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【大丸有】メガバンク、本気のベンチャー支援

三菱東京UFJ銀行「Rise Up Festa」の可能性とは

4月25日「Rise Up Festa」の受賞者記念撮影(写真提供:三菱東京UFJ銀行)

銀行が本気を出すとき

Rise Up Festa(RUF)は、三菱東京UFJ銀行が仕掛けるベンチャー企業を支援するソーシャルアクションです。カンパニー制を採る同社の法人企画部が企画し、2013年から開催、今年で3回目を迎えています。今年は「バイオ・ライフサイエンス」「ソーシャルビジネス」「情報・ネットサービス」「ロボット・先端技術」の4つのテーマで先進的な取り組みを行うベンチャーを公募。一次選考を通った11社が、4月25日に開催された公開の最終プレゼンに望み、テーマごとに最優秀賞が選出されました。

このRUFは、メガバンクが臨むベンチャースタートアップであることが高く評価されるべきかもしれません。三菱東京UFJ銀行のみならず、三菱UFJキャピタル等、グループ企業各社も参画、その「ノウハウをすべて活用」し「5年から10年という長いスパンで考えて取り組みたい」としているもの。一般的に、大企業、殊にメガバンクのベンチャー支援はどこか中途半端で、本腰を入れた格好になっていないという指摘を耳にしますが、同行の支援はどんなものなのか。その可能性はどうでしょうか。4月25日に開催されたFestaを振り返りつつ、同行のベンチャー支援の"本気"を探ります。

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大企業からのスピンアウト、シニア層の台頭

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Rise Up Festaでのプレゼンテーションの様子(写真提供:三菱東京UFJ銀行)

今回のRUFは、2015年10月から11月にかけてエントリーし、12月中に応募するようになっていました。一次、二次審査を経て、4月25日の最終審査会でショートプレゼンを行い、各分野最優秀賞を1社、優秀賞を複数社選出。最優秀賞社には、300万円の事業支援金、もしくは三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)によるコンサルティングサービス(1000万円に相当)が提供されます。受賞者は、 大規模商談会(Business Link商売繁盛)への無償ブース出展も可能となっています。

今回、最終審査に登壇した企業は全11社。バイオ・ライフサイエンス分野4社、ソーシャルビジネス分野2社、情報・ネットサービス分野2社、ロボット・先端技術分野3社。これら11社を見ると、事業ステージは大枠で"アーリー"で共通している一方で、構想している事業内容は実に多彩なのが特徴的でした。

例えば、バイオ・ライフサイエンス分野のクオンタムバイオサイエンス株式会社は、DNAシークエンサーの開発・製造・販売を行う、大阪大学発のベンチャー企業ですが、プロダクトの製造販売だけでなく、クラウド上でDNAデータを蓄積した"Internet of Living Things"の世界でマネタイズするところまでを構想します。一方、情報・ネットサービス分野のフィーチャ株式会社は、オープンソースで開発した画像認識システムを提供するという、いわば要素技術としてのプレゼンテーションでした。

また、登壇企業の年齢層もさまざまでした。20代の起業家から、研究職からの学内ベンチャー、大企業を退職してからのシニアベンチャーまでと実に広い幅。しかし、いずれも分野を問わず「社会的価値」を意識したビジネスを見据えている点は特筆すべきでしょう。募集4分野がこれからの社会に欠かせない分野だからということももちろんありますが、起業家たちの志の高さゆえでもあるでしょう。

石黒氏各分野最優秀賞を獲得したのは、前出の2社のほか、株式会社サウンドファン(ソーシャルビジネス分野)、株式会社ハイボット(ロボット・先端技術分野)の4社でした。審査委員を代表して総評を行った石黒不二代氏(ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長兼CEO)は、今回の登壇企業のレベルの高さに「驚きを感じ」、同時に「第1回、2回とは異なったフェイズの企業が多く、社会インフラの変化を感じた」と感想を述べました。また、参加している人々が「大企業からのスピンアウト、大学からのベンチャーが多く」、「年齢が高い」ことに「新鮮な驚きを覚えた」とも。これについては、「それだけ経験、知識が必要(な技術、事業)ということなのだろう」と分析しています。そして、「日本ではこれまで要素技術を展開しサービスに育てることがなかった。しかし、IT含め世界に通用する技術があることを見ることができ、もう1度日本が世界へ羽ばたく可能性を感じた。ここにいるみなさんで力を合わせてがんばっていきたい」とエールを送りました。

「既存産業だけでは日本の持続的成長はない」

Rise Up Festaの開催は今年で3回目。「回を重ねるごとにレベルが上がってきたと評価をいただけている。試行錯誤を繰り返しているが、継続は力なり、ということだろうか」と語るのはRUFを担当する元田貴之氏(三菱東京UFJ銀行、法人企画部業務開発グループ 産業デザインオフィス 次長)。まだまだ広く人口に膾炙したコンテストとまでは言えないかもしれませんが、「中小企業を含め、ベンチャーのコミュニティの中では、口コミで知られるようになってきた」そう。応募企業も年々上昇しており、今年は昨年を90社以上上回る200数十社が応募しました。

元田氏「ポッと始めて、はい、手を挙げてーと呼びかけてもそうそう集まるものではない。10年20年と長期間に渡って、ベンチャー支援に取り組んで行きたいと考えている」

本当にメガバンクが腰を据えてベンチャー支援をするつもりがあるのでしょうか。RUFだけを取り上げてみると、いまどきのベンチャー、イノベーション支援の流行に乗っかったものであるかのように見えます。しかし、この取り組みの根は、思っている以上に深いのです。

そもそものルーツは「20年以上前から銀行内部で抱かれるようになった危機感と社会的要請」にあったそうです。「黙っていても融資先が集まった」時代は過去の話となり、「借入ニーズのない企業が増えてきた」。その流れの中で、三菱東京UFJ銀行は、ごく自然に支店単位で事業のマッチングなど、イノベーション創発の原型となる取り組みを始めるようになりました。それが顧客法人へのニーズのヒアリングと企業のスクリーニング、そしてマッチングなどです。「大企業側からのイノベーションシーズのニーズも高まっていた」こともあり、イノベーティブな技術、サービスを持つ企業とのマッチングの需要は双方から高まりを見せていたのです。

こうした同行の取り組みが、より具体的に進化したものがビジネスサポート・プログラムの「Rise Up Festa」ということ。同様に具体化したものに、大規模商談会「Business Link商売繁盛」、大企業と全国の企業をリンクさせる「イノベーションプラットフォーム」(2015年から組織化)、今年1月にスタートした、CEO人材育成プログラムの「M-EIR(MUFG Entrepreneurship in Residence。メイヤー)」があります。長い時間をかけて醸成されてきた流れに、戦略的にコミットしているのが、こうした一連の取り組みといえるでしょう。

これらの取り組みの背景にあるのは「既存の産業のみでは、日本の持続的成長は期待できない」という見通しです。

「人口減少、生産労働人口の低下、少子高齢化が進む社会の中では、労働人口と資本投下とイノベーションの掛け算による産業構造の変革がなければ未来はない。(三菱東京UFJ銀行は)グローバルに展開はしているが、日本国内がマザーマーケットであることは昔も今も変わらない。国内産業のポテンシャルを引き出し、日本が持続的成長を遂げる、その一助となれれば」(元田氏)

メガバンクの本気とは「夢」

日本のベンチャー支援には腰が入っていないという指摘があります。中途半端な金額だけ出して、さも支援しているかを装い、立ち上がれない起業家を非難する風潮。しかし、三菱東京UFJ銀行は、かなり「本気」です。

「10年20年腰を据えてやっていこうかと。当行のような、いわば伝統的な銀行が、お金を出すだけではなく、活動として身を以ってベンチャー支援を行っていることを示すことで、ベンチャー環境を成熟させるお手伝いができるのではないか。今日本では起業家が年々右肩下がりで、起業したいと言えば"嫁ブロック""親ブロック"がまかり通る。日本ではシリコンバレー型ベンチャーは生まれないという話があるが、ベンチャーを産み育てる環境が整えば、もっと変わっていくのでは」(同)

RUFの最優秀賞受賞企業には、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(1000万円相当)または300万円の事業支援金、優秀賞受賞企業には、商談会「Business Link商賣繁盛」への無償ブース出展の権利などが明記されていますが、それ以外にも、担当支店でアカウントオフィサーをつけるなどの継続的な支援は当たり前のように行うそう。途中の選考で落ちて、ファイナリストには残れなかった企業でも「せっかくのご縁なので、相談に応じる等、さまざまな形での支援を継続的に行っている」というので、その掬い上げる手は長く、細かいと言えそうです。

また、ケースバイケースではありますが、「MUFGグループで採用するという成果もある」。例えば、第2回のファイナリストであった「スタディスト」。業務マニュアル・取扱説明書等のクラウド型作成ツールの開発を行うベンチャーで、マニュアルの効率化・簡便化を実現するというものでしたが、三菱東京UFJ銀行の業務マニュアル改定で採用し、マニュアルの厚さを1/5程度にすることができたそう。
「当行で採用したことくらいでは、それほど大きなインパクトにはならないかもしれないが、小さな"成功体験"ということはできる。そしてベンチャーは、そんな小さな成功体験を積み重ねることで成長していく」
第3回のファイナリストの中では、確率共振を使ったサウンドファン社の「ミライスピーカー」を、「銀行窓口で採用することができれば」と元田氏は密かに考えているそうです。

そして、銀行業務としての融資がエンドポイントなのかと問えば「そうではない」と元田氏。「実は具体的な"出口"というものはない。支援の期間も決まっていない。強いていえば"ずっと"取引先との関係を大切にして、いつかファイナリスト企業が"Rise Up銘柄"として上場するようなことになればという未来を思い描いている」。

"まず隗より始めよ"

来年も再来年も、そのまた次の年も、RUFは開催されるでしょう。参加を考える企業、起業家に期待することはあるでしょうか。

「グループ全体で支援する体制を作っているので、成長のきっかけにしてほしい。他のスタートアップイベントもたくさんあるが、銀行が変わったことをしているというところに価値を見出していただけるのではないかと思う。審査は20倍以上の激戦にはなるが、老若男女の区別はなく、審査基準はただひとつ、次の日本を担う高い志と技術、サービスを持っているかどうかだけ。自信を持って取り組まれている方には、ぜひとも参加してほしいし、願わくば、次世代の日本を共に作り上げていくという思いを共有してもらえれば」

日本経済の停滞を打破するために、オープン・イノベーション、共創、CSVといった言葉をキーワードに、さまざまな取り組みが展開されていますが、メガバンクがここまで本気で取り組んでいるのは、他に例がないのではないでしょうか。日本が変わるには、大企業の変革が必要だと言われますが、その象徴的事例と言えるかもしれません。


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