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【大丸有】"おもてなし"とは何なのか

楠公レストハウスとユニバーサルマナー検定

街もおもてなし力アップ?

2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、"おもてなし"の力を向上する動きが盛んになっています。"おもてなし"はもともと心遣いや気遣いなど"心"の問題ではありますが、街のサインボードや道路、Wi-Fi環境などのハード含め街全体をレベルアップさせようとする動きも活発化。多言語対応や異なった文化を持つ人への配慮というソフト面での対応もますます重要になるでしょう。オリンピックに限らず、長期的なインバウンド施策の観点からも"おもてなし"は欠かせないものと言えそうです。

とはいえ日本では、意味も分からないまま度を越して対応してしまう「過剰適応」や、制度や規則に対して"やっておけばいい"と考えてしまう「制度ボケ」のような傾向があるようにも思えます。

そんな中、先ごろ皇居外苑「楠公レストハウス」で「ユニバーサルマナー検定」2級、3級の団体受験が行われました。皇居外苑といえば、東京、ひいては日本の顔ともいうべき場所。国内外から連日観光客が訪れる有数の観光地です。どのような考えで"おもてなし"に取り組んでいるのでしょうか。現場を訪れ、お話をうかがいました。

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ユニバーサルマナー検定とは

ユニバーサルマナー検定とは

ユニバーサルマナー検定2級講義の様子

「ユニバーサルマナー検定」とは、高齢者や障害者の方への「マナー」を学ぶもの。自らも骨形成不全症のために車椅子で生活する垣内俊哉氏が代表理事を務めるユニバーサルマナー協会が講習と試験を行い、認定しています。一般向け試験は全国で順次開催されていますが、団体受験も実施しており、これまでに200社を超える企業・団体で行われているそう。検定の性質上、ホテルやレジャー施設、飲食業などのサービス業の企業が多く受けています。

岸田氏3級は座学を行い、ユニバーサルマナーの基本的な考え方を学びます。グループワークで演習問題に取り組み、受講者全員が認定を受けることができるもの。2級は講義と実技の後に試験を行い、合否を判定します。「3級は障害者との基本的な向き合い方を学び、2級では実践的サポート方法を学びます」と講師を務める岸田奈美氏(株式会社ミライロ)は説明します。楠公レストハウスでは2日間に渡って3級、2級の講義・実習・試験が行われました。

2級の講義・実習の模様を取材しましたが、感じたのはこの検定が「障害者の観点に立っている」ということと、ノウハウではなく「考え方」を伝えようとしていることでした。例えば、手に障害のある人が結婚式の来客として記名する際のサポートとして、「どうぞ、ごゆっくりお書きください」と声掛けして「見守る」という選択肢があるのだということ。結婚式なのだから自分の手で書きたいと思う人もいることを考えると、いきなり「代筆します」というのは過分な親切になってしまうこともあるのです。また、車椅子利用者に対しては、ついつい支援者(車椅子を押す人など)に、要望を尋ねてしまいがちですが、利用者の方に聞いたほうが良いこともあるのだということ。

「日本人は障害者に対して無関心か、過剰に親切になるか、極端な対応しかできていないように思います。もっと中間の配慮があっても良いのでは」と岸田氏。つまりは、助けが必要な人の立場に立って、ごく自然にサポートすることが必要なのでしょう。

実技では、車椅子を使ったサポート方法の体験、視覚障害者体験とその支援方法、高齢者疑似体験グッズを使った体験などが行われました。楠公レストハウスには車椅子も常備されており、さまざまな障害者、高齢者の来場も多く、経験豊かなスタッフが揃っているのですが、それでも「(障害があるということが)そういうことだったのか!」と改めて理解を深めることができたようでした。この日の2級の試験では、楠公レストハウスのスタッフ15名が受験し、15名全員が見事合格したそうです。

創設以来の理念

ユニバーサルマナー検定2級の実技。左の講師は実際の車椅子利用者。当事者が講師を務めるのがユニバーサルマナー検定の特徴だ

では、楠公レストハウスではどのような思いで今回ユニバーサルマナー検定の団体試験を実施したのでしょうか。運営する一般財団法人国民公園協会の岡本栄治氏にお話を伺いました。やはり、オリンピック・パラリンピックに向けた施策ということなのでしょうか。

「いえ、必ずしもそういうわけではありません。利用される多くの皆様が、満足し楽しい思い出を持ち帰っていただくことが国民公園協会創設以来の精神。"外出弱者"と言われるみなさんへのサポートをより充実させたいということが、今回の団体受験実施の目的です」

岡本氏

国民公園協会の歴史は、昭和20年12月、初めての皇居勤労奉仕団(みくに奉仕団)が皇居を訪れたときにさかのぼります。GHQ占領下の厳しい状況下で、命を賭して宮城県から上京した一行を受け入れたのが、『側近日誌』などで知られる木下侍従次長(当時)でした。木下氏はその「日本人のまごころ」に心を打たれた旨を『名もなき民のこころ』などに記しています。昭和25年、その木下氏が初代理事長となって発足したのが国民公園協会の前身である「皇居外苑保存会」だったのです。

「そのような背景で誕生した組織なので、ここで働くスタッフは皆誇りとともに、いらっしゃるすべての皆様に対して、奉仕の精神を持って、まごころで接しています。」

数年前からは、外出のままならない人々にも国民公園を利用し、楽しんでもらおうと、関連施設に案内を送るなどの対応もしてきたそう。乗り物や車椅子、医療機器などの進歩によって、近年はますますその数も増え、月に20~30件、支援者も含め、10名ほどのグループから最大で40、50名の団体まで来るようになっているそうです。こうしたことも背景になり、今回の団体受験に至っています。

おもてなしは自然体

高齢者疑似体験の様子。みなさん本当に高齢者のようです

楠公レストハウスを訪れた人ならご存知かと思いますが、スタッフのホスピタリティ度は非常に高いのが特徴です。障害者に対しても、車椅子が用意されているほか、食事含めさまざまな問題にも対応してくれます。ぼーっと突っ立っているだけですぐスタッフが声をかけてきてくれる。しかも、その態度がまったく押し付けがましくなくて親切が重くないのが素晴らしい。そんな優秀なスタッフが揃っていますが、ユニバーサルマナー検定を受けて得たことはあるのでしょうか。

「それはもちろん。日ごろ接してはいても、外出弱者の方がどう感じて、何を考えているかは推し量りがたいもの。それを学ぶ機会を得られたことは非常にありがたいです」

基本的なことでは「普段気付かないことではあるが、世の中のものが大抵は右利き用にできているように、"通常の人"向けに出来上がっていることに改めて気付かされた」といいうようなことから、「お手伝いできることはありませんか?といった声の掛け方」のようなものまで。現場での具体的な例では、特に介助者1名で複数の利用者を担当しているケースでのサポートの仕方まで、いろいろなノウハウを学ぶことができたそう。

「大切なのは、ハード面を揃えて"すべてに対応しました"ということではないということなんですね。スタッフも"それ用"に揃えて待ち構えております、ということではない。あくまでも自然体で構えて、利用者の皆様に気兼ねをさせないようにすること、精神的な負担を掛けないこと。そんな形にしたい」と岡本氏。だからユニバーサルマナー検定も「資格を取れば良いというものではなく、その理念や考え方、精神を学び続けることが大切」なのだと話します。

最後に、大丸有のまちづくりに期待することは?とお聞きすると、「日本を代表する街として東京駅を中心にユニバーサルデザイン化を」というハード面とともに、「人と人が自然体でつながりあえる街に」というソフト面での期待も。

「日本人は、傘を差してすれ違うときにちょっと避けるような、もともとちょっとした優しい心を持っていると思うんです。そんな日本古来の人に対する配慮は、日本人の美学そのものとも言えるでしょう。今は無関心か過剰な親切になってしまっていますが、自然体で人とコミュニケーションが取れるようになれば、そういう美学がごく自然に出せるようになるのでは。そんな人と人が裸で触れ合える街にしてほしいですね」

日本人の「まごころ」

楠木正成像は東京三大銅像のひとつにして皇居外苑のシンボルだ("Imperial Palace, Tokyo" photo by John Gillespie[flicker])

例えばイスラム教やユダヤ教のなんたるかを理解しないままに眼の色を変えてハラルやコーシャに対応しようとするような、過剰な"おもてなし"に違和感を覚える人も多いでしょう。楠公レストハウス、国民公園協会の姿勢や考え方、ユニバーサルマナー検定の理念は、そこに一石を投じてくれているように思います。「おもてなし」とは何なのか、改めてしっかりと考えさせられる取材となったのでした。

最初の勤労奉仕団60名が皇居での草刈作業をしている際に、昭和天皇がその現場にまで足をお運びになり、お声を掛けられたというエピソードが残っています(これが現在でも"ご会釈"として引き継がれています)。昭和天皇が立ち去られる際に、にわかに湧き上がったのが当時は禁止されていた『君が代』。歌声はいつしか嗚咽に変わり、「陛下は、唱い終わるまでその場でお聞きになっていた」。

「皆説明し難い悲しみを持っていたのだ。私も悲しかった。(中略)今思うと、あの時の、何かしら云い知れぬ大きな力のこもった悲しさこそ、日本復興の原動力になったのではなかろうか」(木下侍従次長の言葉。資料『皇居勤労奉仕団の歴史』より抜粋)

わが身は下より、大切な家族までもが困窮している時代において、相手を敬い、手を差し伸べる姿勢、日本人の原点がそこにあります。勤労奉仕団のこの逸話の中にこそ、本当のおもてなしの精神が込められているような気がします。


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