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【レポート】副業実践者と人事担当者が語る「副業の本当のメリット」(後編)

人事部連絡会第1回 2021年7月9日(金)開催

8,17

2021年7月9日に開催された「人事部連絡会」の2021年度第1回。同会は、大手町・丸の内・有楽町エリア(以下、「大丸有エリア」)の人事部ご担当者の支援・情報共有の場として、2016年より定期的に開催しています。今回のテーマは、昨年12月に開催された2020年度第2回に引き続き「副業」です。

前半の副業に関するトレンドや実態調査の結果共有を受け、後半では、副業を実践中の社員の方に登壇いただき、副業のメリットや導入後の効果と課題などについて本音を語っていただきました。

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副業は「働く」ことの本質を再確認できる絶好の機会
──トヨタ自動車株式会社 中川拓也氏

副業は「働く」ことの本質を再確認できる絶好の機会
──トヨタ自動車株式会社 中川拓也氏

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次に、副業実践社員2人目として、トヨタ自動車の中川拓也氏が登壇しました。同社で車両のボディ(骨格)設計を担当しながら、家族と共に暮らす岐阜県土岐市で副業を実践しています。「土岐市以外のことはやらない、地域密着型のパラレルワーカーを自負している」と話す中川氏は、自身のバックグラウンドについてこう話します。

「親が転勤族で、地元と呼べる場所がなかったことが長年のコンプレックスでした。自分の子どもたちにふるさとを作りたかったこと、新しく住むことになった土岐市という土地で、地元のように地域で暮らしたいという想いがあったことから、地域にこだわって活動しています」

土岐市は、1300年以上の歴史を持つ美濃焼の産地であり「陶磁器生産量、日本一のまち」として知られています。中川氏は「地域資源を活用した観光商品を作りたい」という想いのもと、創業150年の老舗酒蔵で、2019年に副業を開始。地場の陶磁器メーカーと二人三脚で、美濃焼カップ酒「Cuple」の開発に取り組んできました。

「ゼロベースで、何を作ろうかというところからのスタートでした。陶磁器でカップ酒を作るというアイデアが出たものの、形にするためにはまず資金が必要です。観光協会に補助金を申請してみましたが承認されず、Crowd Worksでデザインを募集してもいい案が集まらずと、滑り出しから失敗の連続でしたが、雇い主である酒蔵の杜氏が良い意味で放任主義な方で、チャレンジする機会を与えてくださいました。商品企画から生産、マーケティング、販売に至るまで一連の業務を経験できたことは、本業にはない副業ならではの醍醐味だったと思います」

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この開発において、中川氏が最も苦心したのは「漏れないカップ酒を作ること」。試作品第1号が完成するも、陶磁器であるがゆえに、ダダ漏れしてしまったのでした。

「焼き物でカップ酒を作るのは、やはり難しいかもしれないと周りの方に言われたのですが、この時ばかりはエンジニアの血が騒ぎました。『漏れの原因が分かるまであきらめられない』と陶磁器メーカーの方にお伝えして、フタをした状態で断面を切っていただくと原因が分かりました。みんなが声を上げて喜んでくれた時、すごく嬉しかったです。副業をやっていて良かったと思えた最初の瞬間でした」
その後、漏れない構造に改良したカップ酒はデザインも決まり、500個の製品として生産され、お客様の元に無事届けられました。その間中川氏は、地元の新聞やラジオに自ら売り込み、広報活動にも精力的に取り組みました。こうしてカップ酒の開発は成功に至りましたが、その過程において、深く悩んだことがあったと言います。

「本業と違って、副業は関わる時間が多かったり少なかったりします。多くの時間が割けず、あまり貢献できていないのではと考えたことも。特に大企業にいると、『働く』意味について考える機会ってあまりないと思うのですが、副業を通じて改めて見直すことができました。例えば本業の場合、あるひとつの結果を出せなかったとしても、この経験を次に活かそうと捉えることもできますが、副業ではどれだけ時間を費やしていようと、結果が出ていなければ相手の方が自分に対してお金を払う価値はないわけです。大切なのは、お金に見合う"時間"を費やしたかではなく、相手の"期待"に応えられているかどうか、"結果にコミット"できたかどうかということ。相手の期待とゴール設定が重要であり、むしろこれがなければ、インセンティブは発生し得ないという、働くことの本質的な部分に立ち返ることができました。この経験は本業にも良い影響を与えてくれ、以前より生産性が向上したと感じています」

「地域に関わっていくためには、事業開発をしっかり学ぶ必要がある」と考えた中川氏は、2019年、中部経済連合会が展開する中部圏イノベーション促進プログラム「ビヨンド ザ ボーダー」に参加。その経験をもとに、現在も地域の窯業との新規事業開発や美濃焼のリブランドに携わるなど、精力的に副業を続けています。

そのかたわら、「2000万人をまちに連れ出せ!」をミッションに掲げるプロジェクトのもと、土岐市を訪れる人々を市内に誘導するためのコンテンツ制作や、みんなで土岐を考える大交流会 「ときどきトーキン!」を開催するなど、行政と連携したまちづくりにも関わっています。

中川氏によれば、副業・兼業には「自分だけの人脈と経験が得られる」「自分の価値を見つめ直す機会となり、今までの会社人生も無駄じゃないことに気づくことができる」「時間ではなく、生み出す価値に意味を見出すことができる」といったメリットがあり、「そして、何より楽しいです!」と笑顔で断言。「良き出逢いと、良き複業ライフを」と視聴者にメッセージを送り、プレゼンテーションを締めくくりました。

パネルディスカッション

続いて、西村氏のファシリテートのもと、登壇者とのパネルディスカッションが行われました。

副業をしていると本業のように相談できる相手がいない場合も多い中、副業実践者のコミュニティも増え、まだ始めていない人がどうしたら始められるかを相談したり、実践者たちが悩みを相談したりする場も出てきているといった話がありました。

最後に各人が以下のようにまとめ、会を締めくくりました。

西村氏:昨年から私が副業の支援をさせていただいているある企業では、副業解禁したタイミングで、副業実践者はほぼゼロの状態でした。そこで講演に伺った際、ワークショップを開催しました。参加者の方には「もし、私が副業するとしたら、どんなことがスキルとして活かせられそうか?」を考えてもらい、自分が得意なことや好きなことを洗い出し、プレゼンし合っていただきました。
その半年後、5〜10人ほど副業を実践する方が現れました。そこで「副業サミット」をオンラインで開催しました。その方たちに、副業の取り組みをプレゼンしてもらったあと、直接副業の相談ができる場を設けてみたところ、100人以上の人が集まり副業の輪が広がっています。

まずは、少人数でもいいので事例を作る。そして、その人たちの話を社内の人が聞ける場を設ける。そういうことをやるだけで、「私にもこんなことができるかも?」と小さな一歩を踏み出せて、結果的に個々のスキルアップや自己成長につながる副業が実現できる。そんな側面もあると思うので、ぜひ参考にしていただければと思います。

中川氏:副業をしていて、一番身につく力は胆力だと思います。通常、会社で働いていると、やり方が分からない仕事ってあまりないと思うのですが、副業ではどこから何を始めればいいか分からないことが多々あります。その中でとにかく前に進んでみて、大丈夫そうなら、さらにもう一歩進むといった動き方が身についてくるので、サバイバルできる人間を育てるという意味でも、非常に有効だと思います。ぜひ副業を積極的に推進していただきたいと思います。

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