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【レポート】"懐の深い街・福山"で気づいた、逆参勤交代に必要な「新しい主語」 前編

【丸の内プラチナ大学】逆参勤交代・広島県福山市フィールドワーク(2022年10月14日~16日開催)

8,9,11

首都圏人材が地方を訪れて期間限定型のワーケーションを実施し、働き方改革と地方創生を実現する「逆参勤交代」構想。個人・地域・企業の「三方よし」をもたらす構想は、スタートから6年目を迎えましたが、今年度について、逆参勤交代の提唱者である松田智生氏(三菱総合研究所 主席研究員・丸の内プラチナ大学副学長)は「構想から実装に向かう1年」と位置付けています。その言葉通り、これまでの逆参勤交代は年間3地域での実施が主でしたが、今年度は過去最多となる5地域で実施し、逆参勤交代を全国へ波及させることを視野に入れています。

逆参勤交代にとって重要な一年のスタート地となったのは、広島県東部、瀬戸内海沿岸の中央に位置する福山市です。築城400年を迎えた福山城や日本遺産にも指定された鞆の浦、生産量日本一を誇るデニム生地や、戦後復興の象徴として市民主体で育まれたばら文化など、特徴的な資源を有するこの地での逆参勤交代は、これまでよりも一歩踏み込んだものとなりました。2泊3日で実施されたフィールドワークの模様をレポートします。

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一人ひとりが関われる余白を探るフィールドワーク

一人ひとりが関われる余白を探るフィールドワーク

<1日目>
福山駅集合→福寿会館にてオリエンテーション→福山城→酒蔵「天寶一」→ディスカバーリンクせとうちにてデニム事業者と意見交換→懇親会

image_event_221014.020.jpeg「REKROW」プロジェクトのために造船会社から引き取ったデニム製品。これらを解いて新しい製品に生まれ変わらせていくそうです

今回福山市での逆参勤交代が実施に至ったのは、2021年に開催された「NIKKEIワーケーション会議 in 福山(主催:日本経済新聞社)」というイベントで松田氏が枝広直幹福山市長と出会い、枝広市長のプレゼンテーションを通じて福山市の魅力を知ったことがきっかけでした。

「私にとっては、そのイベントで訪れたのが初めての福山来訪でした。福山市は広島県で2番目に大きな街で、企業城下町として栄えています。鞆の浦や福山城のような観光地、デニム生地のような伝統産業など、様々なコンテンツが揃っていることを知り、ぜひこの地で逆参勤交代を実施したいと考えました。当初福山での逆参勤交代は、『企業城下町連携型』あるいは『伝統産業連携型』と言えるような、地域の産業と結びついたタイプになるのではないかとも想像していました」(松田氏)

こうした思惑の中でスタートした今回の逆参勤交代には10名の受講生が参加。過去の逆参勤交代との違いとして目立ったのは、過半数以上となる6名が女性だった点です。 これまでの逆参勤交代は男性参加者が多い傾向にありましたが、地域貢献やワーケーションに興味を持つ女性の参加が増えてきているのは、それだけこの取り組みに対する社会的な興味関心が高まってきている証と言えるかもしれません。

image_event_221014.003.jpeg左上/講師の松田智生氏。右上/「福寿会館」でのオリエンテーションの様子。左下/3日間アテンドをしてくれた福山市役所の山本尊也氏。右下/「鰹節王」といわれた安部和助が建築した福寿会館は国の登録有形文化財にも指定されています

初日のフィールドワークは、国の登録有形文化財にもなっている福寿会館でのオリエンテーションから始まります。約46万人の人口を抱え、中国地方で2番目の中核都市に指定された福山市は、市役所や福山城がある中央部、鞆の浦をはじめとした瀬戸内海に面した資源が豊富な南部、伝統工芸の備後畳表などを有する西部、デニムを始めとした繊維産業が盛んな北部、古墳や寺社仏閣などの文化財を持つ北東部と、大きく5つのエリアに分けられます。今回の逆参勤交代では、中央部、南部、北部、北東部における伝統産業や地域活動の視察と、それらに従事する人々とのコミュニケーションを中心に展開されていきました。今回のフィールドワークの企画・アテンドを担った福山市企画財政局の山本尊也氏は、その狙いを次のように話します。

「他地域同様、福山市も人口減少や少子高齢化、若い女性の転出超過といった課題を抱えていますが、大きな課題よりも、受講生が関われる余白のある領域を見ていただいた上でご提案や今後の活動につなげていきたいと考えています。そのため、観光資源よりも産業や地域活動に関する視察や交流を中心とした工程を組ませていただきました」(山本氏)

オリエンテーションを終えた一行は、築城400年を迎え、「令和の大普請」と銘打たれた大改修を実施した福山城へ。築城当時の姿となった天守の見学や、最新のデジタル技術を活用した体験型コンテンツなどを通じて、地域のシンボルの魅力に触れていきました。その後は、市内唯一の酒蔵である株式会社天寶一(てんぽういち)に移動します。100年以上の歴史を持ちながらも、より食事に合う日本酒や、福山のばら文化に通ずるばら酵母を活用した日本酒の開発など、先進的な挑戦を続ける酒蔵を見学し、チャレンジ精神と地域への思いを感じ取りました。

image_event_221014.004.jpeg左上/市のシンボルである福山城の眼前で集合写真。右上/2年に渡るリニューアルによって城内には体験型コンテンツも充実。写真は大坂夏の陣での水野勝成の活躍を体験できる「一番槍レース」です。左下/福山城は福山駅のすぐ目の前にあり、「城の中に駅がある」と言われることも。右下/市内唯一の酒蔵「天寶一」で試飲する受講生たち

続いては福山市の伝統産業のひとつであるデニム産業に携わる人々との意見交換をするため、株式会社ディスカバーリンクせとうちへと向かいます。福山市を始め、鞆の浦や尾道エリアの魅力を発信する事業を展開している同社では、江戸時代から始まった福山の繊維産業の歴史や文化、技術を後世に伝え、繋げていくために、地域の繊維関連企業と連携して「HITOTOITO(ヒトトイト)」という繊維産地継承プロジェクトを推進しています。このプロジェクトでは「人と糸を育てる」をテーマに、デニムパンツを作るために必要な知識や技術を教えるスクールや、デニムの生産現場を巡るプログラムなどが展開されています。同プロジェクトの副委員長を務める黒木美佳氏(ディスカバーリンクせとうち)は、プロジェクト設立の経緯を次のように説明します。

「この地域には縫製工場がたくさんありますが、現在の担い手は、高齢の日本人か、3年経ったら帰国してしまう外国人技能実習生が中心で、このままでは技術の継承がなされず、産業自体が成り立たなくなる恐れがありました。ハローワークに求人も出していますが、縫製工に対するハードルを感じられてか応募は多くありませんでした。そこで、いきなり働くのではなく、『ちょっとやってみたい』という人でも学べるようなスクールを作るところから始めました」(黒木氏)

image_event_221014.005.jpeg左/ディスカバーリンクせとうちの黒木美佳氏。右/ディスカッションする受講生たちの様子

このデニムスクールは10日間と1ヶ月のカリキュラムが用意されており、2022年10月時点で14期100名以上の卒業生を輩出。受講生の属性も幅広く、10代から70代まで、中には海外から参加している人もいるほどです。卒業生の中には、縫製工場に就職した人や、個人事業主として縫製業に携わったり、ブランドを立ち上げた人もおり、少しずつ当初の目的を叶えているそうです。ただし、これはあくまでも縫製における話であり、紡績、染色、加工など、デニム生地の生産に必要なそれぞれの領域では未だ人材獲得に苦慮しているところも多いのです。「分業でひとつの繊維を作り上げる形でデニム生地を生産しているので、会社は違えども、どこかの工程が立ち行かなくなると全体が困ってしまいます。だからこそ『みんなでなんとかしていかなければならない』と考えています」と黒木氏。また、デニム生地はあくまでも製品の素材であるため、その生産者たちの工賃は安く抑えられてしまう点も長年の課題となっていました。そこでディスカバーリンクせとうちでは、オリジナル製品の開発・販売とエシカルな取り組みを両立する「REKROW(リクロー)」というサーキュラーエコノミープロジェクトを立ち上げています。

「『REKROW』は、造船会社で使用されたデニムの作業服を譲り受け、縫い目を解いてパーツにし、スニーカーやアパレル、バッグやインテリアなど、新たな製品に生まれ変わらせるプロジェクトです。単に古いものを集めてアップサイクルするだけではなく、産地が主体となってサーキュラーエコノミーを成立させることで、その次もまた還元しやすいものが作れるようになりますし、消費者にも『今使っているモノはこの先も何かになっていく』と意識してもらえるようになります」(黒木氏)

REKROWの製品はオンラインストアやポップアップストアで購入できますが、その際、回収したデニムを解き、縫直し、新たな製品として生まれ変わらせるために掛かった時間を表示し、時間に応じた値段付けをしています。そこには「誰でもできることではなく、産地だからこそできることをやりたい」という思いも込められていると、黒木氏は話しました。こうした思いに共感する人も多く、今後、服飾系大学や地元企業と連携して新しいプロダクトの開発や、ファッションショーの開催なども企画し、こうした体験を通して福山のデニム文化の発信と、REKROWプロジェクトの機運を盛り上げていくことを狙っています。

image_event_221014.006.jpeg 左上/造船会社から譲り受けたデニムを解いたもの。ここから新しい製品を生み出していきます。右上/REKROWの製品を手に取る受講生。REKROW製品はオンラインストアで購入することができます。左下/デニムスクールの卒業生の手ほどきを受けてトートバッグ作りを体験する受講生。右下/完成後、満足そうにトートバッグを見せあっていました

黒木氏から福山のデニム産業の現状と取り組みについて伺った後は、受講生全員でデニム生地を使ったトートバッグづくりを体験しました。普段ミシンを使う機会が少ない方もいたものの、黒木氏や、デニムスクールの卒業生でもあるスタッフから教えを受けながら楽しそうに作業を進めていきました。

今回の行程ではディスカバーリンクせとうちでの意見交換が強く印象に残ったと挙げた人は多くいました。そのひとりである芳地さんは次のように感想を述べてくれました。

「デニム産業のように、素晴らしい技術を持っていても担い手不足によって事業継承がなされていない状況に対して、逆参勤交代のような取り組みはなにか役に立つことができるだろうと感じました。黒木さんとも意見を交わさせてもらいましたが、私自身仕事で福祉に携わる機会が多く、障害を持った方の就労支援や高齢者の仕事づくりをしながら事業継承の達成に貢献していくこともできるのではないかと考えています」(芳地氏)

image_event_221014.007.jpeg 「夜の逆参勤交代」とも言える懇親会を楽しむ松田氏や受講生たち

ディスカバーリンクせとうちでの意見交換を終えたところで1日目のフィールドワークは終了となりました。宿泊施設にチェックインした後は懇親会を開催。受講生たちは卓を囲みながら、この日の出来事を楽しそうに振り返っていきました。

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