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【大丸有】デロイトトーマツの「理念と危機感」

大丸有企業のCSR、CSV(1)

復興から地方創生へ

グループ内で横断的な「復興支援室」を立ち上げ、東日本大震災の復興に取り組んでいるデロイトトーマツ。「最初からCSVを意識してきたわけではない」と復興支援室長の谷藤雅俊氏は話していますが、その活動は単なる"復興"を超えて、監査法人としての本業を生かした「CSV(Creating Shared Value)の好例となっているようです。また、さらに特筆すべきは、復興支援活動をロールモデルとして、「地方創生」にも大きく貢献しようとしている点です。

復興支援が新しいビジネスモデルや事業ドメインの創出につながることが意識されるようになってきたのは、実はこの1年ほどの傾向のように見られます。デロイトトーマツがいち早くCSVとしての復興支援に取り組めたのはなぜなのでしょう。そしてまた、それを地方創生の活動にリンケージさせることができたのはなぜなのか。震災直後から復興支援活動に取り組んでいる谷藤氏に伺いました。

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モデルケースとなった「人材育成道場」

モデルケースとなった「人材育成道場」

気仙沼での人材育成道場の卒塾式(2015年3月 写真提供=デロイトトーマツ)

デロイトトーマツの震災復興活動は多岐に渡っています。まず、法人として最初に取り組んだのは、決算期を迎える企業のサポートでした。「震災のあった3月を決算期とする企業は多い。ここで適正な決算を行えなければ有価証券報告書の提出が遅れるかもしれない企業もあった」と谷藤氏。「東北の被災3県に拠点を持つプロフェッショナルファームはデロイトトーマツだけだった。我々の日常業務の延長線上で、ケイパビリティを生かして被災企業をサポートするのは当たり前のことでした」。

復興支援室で陣頭指揮を執る谷藤氏その後次第に落ち着きを取り戻していく中で、補助金に関する会計・税務処理のセミナー・個別相談会の開催などさまざまな企業支援活動や、復興庁からの事業受託も行っていますが、注目したいのは東北未来創造イニチアティブが被災自治体、地域金融機関、経済同友会の協力のもと実施している「人材育成道場」です。谷藤氏も復興支援活動を通して「地域に根付いたリーダーが育ってこそ真の復興」「地域の未来を切り拓き、復興の原動力となるのはやはり'人'だ」と痛感していたため、デロイトトーマツは人材育成道場を運営する東北未来創造イニチアティブに率先して協力、2013年4月に気仙沼・南三陸で第1期がスタートしたそうです。

釜石市、大船渡市、気仙沼市などの被災地から、「自分自身、会社、地域のことを考え抜き、地域の未来を切り拓かんと挑戦する」塾生に対して、各協力企業から派遣されたメンターが寄り添い、挑戦へのマインドセットから事業計画の構想までをサポートします。2013年から現在までで気仙沼・南三陸で計4期、大船渡・釜石で計3期開催され、既に100名超のリーダーが巣立っていったそうです。

この人材育成道場の取り組みは、本業を生かした復興支援、デロイトトーマツならではのCSVと言えるでしょう。また、デロイトトーマツでは、さらにこの取り組みを地方創生にも活用すべく、産業界・地方金融機関と提携した「ひと・しごと創生塾」の立ち上げを企画しています。まさに復興支援のCSVがロールモデルとなって、地方創生に転用されていく、優れた実例と言えるのではないでしょうか。

寄り添うということ

福島では、福島大学の「ふくしま復興塾」へも参画。写真はメンタリングの様子(写真提供=デロイトトーマツ)

デロイトトーマツが復興支援をロールモデルとし、地方創生活動へと展開できたのはなぜなのでしょう。

2011年4月、谷藤氏は福島のあるクライアントに「大変でしたね」と声を掛けたところ「まだ終わってない。まだ最中なんだよ」と返されたことがあったそうです。福島第一原子力発電所のシビアアクシデントが本格的に明らかになり始めたところであり、今もなお終息していないことは周知のとおり。その時、「ああ、そばで寄り添っていないと分からないことがあるのだな」と実感し、谷藤氏は福島連絡事務所の立ち上げを社内で進言、2011年12月に福島連絡事務所が設立されました。

この「地域に寄り添う」という思いが継続的な活動へとつながっています。谷藤氏は「復旧、復興支援を後押しするためには個々人が「点」で活動するよりも組織として「面」で活動したほうが効果的である」と、グループの全体会議でCEOに直訴し、2012年9月に復興支援室が設立されました。継続的に活動するためには、「戦略を立案し、アクションプランを策定し、数字に落とし込んでいく必要がある」と谷藤氏。つまりは経営計画への落とし込みです。「復興支援はボランティアまたはプロボノ」という考え方もある中で、復興支援活動をきちんと予算化し、将来的な事業化をも視野に入れて検討することは決して容易ではありませんでした。しかし、谷藤氏は「組織が組織として動くには、中長期の事業構想、戦略的な目標は必要。そこのところをあいまいにしてはいけない。スタートを間違えてはいけない」と、中長期で目標を設定することの重要性を説いています。

その戦略策定の際に見えてきたのが「被災地とは、実は日本の課題先進地、言い換えれば課題解決先進地なのではないか」という気付きでした。「人はどんどん減っていく、仕事はない、残った人たちをどう支えるのか。地方の課題解決のロールモデルになると思った」。
もちろん最初からこれが見えていたのではありません。実は「CSV」のコンセプトも「後になって"今の復興支援の取り組みがまさにCSVの実践なのではないか"と気付いた」「何も分からない中、手さぐりでようやく結果としてこうやって事業化することができた」と谷藤氏は話します。

経営理念に立ち返る

デロイトトーマツグループの経営理念

こうした背景にあるのは、ひとつはデロイトのDNAと思われます。「東日本大震災のときも、アメリカのデロイトからすぐに人が派遣されてきた。世界中、どこでも危機的な災害が発生すると、プロフェッショナルファームが復興支援するのは当たり前」という考え方は、特に欧米では非常に強いのです。

さらに、復興支援活動は社会的意義があり、デロイトトーマツの総合性というケイパビリティを生かせ、さらには支援経験に携わった人材の成長をも実現します。これはまさに、デロイトトーマツグループの経営理念-Fairness to Society / Innovation for Clients / Talent of Peaple の考えに基づいた活動なのです。谷藤氏は「迷ったときはいつも経営理念に立ち返った」と言います。

「理念と危機感」

復興支援を継続するのも、敷衍(ふえん)して事業化し、地方創生のアクションに展開しているのも、一言で言えば「理念と危機感」だと谷藤氏は指摘します。復興支援を継続できない企業も多いし、東京では盛り上がる"地方創生"を尻目にどこか他人事で危機感のまったくない地方自治体も少なからずあるし、地方創生に限らず、企業として取り組むCSR、CSVの今後に悩んでいる人は、それこそごまんといるでしょう。そこにははたして人として目指すべき理念はあるでしょうか。じりじりと足元が焦げ付くような危機感はあるのでしょうか。

谷藤氏は言います。「東北の被災地でも、"いや、そこまでしなくていいよ、もういいよ"と仰る方がいないわけではない。しかし、いつも申し上げるのが『考えるのが、あなたとお子さんのことだけでいいんですか』ということ。昔は"家をつなぐ"と言ったかもしれないが、私たちが取り組んでいるのは、『次の時代』を作ることだと思う。それは、CSRに限らず事業も行政も同じことなのでは」。

それは、CSVやCSRが特別で、英雄的な何かなのではないということでもあるのかもしれません。ごく普通に暮らす私たち一人ひとりの活動が、CSVでありCSRになる。そう考えれば、新たなパースペクティブが開けてくるような気がします。

始まりは「私」

最後に、谷藤氏が、神話学者のジョーゼフ・キャンベルを引いて語った言葉で締めたいと思います。
「人は挑戦に旅立ち、困難に直面し、困難を克服しながら、人々の共感と信頼を得て、結果としてリーダーとなる」。リーダーとはやるべきことを自分を信じてやりきる人のこと。ガンジーもマザー・テレサも、キング牧師もそうでした。始まりはいつだって"私"なのではないでしょうか。


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