珍しいから入れてやる」と言われて(笑)。

そのまま研究所で通常に研究開発をしていた矢先、未来について考える部門を作ることになった所長があちこちから自らかき集めた6人で作ったのがCCILです。

田口 なるほど、そうやって採用された人たちが集まっていたんですね。道理でCCILは多様性のるつぼだったわけだ。

大賀 これは当時CCILの所長だった山田敬嗣さんが仰っていたことなんですが、企業研究所の所員は「自分の専門領域をとにかく掘り下げ、その領域で一流を目指せば良い」と守りに入ってしまいやすいんです。しかし守りでは、新しい領域を切り拓くことはできない。だから山田さんはCCILでは一度ゼロリセットして未来を描き、技術的に必要なものや人は後から集めるというスタンスでした。それでワークショップやシナリオプランニング、対話技法、ファシリテーションなどをどんどん取り入れていったという経緯がありました。

シナリオプラニングは未来を見る座標となる

田口 ここで少し話を戻して、シナリオプランニングについてお聞かせください。10年前のシナリオでは、「働く人」「会社」が「変わる/変わらない」の四象限で整理して、いろいろな未来を考えて、「副業が解禁になる」とか「リモートワークが可能になる」とか、そういうことを予測していましたよね。いろいろな未来を予測して、今後起きる出来事の予兆を見抜く"眼力"のようなものを養った気がするんです。これからの社会を生きるうえで非常に重要な力であると思いますが、いかがですか。

大賀 シナリオプランニングは、断片化されたアイデアと違い、ストーリーにすることで多くの人が共感し納得するポイントが浮き彫りになるのが良いところです。いろいろ考えるツールを身につける効果もあります。この5年くらい、ちゃんとしたシナリオプランニングをやっていないので、ちょっとまずいなと感じています。

田口 そうなんですよ、私もそれを考えていて。ぜひ一緒にやりたいですね。

大賀 ええ、いいですね。

新事業創発から地方創生、そしてスマートシティへ

田口 またCCILにお話を戻しますが、当時ラボで考えていたアイデアは、現在にも通じる画期的で面白いものがたくさんありましたよね。ご退職されるまではずっとCCILにいらしたんですか?

大賀 いえ、CCILからMBAに行かせてもらいました。でも、戻ってきたらトップも体制も変わっていて、居場所がなくなってしまって。それで、本社に行ったほうがいいと勧められて、本社の新規事業開発の部門に異動になりました。

田口 研究所は長期的な視点で考えることが多いのに対し、事業部は現場重視というか、短期的に結果を出すことを求められる傾向にありますよね。価値観の違いで苦労されたことはありませんでしたか?

大賀 研究所出身の人間は本社にも多少いて、ある程度理解があったと思います。いろんな部門の人と絡みながら仕事ができました。

田口 「スマートシティ」の構想もその中で生まれたものだったんですか。

大賀 本社に移って少ししてから地方創生にも関わっていました。

当時、地方創生は機運が高まってはいたものの、なかなか大きいビジネスが生まれないのも事実で、成功体験が積めずに終息してしまいそうな雰囲気がありました。そこにぽんと出てきたのがスマートシティ。これなら確かに実現可能じゃない?と盛り上がって、2017~19年にかけてなんとかカタチにしていくことができました。

効率重視ではない。感覚で動く「人」が中心のスマートシティ

田口 なるほど。そこから派生して、現在では「ドッグ・スマートシティ」を掲げて活動されていますよね。こちらはどういうビジネスなのか、お聞きしても良いですか。

大賀 課題を発見し、その解決に必要な技術を持つ人をつなぐ場を作ることを、「犬」というキーワードを取り入れながら実践しています。今は、そのネットワーク作りのために、ペットの業界団体に入り、大学の研究室にも所属して、次の一手のための仕掛け作りをしているところです。

田口 スマートシティに関しては、2020年6月に某大手自動車メーカーが発表した取り組みがあります。あれは羨ましくもあるものの、日本の他地域でも実践するとなると難しい部分もあると思いますが、どのようにご覧になっていますか?

大賀 土地の無い日本のスマートシティは、既存の都市を踏まえ、住んでいる人たちの利便性を高めていく形で作られてきましたから、技術の検証はともかく、ゼロから作るスマートシティのノウハウを国内の他地域で活かすのは難しいと思います。もし活用するなら、中国の内陸部に新たに作る街など、海外になるでしょうね。

また、スマートシティというものが、ややもすると、効率や利便性の面だけで語られてしまうことに違和感を覚えています。そこには「人」が不在というか、モデル的に動く人間しか想定されていない。でも人間ってもっと好き嫌いで動くわがままな存在ですから、スマートシティはその前提で作られないといけないと考えています。僕にとっては、犬がその最たるもの。効率追求で考えたら飼わないほうが楽なのに、飼っている人は多いですよね。そういうエモーショナルな "好き"を掛け合わせたところに、スマートシティの次の課題を作れたら面白いと思うんです。掛け合わせるものは地域によって違っていいと思うし、この街は竹細工、あの街は漆といったように、例え世の中の需要はなかったとしても、うちはここにアイデンティティーがあるんだ!というものを軸にスマートシティを作っていけばいいと思います。そうすれば地域性が際立って、旅で訪れたいと考える人も増えるのではないでしょうか。

田口 なるほど、面白いです。我々が考えている関係人口のあり方に近いかもしれないですね。例えば我々が宮崎県や小林市に行くのは、がんばっているプレイヤーがいて、3×3Lab Futureにも来てくれて...という、エモーショナルな関係性があるからこそ。そこをもっと要素分解して、なぜ東京の人たちがその地へ行くのかを言語化したいと思っています。

地方のDXを実現する。一人産官学を体現する。

田口 スマートシティに関わるようになってから、NECをお辞めになられていますね。

大賀 2年四国で関わった後、次のステップで「ドッグ・スマートシティ」に取り組んでいこうと思い、退職しました。

自分自身の暮らしを変えるだけでなくて、犬を受け入れてくれる公共交通機関とか、レストランとか、そういう街全体の取り組みをつくるところに積極的に関わっていきたいと思っています。会社を辞めずに週末起業する形もあり得たのですが、交渉したい企業や役所の人たちは、週末休み。平日に動ける日を作る必要があったので、やむなく...。週3日、4日勤務が可能だったら良かったんですけどね(笑)。

田口 拠点を地方に移すと伺いましたが、それもその流れで?

大賀 奈良への移住を決めたのは、そのほうが移動しやすいからなんです。例えば、犬で町おこしをしている地方へ見学に行きたくても、コロナ禍だから、東京から行くのははばかられるじゃないですか。奈良から地方なら、距離は遠いけど先方も受け入れやすいですよね。

そういう考えで奈良県に移住しますと言っていたら、橿原市役所に(DX化やスマートシティ化を担う)デジタル戦略課が創設されて職員を募集していると教えてもらって。応募したら、なんと採用してもらえました。週3日で働くことになります。

スマートシティは産官学が連携して進めるまちづくりです。僕はこれまでの会社勤めで産業界のこと、大学で研究者の世界については分かってきた。あとは官のことが分かるといいなと思っていたところで採用されたので、とてもラッキーでした。これで"一人産官学"が可能になった(笑)。単なる理想論じゃなく、現実を追求できるようにもなると思います。本当に学びに行かせてもらう気持ちです。

田口 週3日はまとめて働くんですか。

大賀 いえ、仕事の進め方の問題もあるので、まとめて3日という働き方にはならないと思います。月水金とか、そういう分け方になる予定です。それで空いた日には、自分の大学院の研究や、犬のプロジェクトを企業と進める時間を入れていくと思います。

田口 プロジェクトがまったく減らないのは大変ですが、とても面白そうですね。3×3Lab Futureでも、東京のつながりを保ったまま、地方へ拠点を増やす人が増えています。そういう人たちと地域プロジェクトを始めようとしていますので、大賀さんもぜひ何かご一緒しましょう。

大賀 いいですね、ぜひお願いします。

田口 今日は興味深いお話を、どうもありがとうございました。

大賀暁(おおが・さとる)
昭和女子大 現代ビジネス研究所 研究員/橿原市職員

富山での地域情報化支援を機に、NECの関西研究所に入社。CCILを経て、全社新事業創出部門で地方創生やスマートシティ事業の開発に携わる。2018年にNECを退社し、ペット(特に犬)を中心とした成熟社会づくりに向けた活動に取り組む。2021年からは奈良県橿原市職員に着任。MBA、准認定ファンドレイザー、昭和女子大現代ビジネス研究所研究員、家庭動物管理士(3級)、愛玩動物飼養管理士(2級)。

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