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ブルーカーボンは海洋生態系保全と脱炭素を実現する大きな一手に

――東京ガスグループの「ブルーカーボン」活動を通じて海の可能性を知る

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海の藻場や湿地帯、マングローブなどの海洋生態系に取り組まれた炭素を指す言葉である「ブルーカーボン」。新たなCO2の吸収源であり、温室効果ガス削減の重要な一手として、近年注目度が高まっています。日本国内でも、ブルーカーボンを十二分に活用していくための環境整備を手掛けたり、それらの活動をビジネスにつなげたりする組織や企業が増えてきています。そのひとつである、日本最大の都市ガス事業者である東京ガスグループは、具体的にどのような活動を展開し、それによってどのような社会の構築に寄与していきたいと考えているのでしょうか。
同社でブルーカーボンに関する取り組みを主導する小林直子氏(サステナビリティ推進部 サステナビリティ推進グループ 担当課長)にお話を伺い、ブルーカーボンに秘められた可能性を考えていきます。

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「責任あるトランジション」の一環としてのブルーカーボンへの取り組み

「責任あるトランジション」の一環としてのブルーカーボンへの取り組み

image_dmy_230202.002.jpeg東京ガス株式会社 サステナビリティ推進部 サステナビリティ推進グループ 担当課長の小林直子氏

従来、生物によって吸収される炭素は、陸の生物によるものも海の生物によるものも区別なく、すべてが「グリーンカーボン」と呼ばれていましたが、2009年に国連環境計画(UNEP)が発表した報告書『ブルーカーボン』の中で、海洋生物によって吸収・貯留される炭素のことを「ブルーカーボン」と呼ぶようになりました。それから現在に至るまで、温室効果ガスの削減が急務となっている世界の中で、ブルーカーボンは新たな吸収源の選択肢として注目を集めると共に、海の可能性を世に提示する役割も担ってきました。実際、ブルーカーボンの定量的評価などを行う団体であるJBE(ジャパンブルーエコノミー技術研究組合)が中心となり、ブルーカーボン生態系を活用したカーボンオフセットの総量をクレジットとして認証し、CO2削減を図る企業や団体とのクレジット取引を行う「ブルーカーボン・オフセット制度」の構築が進められるなど、日本国内で盛り上がりを見せています。

こうした状況下において、化石燃料を取り扱う東京ガスグループがブルーカーボンに取り組むようになったのはなぜなのでしょうか。小林直子氏は次のように説明します。

「前提として、東京ガスグループでは「CO2ネット・ゼロ」への移行をリードするため、環境性を追求しながら、安定供給や経済性も含めた移行を推進していく『責任あるトランジション』というキーワードの下、ガス・電気の脱炭素化に挑戦しています。例えば都市ガスの主原料であるメタン(CH4)を燃焼させるとCO2が排出されますが、実はCO2と水素を化学反応させるとメタンを合成できるのです。この技術を『メタネーション』といい、グリーン水素等の非化石エネルギー源を原料として製造された合成メタンを『e-methane(イーメタン)』と呼んでいます。大規模・商用化に向けたメタネーションが実現できると空気中にCO2を排出せずに都市ガスを使っていただけるようになります。また、e-methaneは従来の都市ガスのインフラ網があればお客様にお届けできますので、利用者や社会的コストに負荷を掛けず、サステナブルにエネルギーを提供していくことが可能です。その他、電気分野では再生可能エネルギーにも取り組んでおり、グループ全体としてCO2ネット・ゼロを推進しています。こうしたCO2ネット・ゼロに向けた動きの一環として、生物の力を借りて空気中のCO2を吸収するブルーカーボンにも取り組んでいます。」(小林氏、以下同)

image_dmy_230202.003.jpeg「森里海つなぐプロジェクト」では、東京ガスグループのサービスを利用して貯められる「パッチョポイント」を寄付することができる

東京ガスは、2017年からスタートした「森里海つなぐプロジェクト」でブルーカーボンの取り組みを始めました。このプロジェクトは、人の暮らしを支え、豊かにする最大のインフラである森・里・海を守るための社会貢献活動で、NPOや地域住民、東京ガスグループの社員及びその家族と共に、環境教育、里山保全活動、アマモ場再生活動などに取り組むというものです。このプロジェクトを通じてアマモ場の重要性に気づき、ブルーカーボンの取り組みを続けています。

「アマモがCO2を吸収してくれることは知っていましたが、ブルーカーボンの為にアマモ場を再生しようというよりも、当初はアマモ場を再生することによる、生物多様性の保全につながることに着目していました。アマモ場は、『海のゆりかご』と呼ばれていて、稚魚が敵から身を隠すための隠れ家になったり、卵を産み付ける産卵場所になったり、魚介類にとってのえさ場となったりと、海の生き物を育んでくれる重要なインフラです。そこで、東京ガスグループにとって関わりの深い東京湾エリアでアマモ場再生活動を展開していくことになりました」

アマモ場の再生活動は、NPO法人海辺つくり研究会の協力を得ながら展開しており、神奈川県・金沢八景や木更津金田漁港を舞台にアマモの種まきや花枝の採取などを実施しているそうです。

「陸の森林だと生まれ変わるのに数十年という時間が必要になりますが、アマモの場合は一年草なので、より短いサイクルで、定期的にCO2の吸収が期待できます。アマモの育成に携わり、CO2の吸収を促進しながら海にいる様々な生物と触れ合えるので、子どもたちはもちろん、大人の方も生物多様性を実感できます。現在はNPOや地域の漁業協同組合、国土交通省の関東地方整備局など様々な組織の方々とつながり、東京ガスグループの関係者も延べ800人以上が参加してくれています。私自身、アマモの再生活動を行うようになり、自然のパワーに魅了されていると感じています」

東京湾におけるアマモ場は、都市開発や埋め立てなど社会活動が原因となって大きく減少し、一時は壊滅的な状況に陥っていたそうです。2000年代頃から始まった市民による再生活動や、東京ガスのプロジェクトの影響もあって徐々に再生は進んでいます。そしてこれからは、再生を進めると同時に人間と自然の共生のあり方を考えていくことが必要であるとも、小林氏は話しました。

「例えば再生可能エネルギーの分野で洋上風力発電が注目されていますが、洋上風力発電の土台にアマモ場のようなブルーカーボン生態系を創ることができれば、エネルギーを生み出しながらCO2を吸収させ、海の生態系も豊かにできます。現在の人類が持っている技術を活かせばそういったことも可能だと思うんです。アマモ場の再生活動を通じて、そうした夢が広がっている状況です」

image_dmy_230202.004.jpegアマモ場再生活動には子どもたちも多く参加しており、環境教育も兼ねています

ブルーカーボンにまつわる3つの課題と日本が抱えるチャンス

image_dmy_230202.005.jpegJブルークレジットを購入することは地域貢献にもつながると小林氏

東京ガスグループが実施しているのは、ブルーカーボン生態系の維持・拡大だけではありません。この取り組み自体を持続可能なものとしていくために、2020年には、JBE(ジャパンブルーエコノミー技術研究組合)が発行する「Jブルークレジット」を購入し、自社が排出したCO2の一部をこのクレジットに投資することによる埋め合わせる、カーボンオフセットを実施しました。

「NPOの活動も慈善の精神だけでは回っていきません。そこで我々のような企業がJブルークレジットを購入すれば、NPOなどブルーカーボン生態系を保全する人々の活動資金が創出できますし、企業としても環境保全活動と同時にCO2のオフセットを実現できます。東京ガスグループでは、横浜ショールームにおける都市ガス消費に伴うCO2排出の一部をオフセットの対象としました。アマモ場の再生活動は主に横浜で実施しているので自然の循環はもちろん、地域の経済を循環し、CO2(炭素)の循環もさせていると言えますので、地域に根ざした活動になっている点もポイントだと考えています」

このように精力的にブルーカーボンに関する取り組みを進める東京ガスグループ、そして小林氏ですが、活動を展開する上でいくつかの課題も感じていると言います。それは次の3点です。

(1)マンパワーや資金の不足
(2)海に対する精神的距離の遠さ
(3)ブルーカーボンを取り巻くさらなる技術開発

「アマモ場の再生活動もそうですが、非常に手間が掛かりますし、活動の資本金も必要です。この課題を解決するために『森里海つなぐプロジェクト』を展開したり、Jブルークレジットを購入したりしていますが、より多くの仲間を増やしていきたいと考えています。また、一般的な生活の中で海を意識する機会が少ないことも、(1)の課題に関係していると思います。そのため、少しでも人々の意識を海や自然に向けられる取り組みも必要だと言えます。(3)に関して一例をあげると、実はブルーカーボン生態系によってどれだけのCO2が吸収されたのかを測定することはとても大変だと言われています。その簡単な方法を生み出すことができればブルーカーボンに関する取り組みはもっと広がるでしょうし、逆に言えば、領海と排他的経済水域を合わせた面積で世界6位であり、技術も持っている日本にとっては大きな可能性を秘めている点だとも思っています」

こうした課題を解決することは、ビジネス的な観点だけではなく、将来の地球のためにも非常に重要なことであると小林氏は指摘します。

「そもそも温室効果ガスを排出しないためには省エネを心がけたり、ごみを出さないような製品やサービスを利用するサーキュラーエコノミーを実現していくことが大事です。そうした行動がこれからの子どもたちの生活を変えていくことになるという意識を持つ必要があると思います。もちろん簡単なことではありませんが、今の自分の生活を少し俯瞰して見ていくことで将来の地球を守る事につながり、気づきを得られるのではないかと感じています」

最後に小林氏は、次のように熱意を込めて今後の展望を語ってくれました。

「私たちは化石燃料を取り扱う企業である分、皆さまの暮らしや産業に大きな影響を与えずに脱炭素社会を実現できるように、知見や技術を高めていくことに邁進しています。インフラ会社としてそのような姿勢で事業に取り組むことで、地球の未来も明るくなると信じて活動を続けています」

今回ご紹介したように、ブルーカーボンはその重要性が認められ注目度を高めている領域であることは間違いありません。ただ、小林氏が指摘したように課題も少なくないことから、世界的なムーブメントとなるにはあと一歩という状況にあります。そのような情勢にあるからこそ、世界最大の都市ガス事業者である東京ガスグループの今後の動きは重要なものとなっていくのでしょう。これからの展開が大いに注目されます。

image_dmy_230202.006.jpeg現在のプロジェクトに携わることで「社会のためになり、人を豊かにするという入社時に掲げた目標を実現できている」と充実した表情で話してくれた小林氏。写真右はインタビューを行うエコッツェリア協会の田口真司

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