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【国際】環境とテクノロジー共生のふるさと

ウェールズ「代替技術センター(CAT)」を訪ねて

Centre for Alternative Technology

世界が注目する環境教育センター

再生可能エネルギー、持続可能建築、有機農法など、環境に調和した生活のための新技術を代替技術(Alternative Technology/AT)と呼びます。こうした代替技術を活用した実験的な取り組みを集結し展示するヨーロッパ最大級の環境教育センターが、イギリス西部に位置する中部ウェールズに存在します。

「Centre for Alternative Technology(代替技術センター/略称CAT)」は今年、開設からちょうど40周年を迎えます。これまで代替技術の実験場として、来訪者が地球環境とサステナブルな生活のあり方を学ぶ体験型見学センターとして、そして環境リーダーを育てる修士コースや夏のショートコースを提供する教育機関としての3つの役割を担ってきました。

人里離れた地にありながらも、今や世界の環境活動家らはもちろん、子どもから大人まで多様な世代の来場者を惹きつけ続けるCAT。実際にセンターを訪ねその魅力を探るとともに、展示・運営の工夫や次の40年への想いを伺いました。

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CAT40年の歩み

CAT40年の歩み

CATは、ロンドンから列車で西へ約5時間半、中部ウェールズ地方の小都市Machynlleth(マカンレス)外れの採石場跡に位置します。美しいスノードニア国立公園を眺める広さ7エーカー(2.8ヘクタール)に及ぶ敷地内には、エコハウスや代替エネルギー装置の野外展示、講義棟と宿泊施設、オーガニックレストラン、ガーデン、実験成果の出版物やエコグッズを販売する売店があります。

センター内を案内してくれたのは、常勤スタッフ約60人のうちの一人である広報担当のキット・ジョーンズ(Kit Jones)さん。就職とともに恋人と都心からCATの近所に移住し、サステナブルな生活を実践しています。

広報担当のキット・ジョーンズ(Kit Jones)さん。

「CATは1973年、近代的な技術文明に疑問を持った地元の有志メンバーらの手によって、自分たちで食糧を育てエネルギーを作る場として、そして自分たちの代替技術のアイデアを実際に試してみる場としてスタートしました。次第に賛同者が集まるコミュニティとして発展し、また『何かおもしろいことをやっている人たちがいる』と見学に訪れる人が増えました。そこで1975年より一般公開を始め、運営費の収入も得るようになりました。これが現在の、実験場と展示、ビジターセンターを組み合わせたスタイルの原点です。」

1974年、CATに初の水力発電タービンを導入する初期メンバーら(提供写真)

花を食べ植物を額装-体験型展示の工夫

センターが高い評判を得ている一つが、展示の工夫の数々です。代替技術というと難しそうな響きですが、館内を散歩するように歩きながら、体験を通して環境やテクノロジーを学ぶことができます。

学校見学の案内も担当するというキットさんにまず案内されたのは、「Edible Garden(食べられる庭)」。キットさんは花を摘むと、突然、むしゃむしゃと食べ始めました。

「こうすると、子どもたちが目を丸くして驚くんですよ。こうして、食べられる花があるということを体験してもらいます。この花はCATのレストランでもサラダに出しています。どうぞ、好きに摘んで食べてください」

続く庭には、木々がまるで絵画のように額装されています。

「ここは『Gallery for the plants(植物のためのギャラリー)』という、植物をじっくり観察してもらうための展示スペースです。もともとは植物を並べていたのですが来訪者の皆さんがラベルの文字を少し眺めるだけで、植物を観察していないことに気が付きました。そこで、スタッフの庭師が、それでは『有名な絵画のようにじっくり見てもらおう』と、それぞれの生きた木を額装したのです」

Gallery for the plants(植物のためのギャラリー)

野外に展示されているエコハウス(Self-build home)の数々は、"Passive House(ドイツで始まった環境負荷の小さい家)" や"Green roof(緑の屋根)"といった各年代を代表する持続可能な技術を備えた建築物です。屋内外を見学しながら、その仕組み、そしてフロンティアの精神を感じることができます。

CATは自分の家を自分で建てる5日間コースも提供しており、これは最も人気のショートコースのひとつ。シンプルな造りで、手に入れやすい自然の素材を使いながら、ソーラーパネルなどを使ってエネルギー効率の高い家を作ります。

ストローベイル(藁のブロック)でできた劇場。子どもたちは自然の素材を使って人形劇を行う。

「CATでは、発展するテクノロジーそれ自体を楽しむことが目的ではありません。テクノロジーを人の生活のエンパワーメントとして捉え、どう活用できるのかを考え、実践することを目的としています。エコハウスは作ることそれ自体ではなく、社会生活を営む私たちのためのラーニングプロセスです」

その他、モグラやバクテリアなど土壌中の世界を体験する洞窟や、ゴミ処理場に続く滑り台をゴミの気分になって降りる、といった遊具も用意されています。

ラーニングコースのための講義室や宿泊施設も、木材の切れ端、ヘンプ、地元の土壌といった自然素材でできたエコハウス。

次の40年の鍵は「環境変化への適応」

来たる8月2日には創設40周年記念パーティーが予定されており、現地は設営準備に入っていました。次の40年に向けて、CATはどのような未来を見据えているのでしょうか。

「次の40年で鍵となるのは、環境変化への適応です。昨今の国連報告書でも知られるように、現在、地球温暖化が私たちの生活環境に、確実に、深刻な影響を与え始めています。地球温暖化に対して、私たちは社会、建物、インフラをどのように適応させていくべきでしょうか。環境に負荷を与えないようにするにはどうしたらいいのでしょうか。行動を起こしていく必要があります。CATは今年9月より、環境変化への適応をテーマにした新しい修士コースを開設します。英国全土に、そして世界中にコミュニティを広げていく必要があります」

開拓者であるCATが見据える未来は、私たちの未来でもあります。日本はテクノロジー大国と言われますが、新たな技術は地球の環境変化やサステナブルな生活環境のために、どのように使えるでしょうか。次の40年に向けて、あなたの手を動かしてみませんか。

通常の温室の3分の1しか熱のいらないドーム型温室


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