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【国内】魚の「養殖」ニュースを少し考える

日本の食文化を考えるきっかけに

株式会社アーマリン近大で養殖された「近大マグロ」[近畿大学提供]

2013年は養殖ニュース満載

「近大マグロ」のお店が12月に銀座にもオープンし話題となりましたが、このマグロを筆頭に、今年は魚の養殖に関するニュースが一般紙をにぎわすことの多い年でした。近大マグロは、「海を耕す」という理念のもと、難しいとされてきたクロマグロの養殖に取り組み、2002年に完全養殖に成功したものです。近畿大学水産研究所では、クロマグロのほかにもヒラメ、クエなど18種類の種苗生産に成功しています。

このほか、新しいところでは、11月にキモを2倍の大きさにした養殖ウマヅラハギ、通称「フォアグラハギ」(広島県)が出荷され、全国の食通たち注目の的になりました。つづいて福井で高級魚のノドグロ(アカムツ)の稚魚の人工孵化、飼育の成功のニュースもありました。大型なら1匹1万円と言われる高級魚で、あまり口にすることのないノドグロですが、これでもっと頻繁に食べられるのではないかと期待が寄せられています。

岡山理科大学で開発された"魔法の水"「好適環境水」を使った養殖への取り組みも盛んです。好適環境水を使ったクエの養殖は2010年からスタートしていましたが、今年10月にようやく初出荷にこぎつけています。その名も「理大クエ」。「近大マグロ」に対抗してブランド化を目指すそうです。もともとクエは高級魚として2005年には完全養殖に成功し、各地でさまざまな取り組みが行われてきましたが、今年8月、長崎でも稚魚25万匹の大量飼育に成功し、"量産"技術にめどがついたと報じられています。

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別の面も考えたい

養殖技術の背景

こうした養殖をめぐるニュースは、日本の水産技術の高さを証明するものであり、私たち消費者にとってもうれしいものです。しかし、ただ「喜ばしいニュース」として読んでいるだけでは、大切なことを見落としてしまうかもしれません。

近大マグロの種苗センターの様子[近畿大学提供]

養殖技術が進む背景にはさまざまな要因がありますが、最大のものは水産資源の枯渇です。日本近海の漁獲量は年々減少しています。今夏の漁獲量激減を、海流の変化による一時的な現象とする見方もありますが、大きなスケールで見ると減少傾向にあることは間違いなさそうです。地球全体で見ても、1990年代以降、水産資源は枯渇に向かって一直線に進みつつあることも忘れてはなりません。また、日本人の魚食離れも問題です。2005年に肉と魚の消費量が逆転、かつては魚消費量世界1位だった日本も今では6位に転落。しかも、食べる魚の多くが輸入魚で、サンマやイワシなど日本近海で獲れる魚を食べる量は減る一方です。日本の農業と同様、漁業も存続が危ぶまれているのです。

養殖をめぐるニュースでは、日本の水産技術のすばらしさや養殖魚の「おいしさ」が先行します。しかし、背景にこうした事情があることも、決して忘れてはいけないでしょう。

日本食がユネスコの文化遺産に登録されましたし、養殖のニュースは、もう一度日本の食、それも魚食文化を考える良い機会になるかもしれません。マグロやクエもいいですが、たまには焼いたイワシも思い出してあげたいものです。


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