昨年10月に試験運用を開始し話題となったコミュニティサイクル「ちよくる」。当初のキャンペーン料金を今年3月末でいったん終了し、4月からは千代田区内のタスクフォースも変わるなど、本格的な運用に向けてさらに力を入れていこうとしています。
この数年で全国的にもコミュニティサイクルの導入例は増加しており、東京オリンピック・パラリンピックを背景に都内でも行政主導の導入が進んでいます。先行する欧州に比べ、日本ではサイクル文化が貧しく、コミュニティサイクルも長い間ただの"レンタサイクル"といった認識どまりであり、定着には困難が伴うとも言われてきました。
しかし、ちよくるはどうでしょうか。東京の顔、日本の顔ともいうべき千代田区でのコミュニティサイクルの成否は、今後のまちづくりのあり方を占ううえでも重要と思われます。開始からおよそ半年が経過し、その手ごたえと今後に向けた取り組みについて、千代田区に聞いてみました。
読者はご存知かと思いますが、改めてちよくるの概要を確認しましょう。
ちよくるは、登録制を基本としています。登録は事前にウェブサイトから。PC、スマホからのアクセスが可能です。個人・法人の登録ができ、会員はFelica対応のスマホまたはICカードを使用して貸出を受けます(支払はクレジットカード)。東京駅前のスカイバスカウンターで対面で申し込む1日パスも。ポートは区内29カ所(3月23日現在)あり、24時間利用が可能(一部例外あり)。借りたところとは違うポートへ返却するのももちろんOK。
料金は4月以降、
[個人向け]
1回会員=150円/30分(以降30分ごとに100円)
月額会員=2000円/月(初乗30分無料、以降30分ごとに100円)
1日パス=1500円/日
[法人向け]
法人定額会員=4000円/月(乗り放題)
法人月額会員=2000円/月(30分以上100円/30分)
※料金はすべて税抜価格
システムはNTTドコモが運営しており、システム端末が自転車本体についているのが特徴。借りる際には、登録したスマホ(または発行を受けたICカード)を、端末にかざして開錠。返却は施錠後、エンターキーの操作だけで終了します。
自転車本体はパワーアシスト型で、本体自体は若干重量がありますが、乗り出しはラクラク、坂道もスイスイ。平坦に思えて実は坂道が多い都内を走るには非常に便利です。
10月の導入時には、都心ど真ん中でのコミュニティサイクルということもあり、大いに報道をにぎわしましたが、その成果はどうなのでしょうか。千代田区環境安全部 環境技術・エネルギー対策担当課長 まちづくり推進部副参事兼務の関成雄氏にお話を伺いました。
「非常に多くの方にご登録していただき、利用も進んでいます。スタートとしてはまずまずと言ったところです」
関氏によると、1月末の時点で登録者は5000名を超え、利用者はのべ約3万人。最高回転率(月)は1.12。ヨーロッパでは最高で6回転を超えるものの、日本全国の平均では0.4であることを考えれば非常に高い利用率と言えるでしょう。また全国的には月間利用数が8000を超えるには半年以上かかるのが普通ですが、ちよくるはわずか2カ月で到達したそう。
「昼間人口が多い地区なので、どういう結果になるのか不安はありました。しかし、震災以降の自転車利用の増加、コミュニティサイクルの認知の拡大を背景に、幅広い層に利用されています。ウェブ登録がメーンのため、高齢者の利用は低いと懸念していましたが、40代以上が52%と半数以上となっているのは予想を超えた結果でした」
また、千代田区民の利用が多いことも特徴的です。実に登録者の24%、およそ1/4が地元民。
「コミュニティサイクル設置の最大のハードルであったポート設置の活動が、区民への認知拡大に一役買ったのではないかと思う」と関氏は分析しています。十分な数のポートがなければコミュニティサイクルは機能しにくいもの。民有地の協力も必要なうえ、公園などに設置する場合も、付近の住人の理解が不可欠です。その設置の交渉を各所でこまめに行ったそう。
「ウェブ登録会というかたちで各地で説明会も開催してきました。お年寄りのかたがたにもご参加いただき、徐々に区民の間に認知が広まったのだと思います」
千代田区民は5万人弱ですが、地元愛が強く、誇りを抱いている人が多いのも特徴です。こうした地域性が、他にはないコミュニティサイクルの普及を支えているのかもしれません。
現在は観光や日常使いでの利用が目立っているようですが、今後どのような利用を促進したいのでしょうか。
「ひとつは、環境などの問題はさておき、まずは自転車が楽しい、気持ちがいい、コストパフォーマンスがいい、といったところから利用を始めてもらいたいですね」と関氏。環境安全部環境・温暖化対策課が担当していることからも分かるように、コミュニティサイクルのそもそものスタートは環境問題からだった。しかし「それは結果としてついてくればいい」という。
「楽しい、から始まって、便利、安いという自転車のメリットを理解し、特に企業のかたがたに公共交通機関を補完する形で使っていただければと考えています」
千代田区と言わず都内を自転車や徒歩で回ったことのある人はご存知だろうが、実は都心部は意外なほど"狭い"。多少のアップダウンはあるものの、普段地下鉄で一駅、二駅と移動している距離を自転車に乗ってみると非常に近いことに気づく。
「そういうちょっとした距離を自転車で移動するようになれば、企業が負担する社員の交通費の節約にもつながるのでは」と関氏。「ゆくゆくは、社員のみなさんが使いやすいように各企業のビルの前にひとつポートがあるということになるのが夢。それがカッコイイというカルチャーを発信することができれば素晴らしいと思います」
ビジネスの中心地・千代田区からコミュニティサイクルの新しい文化を発信する。いかにも千代田区らしいスタイルと言えるのではないでしょうか。
これまでは環境安全部環境・温暖化対策課が兼任的に担当してきましたが、今後はちよくるを扱う専門の部署が立ち上がる予定となっているとのこと。3年かけて行う実証実験も、4月からいよいよ新しいフェイズに入っていくことになりますが、本格運用に向けてどのような課題があるのでしょうか。
関氏によると課題は「ポート用地、走行空間の確保、採算性の担保、マナーの徹底」の4つ。
「ポート用地は常に課題。今後ドコモ関連の店舗に設置するなど、さらに民間への協力を募っていきたいと考えています。また、走行空間については管理者も含めた整備が必要になります。道交法では自転車走行は原則車道となっていますが、歩行者の安全を損なわない限り歩道を走ることもできる。このあたりの住み分けをしっかり行い、自転車、歩行者、車、各者の安全を確保したい」
「料金収入だけでは採算を合わせることは難しいでしょう。現在検討しているのは自転車本体、ポートへの広告による収益などです。規制もあるため、緩和を含めて検討を進めていきたい。また、ロンドンのバークレイズ銀行の事例(スポンサーとしてロンドンのコミュニティサイクルに全面的に協力している)のように、民間からの協力を募ることも考えていきたいですね」
この点、環境意識が高い外資系企業のほうが協力に応じてくれやすいかもしれません。CASBEE(建築環境総合性能評価システム)やグリーンビル認証など環境関連の認証にセンシティブなのもやはり外資系が多いという。このほか、観光での利用促進のため、観光用のルート選定などを進めるほか、日比谷公園など観光拠点へのポート設置も検討していきたいとしています。
決して楽な道のりではありませんが、まずまずの滑り出しを見せたちよくる。最後に、今後の活動のために大丸有エリアに期待すること、ユーザーへのお願いをお聞きしました。
「大丸有といえば日本を代表するビジネスの街であり、日本の顔の街。そこにちよくるがキレイに並んでいたらすばらしい。オフィスワーカーのみなさんにはぜひ気楽に、仕事でもぱっと乗って使ってほしい。ユーザーのみなさんには、一にも二にも安全に走行していただきたいということ。そして、ちよくるのより良い使い方、楽しい利用法を一緒に考えていけたらと思います」
3月7日に首都高中央環状線が全面開通し、今後さらに都心部の交通量は減少し、生活者に暮らしやすい街に変わっていくはずです。そんな中で自転車、そしてコミュニティサイクルが果たすべき役割は決して小さくはないでしょう。その時に、大丸有は自転車とどう関わっているのか。この街で働くオフィスワーカーも真摯に考えるべき問題なのではないでしょうか。