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【国際】おもてなし「しない」国のツーリズム 持続可能なまちづくりとは

インタビュー:森友紀子さん(イギリスファームステイ研究家)

森友紀子さん(中央)

日本政府観光局によると、2014年に日本を訪れた外国人旅行者数は、前年比29.4%増の1341万3600人(推計)と過去最多でした。2020年の東京オリンピックまでに訪日外国人旅行客数を2000万人にまで増やそうと、観光産業(インバウンドツーリズム)は盛り上がりを見せています。おもてなしのサービスや語学を磨こうといった動きや、各地で特色ある地域活性化事業も進んでいます。

「地域のツーリズムで大切なことは、それが住民にとって幸せかどうかということです。サービス精神の行き過ぎでは長続きしません」と話すのは、イギリス在住のファームステイ研究家で、欧州のツーリズムに詳しい森友紀子さんです。

住民の幸せな生活と健康とともにある持続可能なツーリズムとは、どのようなものでしょうか。おもてなし「しない」国、イギリスの事例を伺いました。

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「住民のため」が「観光客のため」に

「住民のため」が「観光客のため」に
チッペナム2020年計画に学ぶ

チッペナムに流れる清掃されたエイヴォン川 Photo by Yukiko Mori

森さんが住んでいるのは、日本人にも人気の高い世界的な観光地であるコッツウォルズ地方やリゾート都市バースに程近い、チッペナムです。

チッペナムはこの人気観光地に続いて「リトル・バース(小さなバース)」と呼ばれ栄えた時代もありましたが、近年では「バースに行きたかった人が迷ってたどり着く町」などと呼ばれ、特徴のない町となっていました。

しかし森さんによると、そのチッペナムが最近、再び観光客を取り戻しているそうです。

「イギリスの人気観光地のほとんどがそうであるように、チッペナムは観光客に人気の町を目指したのではありません。住民にとって住みよい町を目指した結果として、再び観光客が集まるようになっているのです。

『CHIPPENHAM COULD ONCE AGAIN BE A GREAT TOWN(チッペナムを再びすばらしい町に)』をスローガンに「Chippenham 2020(チッペナム2020年計画)」という都市計画のもと、地域の資源を生かした住み良いまちづくりが進められています。例えば、コッツウォルズストーンと呼ばれるこの地域で採れるはちみつ色の石材を使った公共の駅や駐車場づくりや、町に流れるエイヴォン川の清掃、そしてセンスの良い品々を揃えた個人商店の支援などの取り組みがあります。住民にとって気持ちの良いことは、観光客にとっても気持ちの良いことなのです」

自分の幸せあってこそ他人も幸せ
おもてなしし過ぎない英国式B&B

森さんは現在、日本人を主な対象として、イギリスの農家に暮らすように滞在するファームステイツアーや、プライベートツアーを主催しています。イギリスと日本を行き来し、現地の民宿とやりとりをしてきた森さんは、日本とイギリスには接客の姿勢に違いがあると気が付いたと言います。

「イギリスのツーリズムは、もっとビジネスとして割り切っています。あくまで自分の生活を崩さないのです。例えばイギリスに多い宿泊施設のB&B(ベッド・アンド・ブレックファースト)では、宿泊者はオーナーの生活のなかにお邪魔させてもらう、といった雰囲気です。イギリスは個人主義の国なので、彼らは自分というものを大切にしています。自分が幸せなことが前提で、それがあって初めて他人を幸せにできると考えるのです」

日本人にとっては少し冷たく聞こえるかもしれませんが、この「おもてなしし過ぎない」個人主義の接客には、利点があるのだそうです。

行き過ぎたおもてなしに注意
自己犠牲は長続きしない

イギリスのファームステイ専門誌

「例えばイギリスのB&B(ベッド・アンド・ブレックファースト)は、宿泊場所と朝食だけ提供するというシンプルなスタイルです。一方で日本の民宿や旅館は朝食・夕食の2食付きのところが多くあります。さらには、最近では民宿と農業体験を組み合わせるようなパッケージツアーも増えていると聞きます。お客さんと接する時間が長すぎて、疲れてしまわないか心配です。受け入れ側には、自分の時間や生活も大切にしてほしいですね。自己犠牲のポスピタリティは日本人の美徳ですが、ある程度の線引きをする方がかえって長く続きします」

なお、イギリスでは自宅で仕事を行いながら副業として、あるいはリタイアした高齢の夫婦がB&Bを営むことも多いようです。こうした少し肩の力を抜いたスタイルだからこそ、実現できるのかもしれません。

地球レベルで考える
もう一度行きたくなる国、日本

森さん主催のイギリスファームステイツアーにて。右端が森さん

この持続可能なツーリズムという考え方は、「東京オリンピックを控える日本にこそ大切」だと森さんは言います。

「東京オリンピックをきっかけに訪日する人を対象にするツーリズムでは、単発的になってしまいます。ぜひ、東京オリンピックをきっかけに日本に興味を持ち訪れた人が、『もう一度行きたくなる国』を目指してほしいです」

もう一度行きたくなる国、日本とはどんな国でしょうか。「その答えは、地球レベルで考えれば、自ずと見えてきます」と森さんは答えます。

「地球上で日本という国は、たった一つしかありません。世界の他の国が、そこを訪れるということは、どういうことでしょうか。日本といえば、やはり海外からの注目は「Where Tradition meets Technology」、伝統とテクノロジーが融合した国だということで、多くの人が興味を持っていると思います。
また、日本人は海外のものを柔軟に取り入れるのが得意ですが、もっと私たちはこういう国で、こういう人たちだという強さを持ってもいいと思います。そのために、江戸時代など、世界から注目されたかつての日本の姿から学ぶことも必要なのではないでしょうか」

おもてなしとは、相手を慮る、相手に寄り添うことだけではなく、もっとさまざまな形があるのかもしれません。

旅先の町で体感する
「心地よさ」にヒントが

イギリスのファームステイ先から見える朝もや  Photo by Yukiko Mori

森さんの主催するイギリスのファームステイツアーでは、築600年の歴史を持つ農家などに宿泊し、その町と暮らしを体感できます。

「海外や他の町に滞在してみると、何が私たちの町にしかないもので、何が足りないのかを考える機会になります。ツアーでは、例えば季節の美しいものを飾るオーナーさんの意識の高さや、テーブルにキャンドルを灯すゆっくりと流れる時間、町では行き交う人たちが知らない人同士でも"Hello"と声を掛け合う姿は、日本の方にとって感じるところが多いようです。 そうした気付きのためにも、ぜひ旅をしてみてください。そして『なんとない心地よさ』を感じたら、それを突き詰めておみやげとして持ち帰り、皆さんの町で実践してください」

森友紀子(もり・ゆきこ)
イギリスファームステイ研究家

イギリスの農家民宿やオーガニックカフェを研究。雑誌などのメディアでの情報発信やツアーコーディネートなどを通して、イギリスの農村と日本の架け橋として活動している。

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