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【国内】地方創生のエッセンスとは何か

アルカンヴィーニュフォーラム 千曲ワイン倶楽部 の可能性

本番を迎える地方創生の課題とは何か

地方創生関連交付金の予算申請のニュースが飛び交うようになり、ようやく「地方創生」はこれから"本番"に移ろうとしています。

しかし、一部の自治体が申請しなかったことで改めて明らかになったように、「先駆性」「官民連携」に頭を悩ませている自治体が、今なお多いことは周知の通りです。そこで今、各自治体が取り組み始めているのが、改めて「連携」の道を外部に求めることで、NPO主導型事業との提携や、企業とタイアップした観光施策などは分かりやすい例なのですが、この連携のバリエーションにはさまざまな形があり、今風に言えば、「共創」「コ・クリエーション」のムーブメントが、ようやく自治体にも浸透しようとしている、ということなのかもしれません。

そんな中、先日、非常に「先進的」と言える取り組みが、長野県東御市で発足しました。日本ワインの先駆的存在、エッセイストの玉村豊男氏、「フォーラム21梅下村塾」で基盤つくりに関わった小山眞一氏らが仕掛ける「アルカンヴィーニュフォーラム」です。

今、日本各地で盛り上がりを見せている「日本ワイン」の産業化をテーマに、行政とのリレーション、地方企業と東京の企業の連携プラットフォーム構築、人材育成スキームなどを含む多角的構想。「6次産業化」から始まり、「広域連携・地域間連携」、「トライセクター」「サステナブル」「コ・クリエーション」といった、地方創生のみならず、さまざまな社会課題解決におけるキーワードを多分に含むもので、その今後の展開に期待が寄せられています。

筆者が特に注目したいのは、野村恭彦氏率いる株式会社フューチャーセッションズが参画していること。フューチャーセッションによって、外部の企業団体が地方へ"入る"プロセスに生じる軋轢をどうクリアするのか、また、地方側のプレーヤーに「コ・クリエーション」の概念をどう知らせ、巻き込んでいくのか、興味は尽きません。

3月11日には、その準備のためのオリエンテーションが、東御市で開催されました。本格的なキックオフは、3月28日に東京で開催される予定ですが、その前にアウトラインを概観したいと思います。

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マルチステークホルダーが集うプラットフォーム

マルチステークホルダーが集うプラットフォーム

3月11日のオリエンテーションの様子

玉村氏アルカンヴィーニュフォーラムの正式名称は「アルカンヴィーニュフォーラム『千曲川ワイン倶楽部』」。玉村氏らが、農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)の支援を受けて建設した基盤ワイナリー「アルカンヴィーニュ」およびワイングロワー(ブドウからワインを製造する担い手)を育成する「千曲川ワインアカデミー」が母体となっています。このアルカンヴィーニュを拠点に、多企業を巻き込んでワイン産業の創出、民間の投資拡大を図り、地域振興、地方創生につなげていくのが狙い。参加者は、長野県の地元の企業および在京の大企業各社。現時点で約30社が法人・個人会員として参加を決定しています。

名誉会員には、キッコーマン社取締役名誉会長茂木友三郎氏、三井不動産社代表取締役会長岩沙弘道氏、オリックス社シニアチェアマン宮内義彦氏、フォーラム21梅下村塾長の梅津昇一氏、などなど錚々たる顔ぶれ。政治サイドでは、小池百合子衆議院議員、阿部守一長野県知事、花岡利夫東御市長などの首長も参加。

構想では、初年度に1年半のプログラムを予定しており、特に最初の半年は、千曲川ワインバレーについて、また長野県、広域ワイン特区などの「地元」への理解を深めることに重点を置きます。玉村氏が「3年で1つでも事業が立ち上がれば」と語るように、イージーカム・イージーゴーな、安易な取り組みにならないよう、しっかりと腰を据えて、企業が地元と付き合っていく体制を構築していくそうです。

例のない広域連携

行政側の動きでは、長野県では、2013年に阿部知事の旗振りのもと「信州ワインバレー構想」が立ち上がり、協議会が発足。桔梗が原、日本アルプス、天竜川、千曲川の4つのワインバレーでワイン産業振興の取り組みが行われることになりました。

花岡東御市長玉村氏が移住し、ワイナリー「ヴィラデスト」を立ち上げた東御市では、2008年にワイン特区認定を受け、2010年ころからワイングロワー志望の新規就農者が集まり始めるようになり、ワインへのムーブメントが加速。昨年6月には、千曲川流域の8市町村(東御市、上田市、小諸市、千曲市、坂城町、立科町、長和町、青木村)による広域ワイン特区「千曲ワインバレー東地区」が政府認定され、まずは東御市を中心にした活動からスタートしていくことになりました。8市町村で原料のブドウを融通するほか、プロモーションイベントの共催などを行っていくことになります。

花岡市長によると、上田市、小諸市が提携して事にあたるのは「市政が敷かれてから初のこと」。比較的大きい隣接する市が提携するのは、さまざまな条件があって難しい。また、この8市町村を担当する県の地方事務所は3つあるなど、「広域を横串で結ぶのは非常に難しく、珍しい取り組み」なのだそう。しかし、「共通の良いことに対し、喧嘩をせずに力を合わせたほうが、周りからも応援を受けやすい」と、今後、フォーラムと連動した動きに期待を寄せています。

地方創生を支える多様性

在京企業を巻き込んだフォーラムを構想したのが、代表を務める小山氏です。先述の通り、長年フォーラム21梅下村塾に携わってきたほか、富士ゼロックスではさまざま事業に携わり、野村氏が在職時代にはともに活動したこともあったそうです。

フォーラムの構想は、富士ゼロックス時代に培われた「多様性の尊重」に裏付けられていると小山氏は話しています。同社が発展していく過程で、幾度も異質で異文化体験を積んだ人材を多く受け入れ、その度に「社内で強烈な摩擦が起きた」が、「その摩擦を前進のエネルギー」に変えるトップマネジメントと企業風土があったのが富士ゼロックスなのです。その多様性の尊重を地方創生に持ち込み、地域を活性化させるのが狙い。また、参加する在京企業の多くが、実はオーナー企業で、「事業継承課題」を抱えていることから、その解決の一助として、フォーラムを次世代リーダー育成の場として活用していくことも考えているそうです。

小山氏はフォーラム発足の動機を「郷土愛」と説明しています。氏の出身は広域ワイン特区にも含まれる小諸市。長年企業で培った経験を活かし、「地元の活性化に協力したい。町単位ではなく、地域全体を盛り上げるよう、観光でも従来の自治体単位の点の活動を面の広域観光になるよう繋げ、広げていきたい」。いきなり地元に戻っても受け入れられないだろうという思いから、このフォーラムに先立って4年間、高校の同級会の幹事を務めて、地元へ"帰還"したのだといいます。これもフォーラム21梅下村塾梅津塾長の指導理念「流汗悟道」に基づくもの。

地方創生とフューチャーセッション

オリエンの後はワインを飲みながらの懇親会も

フューチャーセッションズの活動について、特に最初の半年のプログラムでの役割が期待されます。地元の生産者、民間企業、行政と、東京の企業がリレーションを図るのは非常に難しいもの。ただ「新しい事業を始める」だけでは、住民の理解は得難く、長続きするものにはなり難いでしょう。

横浜国立大学の三戸浩教授が指摘するように、日本の社会基盤は主観的な「納得了解」に支えられています。弊害はあるかもしれませんが、それこそがコレクティブな日本社会の美質であり、セーフティネットして機能しているもの。それが契約社会などで端的に示される「強制了解」の原理で動く企業と、どう接触を図っていくのか。そのフロントラインがフューチャーセッションになるでしょう。東京の企業からの参加者に対しても、「千曲川ワインバレー、広域ワイン特区、長野県の課題を、他人事ではなく、自分事として考えられるような土壌づくり」(小山氏)から始めていきたいとしています。

11日のオリエンテーションに参加したフューチャーセッションズの芝池玲奈氏も、「地方自治体が広域連携する例は非常に珍しいうえ、ステークホルダーが多様なため、全国的にも面白い取り組みになるのでは」と期待を見せています。

本当の地方創生へ

「地方創生には20年かかる」とは、地域に入り、地元で活躍するプレーヤーが口を揃えていうセリフです。玉村氏も東御市に移住して25年。当初は地元になかなか受け入れられなかった氏も、今では地元のじいさま方と車座で酒を酌み交わす好々爺といった風情となり、ヴィラデストからアルカンヴィーニュ、そしてフォーラムへと、より広範で、継続的な取り組みへと広がりを見せ始めました。

行政サイドでの「広域連携」、東京-地方を結ぶ「地域間連携」、それにまたがるマルチステークホルダーによる「共創」。この取り組みには、地方創生のエッセンスが詰まっているとも言えるでしょう。3月28日には東京で正式キックオフを迎え、4月から本格稼働へと進んでいく。今後もアルカンヴィーニュフォーラムの活動の動きを追いかけていきます。


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