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【レポート】"懐の深い街・福山"で気づいた、逆参勤交代に必要な「新しい主語」 後編

【丸の内プラチナ大学】逆参勤交代・広島県福山市フィールドワーク(2022年10月14日~16日開催)

8,9,11

逆参勤交代にとって重要な一年のスタート地となった、広島県東部、瀬戸内海沿岸の中央に位置する福山市。築城400年を迎えた福山城や日本遺産にも指定された鞆の浦、生産量日本一を誇るデニム生地や、戦後復興の象徴として市民主体で育まれたばら文化など、特徴的な資源を有するこの地での逆参勤交代は、これまでよりも一歩踏み込んだものとなりました。2泊3日で実施されたフィールドワークの後編をレポートします。

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福山のコミュニティに触れ、受講生と地域住民が互いに刺激を与え合う

福山のコミュニティに触れ、受講生と地域住民が互いに刺激を与え合う

<2日目>
コワーキングスペースhalappaで兼業副業実施者と意見交換→ばら公園散策→鞆の浦散策→鞆てらすで地域活動実施者と意見交換

image_event_221014.008.jpeg 福山市、瀬戸内地方を代表する鞆の浦を散策する受講生たち

2日目は備後エリア初のコワーキングスペースである「halappa」からスタートします。ここでは、福山市の兼業・副業人材を活用した取り組みの紹介と、実際にその取り組みに応募して福山市政シニアマネージャーとなった野口進一氏(株式会社BOSCA代表取締役CEO/株式会社北三陸ファクトリー取締役COO/株式会社sotilas取締役CCO/非営利特定活動法人スマートワークラボ/浜松市中山間地域ビジネスプロデューサー)から具体的な取組内容の紹介や意見交換を実施し、本業を継続しながら地域に関わる方法や、新しい働き方のヒントを探っていきました。

image_event_221014.009.jpeg 左/備後エリア初のコワーキングスペースである「halappa」。右/福山市政シニアマネージャーの野口進一氏と意見交換する受講生たち。現在はオランダで暮らす野口氏はオンラインでの参加となりました

2018年、福山市は「人口減少対策を始めとした重要な施策を効果的に推進するためには、行政だけの『自前主義』から脱却し、外部の新しい発想を取り入れていく必要がある」として、民間で活躍する人材を兼業・副業で登用をスタートします。自治体が兼業・副業人材を受け入れるのは全国初のことであり、当時大きな注目を集めたこの試みには全国から395名が応募し、野口氏を含む5名が「戦略推進マネージャー」として採用されます。もともと映像系の企業で会社員として働いてた野口氏は「社会起業に関心があったので、深く考えず興味の赴くままに応募したのが正直なところ」と当時を振り返りますが、それでも福山市に関わり始めた結果「人生が変わってしまった」と話します。

「会社員としてひとつの組織だけで仕事をしていた頃は、その組織でのポジションや文化ばかりを気にしていましたし、その中での評価がすべてでした。しかし副業を始めて自分を客観視する機会を得ると、それまでは気づかなかったけれど、自分だけが持っていて、どこであっても共通して使える特性やスキルを発見できました」(野口氏)

「戦略推進マネージャーとして行ったのは、市役所の会議室に缶詰になり、入れ代わり立ち代わり訪れる人から事業の課題や展望を聞いてフィードバックするということでした。話の領域は多岐に渡り、中には僕にとっては専門外の話題もあったのですが、『外部人材として価値あるフィードバックをしないといけない』というプレッシャーと戦いながら意見を出していきました。僕はこの動きを『地獄の千本ノック』と呼んでいますが(笑)、これがあったからこそ自分が持つスキルや経験を客観的に捉え直すことができましたし、福山市に対してどのような価値を提供できるかが見えていったと考えています。だから今では『愛の千本ノック』とも呼んでいます(笑)」(同)

地域の人々とコミュニケーションを取り、自分を客観視して福山市とフィットさせていき、様々なアイデアを提案していきます。例えば、福山市に映画やドラマ等のロケを誘致する「まるごと撮影都市構想」や、首都圏から野口氏の知人を招いてワーケーションを体験してもらい、福山市におけるワーケーションのモデルケースを作った「ワーケーションふくやま」など、野口氏の経験や人脈を活かしたプロジェクトなどです。後者については、モデルケースを実施した後には、地元の有志の経営者と共に「スマートワークラボ」というNPOを立ち上げ、ワーケーションで福山市を訪れるプロフェッショナル人材の受け入れ体制を整えながら地域と新しい関わりを作っていく取り組みも展開しています。

福山市を通してこのような成功体験を積み、自分にできること、自分がやりたいことを再認識していった野口氏は、その後活躍の場を福山市以外にも広げていきます。岩手県洋野町では「北三陸を世界に発信する」を理念に掲げる株式会社北三陸ファクトリーの立ち上げに携わります。同社は、北三陸地域の食材を活かした商品開発や、ウニの再生養殖事業や藻場再生事業を通じて地域課題の解決などに取り組む企業で、日本最大級のビジネスカンファレンスである「Industry Co-Creation(ICC)サミット」で「CRAFTED CATAPULT 豊かなライフスタイルの実現に向けて」部門のグランプリを受賞するなど、広く評価を得ています。さらに野口氏は、2022年からは家族でオランダに移住しており、将来的には同国で会社を立ち上げることも視野に入れているそうです。

「自分自身の興味に従って」福山市に携わり始めた結果、今では世界を股にかけて活動するようになった野口氏のチャレンジ精神には、地方での活動や、兼業・副業を考える受講生たちに大いに刺激を与えたようでした。最後に、「兼業・副業のように新しい一歩を踏み出す際に心がけていること」について問われた野口氏は、次のように話し、受講生たちにヒントを提供してくれました。

「兼業・副業に対するハードルを感じる方もいるでしょうし、僕も始めたばかりの頃は色々な失敗を経験しました。そうした中で大事にしたのは、自分は地域の受け皿であり、地域の皆さんの思いを汲み取った上で自分ごと化していくことです。そのためには、自分の専門外のことであってもしっかりと調べ、わからなければ誰かに話しを聞き、自分の中で消化した上で同じ目線で物事を考えていくことが大事になります。そうやって地域に入り込んでいき、視点を変えていくと、もともと自分が持っている知識や経験、スキルの使い方がわかってくるのだと感じています」(同)

image_event_221014.011.jpeg 左上/福山のばら文化を象徴するばら公園。旬の時期には280種5500本のばらが咲き誇ります。右上/「ふくやま」と名のつくばらも10種あり、ばらが地域に根づいていることを感じさせます。左下/ばら公園は市民の憩いの場にもなっています。

野口氏との意見交換を終えた一行は、福山城に並ぶ市のシンボルであるばら公園へと移動します。「ばらの街」と呼ばれるほど福山にばらが根付いているのは、第二次世界大戦からの復興を願った市民が、空襲で焼け野原となった土地に1000本のばらの苗を植えたことから始まっています。その後、数十年に渡って民間が主体的にばらの植栽や手入れをし続け、2016年には実に100万本ものばらが咲き誇るようになりました。その過程では、「思いやり・優しさ・助け合いの心」を意味する「ローズマインド」という言葉も生まれ、市民にとって大切なキャッチコピーとなっています。2025年には、世界40カ国が加盟する世界バラ会連合が開催するばらに関する国際会議「世界バラ会議」の開催も決定しており、福山のばら文化が世界に発信されていくことが期待されています。

市民に大いに愛され、シビックプライドの醸成に一役買っている福山のばら文化ですが、その反面、収益性の伴った取り組みが活発とは言い難い状況であり、さらなる情報発信や文化継承の取り組みを進めていくために収益化の仕組みの検討が求められている状況でもあるそうです。

image_event_221014.012.jpeg 左上/「潮待ちの港」として知られる鞆の浦。穏やかな波とマッチした町並みが人気の景勝地です。右上/伝統的な建造物が並ぶ町並みは、「重要伝統的建造物群保存地区」にも指定されています。左下/鞆の浦を象徴する常夜燈の前で記念撮影。右下/江戸時代から愛される「保命酒」や、近年人気になっているレモネードなどを手にする受講生た

続いての目的地は鞆の浦です。中世から潮待ちの港として栄えた鞆の浦は、その美しい景色や歴史的な町並みが評価され、日本遺産、重要伝統的建造物群保存地区、ユネスコの「世界の記憶」の3つに選定された唯一の地として、国内のみならず海外の観光客からも注目を集める景勝地です。広島県のみならず瀬戸内地方を代表する観光地を視察して地域のポテンシャルを体感した面々は、次に、町並み保存拠点や地域住民と来訪者の交流拠点である「鞆てらす」へ移動します。ここで、鞆の浦周辺で様々な活動を展開する2名の移住者との交流を行いました。

image_event_221014.013.jpeg左/フリーランスのコミュティマネージャーでフォトグラファーの長田涼氏。右/フリーライターであり、地域おこし協力隊として活動する河村由実子氏

最初に紹介されたのは、東京から移住した長田涼氏です。東京でフリーランスのコミュティマネージャーとして働いていた長田氏は、第一子を授かったことで「ベビーカーと一緒に乗れない電車や、安心して子どもを遊ばせられる場所が少ない東京で子育てができるのだろうか」と考えるようになり、移住を考え始め、福山市出身の友人から鞆の浦を紹介されたそうです。

「鞆の浦に直接の知り合いはいませんでしたが、地域で活動している方をSNSで探して情報収集をした上で現地を訪れてみました。その際、フラッと食堂に入ってみたのですが、お店のおばちゃんがすごくフレンドリーに接してくれて、僕たち夫婦が食事をしている間子どもの世話をしてくれたんです。人と人の距離の近さがとても心地よく、ここなら理想的な子育てが実現できそうだと感じて移住を決意しました」(長田氏)

コミュティマネージャーの仕事は基本的にオンラインで完結するので、仕事が移住のネックになることはなかったものの、「鞆の浦の人々には馴染みの薄い職業であり、仕事を切り口にした会話が広がらないことに限界を感じた」長田氏は、より身体性を伴ったわかりやすく、かつ趣味として親しんでいたカメラを仕事にします。「フォトグラファーとして活動し始めたところ、周囲の人々の理解も得られ、仕事をきっかけに縁ができていった」そうです。

「鞆の浦で暮らしていると、日常的に穏やかな瀬戸内海に接していられるので、心も穏やかでいられます。それに、昔ながらの近所付き合いが残っている場所なので、人が好きな方や、地域と繋がりながら生活したい方にとってはいい環境と言えるでしょう。課題としてはインフラ面が上げられます。例えば下水道が整備されていないところもあるので、水回りに敏感な方は気になるかもしれません。また、祭り文化が色濃い傾向にもあるので、自ら主体的に参加していかないと思わぬところでハレーションが起きる可能性はあるでしょう」(同)

この時点で移住してから1年にも満たない長田氏ですが、その後移住者が増えたこともあり、長田氏が率先して移住者コミュニティを作って歓迎会を開催したり、定期的にコミュニケーションを取る機会を設けたりもしているそうです。

続いて紹介されたのは、地域おこし協力隊として活動する河村由実子氏(フリーライター/リハノワ代表)です。もともと理学療法士として働いていた河村氏は、多くの人の医療リテラシーを高める動きをしたいと考えて2021年にフリーライターとして独立し、リハビリの情報や全国の医療・介護施設の情報を発信するメディア「リハノワ」を立ち上げます。その取材で鞆の浦を訪れた際、グループホームの運営などを手掛ける「鞆の浦さくらホーム(以下、さくらホーム)」に出会ったことで、鞆の浦に関わることになったと言います。

「さくらホームは、障害の有無や年齢性別に関わらず、皆が生きやすい地域共生社会の実現を謳っています。その言葉どおり、障害を持つ人や認知症の人を地域全体で受け入れているので、彼らが普通に町中で暮らしているのです。さくらホームの代表取締役である羽田冨美江さんはそのような状態を『強制しない共生サービス』『町まるごとの共生社会』と表現していますが、このような形で地域社会に溶け込んだサービスは他に類を見ないもので、深く感銘を受けました。その後、医療関係者や介護関係者にもさくらホームのことを紹介したり、私自身が案内をしたりすることで繋がっていたのですが、福山市役所の山本さんからの勧めもあって2022年9月から地域おこし協力隊として鞆の浦で活動することになりました」(河村氏)

現在は横浜との2拠点生活をしながら、SNSやインターネットを通じて鞆の浦や福山市の情報を発信し、関係人口創出や移住促進のきっかけづくりに勤しんでいます。

image_event_221014.014.jpeg 左上/ディスカッションには、たまたま見学に訪れていたさくらホームの羽田冨美江氏も参加。左下/意見交換の場となった鞆てらす。1階は地域資産の展示エリア、2階は交流スペースとなっています。右下/ディスカッション終了後には、鞆の浦の町を散策

両氏が鞆の浦に来た背景や現在の活動の説明を終えたところで、ディスカッションへと移ります。たまたま見学に訪れていたさくらホームの羽田氏も飛び入り参加し、受講生たちからの質問に答えながら、介護を通じたまちづくりへの思いを語ってくれました。

「さくらホームは、施設の中だけではなく、町の中での共生を志しています。そのため、ご家族の方の許可を得た上で、認知症の方でも自由に町を歩いていただけるようにしています。当然徘徊の恐れもありますが、近隣にチラシを置かせていただいたり、GPSを付けて居場所を把握できるようにしたり、遠方に行ってしまわないようにバス会社にも情報共有してリスクを減らすようにしています。こうした試みを行う際は、少しずつ住民の方々を巻き込んで関係性を作りながら合意形成し、私たちの取り組みを受け入れていただきやすいように心がけています」(羽田氏)

また、河村氏に対しては、「鞆の浦をどのように変えていきたいか」という質問がなされます。これに対して河村氏は「町をどうこうしたいとは思っていません」と前置きした上で、鞆の浦に携わる動機をこう話しました。

「鞆の浦は地域共生社会が完成している場所であり、そこに感動があります。だから私が何かを変えるというよりも、この地域を色々な人に見てもらいたいと思って関わり、情報発信をしています。そうした活動を通じて関係人口や地域の活動人口を増やすお手伝いをしながら、なぜこの地域がこんなにも心地よいのかを言語化していきたいという思いも持っています」(河村氏)

一方、長田氏には移住者コミュニティの運営についての質問が多くなされ、次のように現状と展望を語りました。

「新しい移住者が来る時には、どこからか自然と情報が入ってきますので、歓迎会をセッティングして地域に溶け込みやすくなるきっかけづくりをしています。それ以外にも月一回ほどの頻度で飲み会を開催していますが、最近ではコミュニティ内で仕事の相談をするようにもなっているので、将来的には移住メンバーで町のためになるプロジェクトを立ち上げたいと考えています。また、カフェ兼コミュニティスペースの運営も予定していて、既に物件は見つけています。移住者メンバーにもその運営に入ってもらい、鞆の浦に移住を考える人に対して情報発信したり、地元の人にとっての憩いの場とすることで地域との架け橋となることを目指しています」(長田氏)

また長田氏は「既存の宿泊施設は比較的高級志向なため、1万円以下で泊まれて、若い方でも利用しやすいゲストハウスの運営も検討している」と話しました。長田氏や河村氏の存在は、鞆の浦にいい影響を与えると同時に、話を聞いた受講生たちにも大いに刺激を与えたようでした。

image_event_221014.015.jpeg左上/「halappa」でこれまでの工程を振り返りながらディスカッションする受講生たち。右上/すぐ近くには雰囲気のいい路地も。左下/特別に「halappa」の飲食スペースをお借りし、懇親会行いました。右下/山本氏と共にアテンドしてくれた福山市役所の高橋真澄氏

こうして2日目のフィールドワークは終了を迎えました。2日目は、コワーキングスペースである「halappa」の飲食スペースをお借りして、お好み焼きをはじめとした福山市の自慢の食を味わいながら、ここまでの思い出を振り返ったり、最終日の市長プレゼンテーションのアイデアを出し合ったりして懇親を深めていきました。

提案は自分主語、実現は市民主語

<3日目>
iti SETOUCHI(課題解決プランまとめ/課題解決プラン提案)→現地にて解散

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最終日は、朝から課題解決プラン発表の場である「iti SETOUCHI」に移動します。iti SETOUCHIは、福山のクリエイティブやイノベーション拠点として2022年9月にオープンした施設です。その2年前に閉店したエフピコRiMという大規模複合施設の跡地をリノベーションして活用しており、地域の特産品を販売する店舗やアートスペース、飲食店、コワーキングスペースなどが設置されています。この中の会議室を借りて、受講生たちは「"あなた(福山)主語"ではなく"自分主語"で考えること」「①What(何をするのか)、②Why(なぜするのか)、③Who(自分は何を担うのか)、④Whom(誰を対象にするのか)、⑤How(どのように実現するのか)を網羅すること」の2点を押さえたプランを考えていきました。

image_event_221014.017.jpeg左上/会場となった「iti SETOUCHI」。右上/「iti SETOUCHI」には福山の特産品を販売するマーケットなどもあり、地域住民が買い物に訪れたりもします。

各メンバーがアイデアをまとめ資料作成を終えると、このフィールドワークの集大成である課題解決プランの発表の時間を迎えます。今回、福山市役所からは枝広直幹市長に加えて4名の職員が参加し、受講生一人ひとりのアイデアに真剣に耳を傾けていました。

 今回提案されたプランは、それぞれ以下のようなタイトルのものであり、観光、伝統産業、街づくり、多世代交流、広域連携など多岐に渡る内容となりました。

(1)街のヒト・モノ・コト・デキゴトを記録し、全国に伝え継承する 福山・鞆の浦レコーディングプロジェクト
(2)『人と糸』紡ぐプロジェクト
(3)福山市に友達をつくろうプロジェクト~平凡観光客が関係人口としてカウントされるまでの軌跡~
(4)福山VS倉敷 市民対抗「デニム」運動会 プロジェクト
(5)控えめから卒業!商売と発信で福山のファンを増やそう!
(6)「ROSE WINE FUKUYAMA」プロジェクト~日本一ロゼワイン&シーフードを楽しめる街を目指す
(7)古民家再生×再生デニム de 偶然創出プロジェクト
(8)iti SETOUCHIから福山の食を発信プロジェクト
(9)デニムで障害のある人、ない人、子どもから高齢者、外国人も元気になる共生社会=ごちゃまぜコミュニティをつくる。 DENIM de GOTCHA CITYプロジェクト
(10)宝をつなぐ、プロジェクト。 「宝」=「普通の束・輪」
(11)HITOTOITO meets 大丸有 デニムワクワク(work × work)プロジェクト
(12)ソーシャルコミュニティ形成プロジェクト~Post Capitalism~

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プレゼンを行う受講生たち

受講生たちが提案したプランは、3日間の工程で触れた福山の資源に自分たちのスキルや経験を掛け合わせた上で、「自分たちはこの地域に何を提供できるのか」という観点で考えられたものばかりで、いずれも非常に高い熱量が感じられました。中には「あまりに福山が良すぎて、3つのプランを考えてしまった」という受講生もいるほどでした。また、不動産業やまちづくりに携わる受講生の「『ROSE WINE FUKUYAMA』プロジェクト~日本一ロゼワイン&シーフードを楽しめる街を目指す」は、ばら文化を活かして地域の食の魅力を発信するプロジェクトを立ち上げるというもので、「地域の魅力的な財産を地域ブランドに育てる"地財コンサル"として副業参加します」と宣言しました。枝広市長から「行政の人間ではきっと思いつかない」と評されたのは、「福山VS倉敷 市民対抗『デニム』運動会 プロジェクト」です。これはデニム生地生産日本一の福山と、国産ジーンズ発祥の地として知られる岡山県・倉敷市と共にデニムをユニフォームにしたり、デニムを使った道具を用いて地域対抗運動会を行いながら、それぞれの地域の魅力や、デニム産業全体のPRをするというプランです。枝広市長は「他の自治体と連携するというのは、実は提案しづらいもので、外部の方だからこそのアイデアだと感じました。しかも運動会のように競争するのは盛り上がりますし、きっと面白いと思います」と感想を述べました。

一方で枝広市長は、すべてのプランに対して本気で向き合ったからこそ、次のような厳しい意見も口にしました。

「多くのプランの中で、地域の課題に対して処方箋を提示していただきました。確かにそれも重要なのですが、それだけでは私たちの心は動かないんですね。逆に、『あなたも何か悩みがあってここに来ているんでしょう?』『わざわざ福山まで来てくれたのは、何かしたいことがあるからでしょう?』と問いたくなるんです。だから、もっと率直に、ご自身の悩み、希望、願いを私たちに投げかけていただきたいと感じました。そうすれば共鳴が起こりますし、そうやってこそ長続きする関係人口が構築できると思っています」(枝広市長)

市長の言葉は、「もっと自分主語で向かってきて欲しい」という期待の裏返しとも言えるでしょう。その証拠に、今後継続的につながりを持ちたいという意向も口にしました。

「ご批判も覚悟で敢えて本音を話させていただきましたが、2泊3日という短い工程の中で我々が目をみはるようなご提案も多くありました。私たちは『言いっぱなしにしない、聞きっぱなしにしない』という合言葉があります。そのため、本日のご提案は今後採用に向けてご相談させていただいたり、関係が深そうな地域や企業をご紹介させていただいたりと、具体的な取り組みにつなげていきたいと思います」(同)

上述した枝広市長のコメントにもあるように、福山市は自分たちの課題を解決するだけではなく、外部から訪れた人の希望を叶えたいという思いも持って地域活動に取り組んでいます。例えば、2日目に意見交換をした野口氏のような兼業・副業人材を募集したのも、そんな思いの延長線上にある取り組みと言えます。福山市がこうした「懐の深さ」を持っているのはなぜなのでしょうか。山本氏はその背景を教えてくれました。

「自らの課題をベースとして外部から人材を集める自治体は多くあります。しかし福山市では、市長も口にしていましたが、『外部の皆さんが福山でやってみたいことを教えてください』『その希望を受けて、市内でそれを実現できる地域や人を探してご紹介します』というスタンスで臨んでいます。そうすることで、より熱量の高い人材を招くことが期待できるからです。自分たちのリソースと、外部から来てくださるリソースをかけ合わせてイノベーションを起こしてきた福山市にとっては、逆参勤交代のような取り組みはまさにうってつけのものだと考えていましたから、今回開催できたことは私たちにとっても大きなことでした」(山本氏)

また山本氏は、次のように今後の展望についても語ってくれました。

「福山市では、逆参勤交代の他にも兼業・副業やワーケーションに関する取り組みを実施していて、関わってくれた方は述べ100人以上に上ります。ただ、現在ではつながりが薄くなってしまった方もいるので、今一度それぞれの関係者とのネットワークを構築し、横のつながりを作りたいと考えています。そうすれば『福山市』が共通言語となりますし、『最近福山で面白いことをやっているみたいだから久しぶりに行ってみようか』というような会話が生まれることも期待できます。関係者を通じて第三者にも福山市が広がっていくこともあるかもしれません。現代はインターネットに多くの情報が溢れていますが、その分、本当に価値のある情報は信頼できる人からの口コミだと思っています。そのネットワークを通じて、福山の信頼できる情報を広めていけたらいいなと思っています」(同)

image_event_221014.019.jpeg左/講評を行う枝広直幹福山市長。右/今回のフィールドワークの総括を行う松田氏

最後に講師の松田氏に、2022年度最初の逆参勤交代を振り返っていただきました。

「今回の福山での逆参勤交代は、『企業城下町連携型』『伝統産業連携型』と言えるようなものになると考えていました。1日目に伺ったディスカバーリンクせとうちでデニム産業の現状を聞き、多くの受講生が感銘を受けていましたが、私自身もデニムのような伝統産業と逆参勤交代が連携することで、新たな産業を生み出せるのではないかというチャンスを感じました」(松田氏)

今回の逆参勤交代では、過去のものよりも受講生が関われる余白の多い現地が抱える課題に触れる行程だったことも特徴的な点でしたが、これについて松田氏は「自治体側が逆参勤交代を活用するフェーズに入ってきている」と話しました。

「今年度の逆参勤交代は『構想から実装へ』をテーマに掲げていますが、それは我々だけではなく、逆参勤交代を受け入れてくれる自治体も同じだと思っていますし、逆参勤交代をどんどんと活用していただきたいと思っています。枝広市長の講評の中で印象的だったのは、『市民主語』の観点を持たれていることでした。僕たちはこれまで『自分主語』を重視していましたが、市長や自治体の方々からすれば最も大切なのは現在暮らしている市民なのです。そのことに改めて気付かされましたし、これからは自分主語だけではなく市民主語も頭に入れ、どうすれば関係人口を通じて市民を主体的に動かせるかを考えていきたいです。『提案は自分主語、実現は市民主語』ということですね。逆参勤交代は首都圏からの関係人口を活かして、地元市民が輝くことを再認識しました」(同)

2022年度第一弾のフィールドワークはこうして無事に閉幕しました。枝広市長や山本氏が口にしたように、自治体側が逆参勤交代を見る目も確実に変わってきています。この追い風に乗ってさらに広めていけるかは、今回提案したプランを現実のものにしたり、受講生たちが継続的に福山市に関わっていけるかが大きく関係してくることでしょう。「勝負の年」を迎えた逆参勤交代の進化にご期待ください。

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