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「資源循環」の現状と今後の展望の把握を目指して行われてきた2025年度のCSV経営サロン。その第3回目は「資源循環の出口、有機性資源のアップサイクル」をテーマに実施しました。
前半の講演では、神戸市による下水汚泥からのリン回収・肥料製造や、日揮ホールディングス株式会社による廃食用油からのSAF製造の事例紹介。後半のパネルディスカッションでは、日本におけるディスポーザーの導入状況の現状などについて情報提供をいただくとともに、有機性資源のアップサイクルに取り組む意義や課題、将来の可能性を検討しました。
神戸市の清水武俊氏
1995年の阪神・淡路大震災で市内の下水処理場が壊滅的な被害を受けたことをきっかけに「災害に強い下水道」を目指すことになった神戸市。現在下水道は(1)下水処理水の有効利用、(2)下水道施設の有効利用、(3)下水汚泥の有効利用という3つの柱を立てて運用しています。このうち資源循環に特に関わりがあるのが「(3) 下水汚泥の有効利用」です。汚泥を発酵させる過程で発生するメタンガスを自動車の燃料や発電のエネルギー源として活用する取り組みが行われています。また、汚泥に含まれる無機物のひとつであるリンを抽出し、肥料の原料として供給。この試みは日本が抱える課題の解決策として期待されています。取り組みを進める神戸市建設局下水道部計画課係長の清水武俊氏はその意義を次のように説明します。
「日本は食料自給率が低い国ですが、作物を育てるための肥料そのものが自給できていません。肥料の三大要素であるリン、窒素、カリウムは国内には埋蔵しておらず、リンは中国やモロッコなど海外からの輸入に頼っているのが現状です。例えば2021年10月に中国が輸出規制を行った影響で、日本では肥料価格が高騰しました。このように国際情勢の影響を受けることは日本の課題となっています。そこで国は、下水汚泥等の未利用資源の利用拡大を大きな方針として掲げ、肥料の使用量に占める国内資源の利用割合を40%まで拡大することが定められています」
一方で下水に含まれるリンは自然に結晶化する特徴があり、配管の閉塞の原因として問題視されてもいました。この対策のために神戸市では、国に先駆けて2011年から配管閉塞抑制とリン肥料化による下水資源の有効利用に関する研究を開始。2014年からはJA兵庫六甲など農業関係者とも連携して、下水から取り出して再生させたリンを肥料化する資源循環の取り組み「こうべ再生リンプロジェクト」をスタートしています。
清水氏は、この取り組みが描く未来を次のように語ります。「神戸市は農業都市でもあるので、再生リンから作った肥料を『こうべハーベスト肥料』と名付けて市内の農家に販売しています。その肥料で作られた作物が市民の食卓に上り、やがて下水に返ってくるという資源循環の形を描いています」
プロジェクトのスタート当初、農業関係者からは再生リンの安全性、肥料成分の含有量の安定性、従来の肥料と比べた肥効の違いに関して懸念の声が上がっていました。しかし、長年に渡る科学的な分析や定期的な検査、栽培試験などを実施した結果、強固な信頼関係が構築されました。その成果として「こうべハーベスト肥料」は10種類以上の野菜や米に適用され、環境に配慮した神戸農産物は「BE KOBE農産物」というブランドとして販売されるなど、市民にとって身近な存在となっています。
清水氏は今後の展望について「こうべ再生リンの販売量は増加しており、需要が高い状況となっています。そこで、これまでは一基だけだったリンの回収設備を2025年に増設し、回収率の向上を図っています。今後はさらにもう一基設置して年間200トンだった供給能力を300トンにまで増やしていき、ゆくゆくは市内にとどまらず全国レベルでの資源循環を達成し、食料安全保障にも貢献していきたいと考えています」と語りました。
日揮ホールディングス/SAFFAIRE SKY ENERGYの西村勇毅氏
続いて登壇した日揮ホールディングス株式会社サステナビリティ協創ユニットプログラムマネージャー兼合同会社SAFFAIRE SKY ENERGY 最高執行責任者COOの西村勇毅氏からは、「日本初となる廃食用油を原料とした国産SAF製造と自治体との連携について」というテーマで講演を行っていただきました。
SAFとは「持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel)」のことです。炭素と水素から構成された燃料を指しており、廃食用油や微細藻類、木くずやサトウキビなどを主な原料として製造され、化石燃料を用いる従来の航空燃料よりも大幅なCO2削減効果があると考えられています。世界的にCO2排出量の削減が求められる中、EUでは2025年からSAFの供給が義務化され、日本も2030年に国内の航空会社の燃料の10%をSAFに置き換えることを目標として設定していることなどから、需要は増大していくと予想されています。その反面、供給はまだまだ追いついていない状態でもあり、これからはSAFを供給できる国や空港が競争力を持っていくことになると目されています。
現在、世界の主要なSAFサプライヤーはヨーロッパやアメリカに集中しています。それは欧米に制度設計があるからで、義務化やインセンティブを設け、投資が行われるなど、経済活動も紐づいていることが要因として挙げられます。こうした世界の潮流の中で、日本で初めて本格的にSAFの製造・供給を始めたのが西村氏です。
「日揮ホールディングス、コスモ石油、レボインターナショナルの3社共同でSAFの製造事業会社であるSAFFAIRE SKY ENERGYという合同会社を立ち上げました。コスモ石油が大阪府堺市に持っている製油所構内の敷地をお借りして、100%廃食用油を原料とするSAFを製造しています。既存設備のスケールメリットを活かして設備投資を抑えながら年間最大3万キロリットルを製造しています」
SAFFAIRE SKY ENERGYに出資する3社のうち、コスモ石油はプラントの運転や用地提供を担当。廃食用油を原料とするバイオディーゼル事業を手掛けるレボインターナショナルは、廃食用油回収ネットワークを活かして全国から廃食用油を回収する役割を担い、西村氏が所属する日揮ホールディングスはプロジェクトのリーダーとして事業化を牽引し、プラントの設計、そして廃食用油の供給先の開拓を行っています。こうした座組でプロジェクトはスタートし、2025年からは国内の主要な国際空港に供給を開始。東京都を始めとした自治体からも支援を受けるなど大いに期待を掛けられています。
その一方で課題も抱えています。最重要課題として西村氏が挙げたのは、廃食用油の安定的な確保です。国内の廃食用油の発生量は年間50万トンで、その内訳は家庭系10万トン、事業系40万トンです。家庭系はその9割以上が廃棄されていると見られており、また事業系の内、12万トンは海外におけるSAF製造等の原料として輸出されています。こうした状況下において、いかにして家庭系廃食用油を再生利用するか、そして海外輸出されてしまっている廃食用油の国内回帰を行えるかが、これからの日本におけるSAF事業の重要なポイントになってくるのです。
こうした問題の解決に向けて日揮ホールディングスが立ち上げたのが「Fry to Fly Project」です。これは「身近にある使用済み油で飛行機を飛ばそう」という楽しくわかりやすい目標を掲げることで、誰もがアクションを起こしやすい環境を作り、家庭系・事業系の廃食用油を集める官民連携プロジェクトです。2025年12月末時点で290団体が参画し、マンションやビル、ガソリンスタンド等で廃食油を回収したり、自動販売機のラッピングや駅のビジョンを活用して活動を広報したり、子どもたちに向けた環境学習を行ったりしています。プロジェクトの狙いについて、西村氏は次のように説明して講演を終えました。
「このプロジェクトで狙っているのは同調行動です。ある企業が社会貢献活動を始めると、同業他社もそれをきっかけに同じ活動をスタートすることがあります。それと同じように、Fry to Fly Projectに多くの企業や団体が参加していただくことで、参加のハードルを下げてアクションを起こしやすくすることを目指しています。このような考えで資源循環の輪を広げていくことが重要なのではないかと思っています」
福岡女子大学の豊貞佳奈子氏
お二人の講演の後、パネルディスカッションの冒頭では、様々な有機性資源のアップサイクルについて考えるきっかけとして、福岡女子大学国際文理学部環境科学科エコライフスタイル学研究室教授の豊貞佳奈子氏より、ディスポーザーの排水処理システムに関するインプットを行っていただきました。
ディスポーザーとはキッチンの排水口の下に取り付けて、生ゴミを細かく粉砕して水と一緒に排水管に流す住宅設備です。アメリカなどでは一般的ですが、室内や屋外のゴミ置き場の衛生環境を保つことができ、生ゴミの量も減らせるなどのメリットがあり、日本でも分譲マンションを中心に普及しつつあります。ただし現在の日本では粉砕した生ゴミを下水に直接流せる自治体は全国でわずか27自治体ほどに留まっており(2025年8月時点)、マンションの地下に作られた排水処理槽で浄化してから下水に排水する方法(ディスポーザー排水処理システム)が主流となっています。
豊貞氏は、このシステムが抱える潜在的な資源価値について次のように指摘します。「ディスポーザー付きのマンションは日本に88万戸ほどありますが、そのうち60万戸が東京圏に集中しています。ディスポーザー排水処理システムに溜まった汚泥は1年に1回バキュームカーで引き抜くのですが、現在のところはリサイクルされていないので、アップサイクルできないかと思案しています」
小林光氏(写真左)と吉高まり氏(写真右)
講演を終えたところで、CSV経営サロン座長の小林光氏(東京大学先端科学技術研究センター 研究顧問、教養学部客員教授)と副座長の吉高まり氏(一般社団法人バーチュデザイン代表理事)、並びに参加者を交えた質疑応答が行われました。まず小林氏から清水氏に対して「こうべ再生リンの収支バランスをどう考えているのか」という質問がなされます。
「最も費用がかかるのは、回収装置を動かしたり肥料を作ったりするための電気代です。価格が変動する輸入リンに対して、値段が動かないことを国内資源の売りとしているので単価は変えていないのですが、やはり昨今の電気代等の高騰によって赤字は出てきています。ただ、この事業は資源循環や食料自給率の向上など、行政的な目的として位置づけているため、ゴミ回収のような事業と同じ位置づけとして考えています」(清水氏)
また吉高氏からは西村氏に「廃食用油という規模の小さい原料の獲得量を増やすには、どのような動きがあるといいのか」と尋ねます。
「例えば神奈川県藤沢市では、人口44万人で年間150トンほどの廃食用油を集めていますが、これは全国チェーンを展開する飲食店と同じくらいの量です。藤沢市では一般廃棄物は個別回収となっており、廃食用油をペットボトル等の容器に入れ、指定された日に自宅前に置いておくと自治体が回収してくれるのでこのような状況になっています。ですから、こうした対応が全国的に広がっていくだけでも数万トンの回収は見込めると思っています。ただし、当然これをやろうとすると自治体のコストはかさむことになりますから、環境省などが音頭を取って廃食用油を回収するための制度や仕組みづくりを後押ししていくことが重要になると思われますし、そのような動きが始まりつつあります」(西村氏)
会場の参加者を交えた質疑応答も活発に展開され、終了時刻の直前まで質問が途切れることはありませんでした。最後に副座長の吉高氏は2025年度のCSV経営サロンを締めくるにあたり、次のような展望を語りました。
「お金を動かすためにはオフテイカーリスクをいかに下げるかが重要であり、そのためには制度設計がなくてはなりません。今日のお話を含め、今年度も様々なケースを見ることができました。今、ようやく資源循環が世のトレンドになりつつありますから、今年度のインプットを自治体との協働や制度設計に活かしていきたいと思いますし、また一歩進めることができたと感じています」
こうして、2025年度のCSV経営サロンはすべてのプログラムを終了しました。気候変動や地政学リスクなどの影響で資源価格の高騰や供給不安に直面する現代において、資源循環の価値はますます高まっていくことが、今年度のサロンを通じて感じられました。
CSV経営サロンは、2026年度も引き続き開催していく予定です。ご期待ください。
参加者からの質疑応答も活発で、終了間際まで手が上がっていました

東京大学先端科学技術研究センター研究顧問 /
教養学部客員教授
慶應義塾大学経済学部卒(1973年)、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修士、博士(2010・2013年、共に工学)。
1973年環境省(当時環境庁)入省。京都議定書交渉の担当課長、環境管理局長、地球環境局長、官房長、総合環境政策局長、2009年から2011年まで次官を務め退官。
慶應大学教授、米国イリノイ州にて派遣教授、2016年から現在まで東京大学客員教授。その他日本経済研究センター特任研究員、国立水俣病研究センター客員研究員、地方の環境審議会委員や脱炭素対策検討の委員等を歴任。
再生可能エネルギーを主要なエネルギー源とする資源循環型の社会を構築するために必要な価値観の転換、諸制度の整備などに取り組む。

一般社団法人バーチュデザイン代表理事 /
東京大学客員教授/
慶慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授
明治大学法学部卒、米国ミシガン大学環境サステナビリティ大学院科学修士、慶應義塾大学大学院政策・メディア科博士(学術)。
IT企業、米国投資銀行等での勤務を経て2000年より現三菱UFJモルガン・スタンレー証券において気候変動関連の資金枠組みづくり、カーボンクレジット組成などに関与。政府、地方自治体、金融機関、事業会社などに向けて気候変動、GX、サステナブルファイナンスの領域について講演、アドバイスなどを提供し、新たにサステナビリティ経済の推進の実装を図る。