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【レポート】初の政令指定都市上陸、"逆参勤交代・上級編"が生み出したものとは 前編

【丸の内プラチナ大学】逆参勤交代コース 浜松市フィールドワーク(2022年9月2日〜4日開催)

8,9,11

静岡県西部の遠州地方に位置する浜松市は、ヤマハ、スズキ、浜松ホトニクスといった世界に名だたるものづくり企業を有すると同時に、浜松駅を中心とした充実した商業機能、海・湖・川・山といった豊かな自然などに恵まれています。さらには東京、大阪、名古屋などの大都市圏からのアクセスも良好で、首都圏に住む人にとっても身近な地方都市であり、非常に完成度の高い都市と言えます。逆参勤交代の提唱者であり、講師の松田智生氏(三菱総合研究所 主席研究員・丸の内プラチナ大学副学長)は「今回は課題発見というよりも、事業加速型の逆参勤交代」と位置付けていました。そうした反面、少子高齢化、中山間地域での限界集落の増加や過疎化など、日本の多くの地域が抱える課題も抱えていることも相まって、"日本の縮図"として注目されています。

2022年9月、そんな全国的にも稀有な環境にある浜松市を舞台に、丸の内プラチナ大学「逆参勤交代コース」のフィールドワークが開催されました。政令指定都市では初の逆参勤交代となった今回、「国土縮図型都市」とも呼ばれる浜松の地で、受講生たちはどのような発見をしていったのでしょうか。

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過疎化進む一方で魅力を増す中山間地域でコミュニティのあり方を探る

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<1日目>
浜松駅集合→浜松市役所にてオリエンテーション→浜松城、東照宮→レストラン「とんきい」にて昼食・意見交換→阿多古地区見学・意見交換→懇親会

image_event_220902.002.jpeg天竜区で活動する(左から)林さん、鈴木さん、中谷さん

本来、浜松での逆参勤交代は2022年3月に開催される予定でしたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で延期されていました。その後、3×3Lab Futureに鈴木康友浜松市長をお招きして浜松市の魅力と課題を知る「逆参勤交代コース 浜松ナイト」の開催などを通して、浜松の情報をインプットする機会を設けつつ、約半年の時を経た9月、いよいよ浜松に降り立つこととなりました。今回参加したのは逆参勤交代経験者4名を含む10名の受講生と4名の事務局スタッフ、そして松田氏の計15名です。

image_event_220902.003.jpeg写真左:浜松駅前には「出世の街」の文字も見えます
写真右:集合後、早速全体オリエンテーションのために浜松市役所へ

9月2日(金)、浜松駅北口に集合した受講生たちは浜松市役所へと移動して自己紹介と全体オリエンテーションを実施します。3日間の行程の説明を受けた後、早速フィールドワークがスタート。まず訪れたのは、市役所のすぐ隣にある地域のシンボル・浜松城です。1570年、当時29歳だった徳川家康が入場して、それまで引馬城(曳馬城とも)と呼ばれていた城を改めたこの浜松城。家康が天下統一の足がかりとしたことや、その後の歴代城主の多くが幕府の要職に登用されたことなどから「出世城」として有名になりました。この歴史にあやかって、市も浜松城やその近くにある元城町東照宮などをパワースポットとしてアピールしています。また、2023年にはNHK大河ドラマで徳川家康を主人公とする『どうする家康』が放送されることから、浜松城公園と市役所に隣接する場所に大河ドラマ館が建設され、今後ますます人気を博していくことが期待されています。

image_event_220902.004.jpeg image_event_220902.005.jpeg 写真左上:市役所のすぐ横にある浜松城。この日は天守閣は残念ながら塗装中でした
写真右上:浜松城の土台の石垣は約400年前の面影を残す貴重なものです
写真左下: 2023年の大河ドラマ『どうする家康』の大河ドラマ館が建設中でした
写真右下:浜松城からほど近い場所にある元城町東照宮。浜松城に縁のある徳川家康像と豊臣秀吉像の間で写真を撮影し、SNS等で拡散すると運気を振りまくと言われています

市役所周辺の視察を終えると、まずは昼食を兼ねて「農家のレストラン とんきい」へ。浜松市内で養豚業を営む有限会社三和畜産が運営するこのレストランは、添加物を使用しない自家配合の飼料で育てた豚肉を使った料理が人気のお店です。2008年からは稲作にも着手しており、化学肥料や農薬の使用を通常の半分以下に抑えた浜松・細江地区のブランド米「細江まいひめ」は地元の人々にも親しまれています。受講生たちは自慢のトンカツをいただきながら、同社の鈴木芳雄社長から「持続可能な農業」についてのお話を伺いました。鈴木氏は農業こそが持続可能な産業であると教えてくれました。

「いくら良い自動車を開発しても、他社により良い自動車を開発されてしまったらその時代は終わってしまいますし、常に先頭を走り続けるには膨大な費用がかかってしまいます。ですが農業の場合はそこまでサイクルが早いわけではありませんし、食べ物を育てる仕事は一番長持ちするものだと思っています。別の言い方をすれば、持続可能な農業をやっていかないと地域は疲弊していってしまいます。これからは専門分野を伸ばして、部門経営をしていくことが重要ですし、その姿勢をアピールして100年先も続く農業を目指していきたいと頑張っています」(鈴木氏)

image_event_220902.006.jpeg image_event_220902.007.jpeg写真左上:とんきいのトンカツ定食
写真右上:三和畜産の鈴木芳雄社長
写真左下:スタートから熱意が高い受講生が多く、熱心にメモを取る姿が見られました
写真右下:この日は天候が荒れてしまい、移動中には受講生たちのスマートフォンには緊急警報のメールが届く事態も

昼食と鈴木氏との意見交換を終えると、浜松市北部に位置する天竜区へと向かいます。もともとは天竜市、春野町、佐久間町、龍山村、水窪町という異なる市町村でしたが、2005年の合併で浜松市となったこの地区は、市内の中でも中山間地域に位置しており、豊かな自然に恵まれています。そんな天竜区では、宿泊施設「阿多古屋」を運営する林道雄氏にお会いして、林氏の取り組みについてお話を伺いました。

image_event_220902.008.jpeg写真左:天竜区の宿泊施設「阿多古屋」
写真右:阿多古屋を運営する林道雄氏

阿多古屋は、幕末に建てられた築160年以上の歴史を持つ古民家をリノベーションした宿泊施設です。オーナーの林氏は写真家としても活動しており、もともとは写真スタジオとして活用できる場所を探していたところ、この建物に巡り合ったと話します。

「このエリアには若い頃からドライブで訪れていたので建物の存在も知っていました。当時から『素敵な建物だな』と思っていたのですが、スタジオの候補地を探している際にこの物件が売りに出ていることを知ったんです。この場所は以前も宿泊施設として運営されていましたが、その施設が営業を辞めてから7年ほど経っていたため建物はだいぶ老朽化していました。それでも手を入れれば使えそうなこと、そして、この街道に明かりを灯したいという思いから、高齢化が進むこの地域で人の営みを感じられる場所を作りたいと思うようになっていきました」(林氏)

そこで、当初想定していた写真スタジオではなく、「広く地域によい影響を与えられるような施設を作れるならば購入しようと考えた」という林氏。購入の前に、地域の人々に声を掛け、ディスカッションの場を設けたそうです。

「『お金を出すのは自分なのだから、自分のやりたいことをやるべきだ』と考えるかもしれませんが、地域の協力があってこそのビジネスです。そこで地域の皆さんにも自発的に物事を考えていただき、いろいろな意見を募りました。外から考えた企画をやってもらうような形だと一歩引いてしまうので、あくまでも地域の皆さんの言葉で考えていただき、逆にこちらが応援できるような形で進めていきました」(同)

ディスカッションを重ねて出てきたのが、「地域の希望となり、いろいろな人が流入してくる場所」というものでした。もともとこの地域は林業だった影響もあり、「揃わなかったインフラは映画館だけ」と言われるほどにぎわっていました。しかし時代の移ろいに伴って林業が衰退し、周辺環境も変化していきます。そんなかつてのように活気を取り戻し、地域に好影響を与え、産業やコミュニティが盛り上がるハブのような施設が求められたのです。そこで林氏が考えたのが、宿泊施設とコミュニティスペースを兼ねた阿多古屋でした。

リノベーションを経て2019年にオープンした後、「池の上に石を投じて波紋が広がるように、急激ではなくとも、小さな個の動きからだんだんと大きな円に変わっていく」(林氏)ように、少しずつ周囲に影響を与える動きを見せていきます。徒歩1分ほどの距離の場所に別館をオープン。さらには、ホルモン屋を開店させたり、ウイスキーの蒸留所を作ったり、近所の広大な敷地に一日過ごせるような施設を誘致する計画もあるそうです。

「0から1を作るのはとんでもないことですが、この地域はもともとポテンシャルがある場所です。林業の衰退とともに正しく評価されない場所になってしまいましたが、再び正しい評価に戻していきたいと思っています。これからも街道に明かりを灯していく目標に向けて動いていきたいと思っています」(同)

林氏のプレゼンテーション後、本館と別館を見学。伝統的な和の雰囲気のある本館や、ラグジュアリー過ぎず適度に生活感のある別館の雰囲気に、「ぜひ観光やワーケーションで利用したい」と口にする受講生たちもいました。

image_event_220902.009.jpeg image_event_220902.010.jpeg 写真左上:阿多古屋本館を見学する受講生たち
写真右上:施設内は、林氏が集めた調度品や家具が設置されています
写真左下:本館からすぐのところにある別館
写真右下:別館は、非日常を演出しながらもラグジュアリー過ぎない雰囲気を重視しています

その後、一級河川である天竜川のほとりで行われているテントサウナ「サウナ天竜」や、天竜浜名湖線二俣本町駅の駅舎に造られたホテル「INN MY LIFE」の見学を経て、カフェ兼コミュニティスペースであり、市民協働などの推進の場でもある「山ノ舎(やまのいえ)」へと赴きます。ここでは、阿多古屋の林氏、サウナ天竜の主催者である鈴木達也氏、INN MY LIFEのオーナーであり山ノ舎のオーナーも務める中谷明史氏に集まっていただき、それぞれの活動と天竜区の特徴や思いについてお聞きする場を設けました 。

image_event_220902.011.jpeg image_event_220902.012.jpeg写真左上:サウナ天竜の主催者である鈴木達也氏(写真中央)
写真右上:悪天候の影響で川が増水していたため、テントサウナの体験は残念ながら中止に
写真左下:二俣本町駅の駅舎に造られたホテル「INN MY LIFE」の内観
写真右下: INN MY LIFEや山ノ舎の運営を務める中谷明史氏(写真右)

もともと二俣エリアで育った中谷氏は、仕事の関係で浜松市に携わった際、「学生時代に友だちと通ったお好み焼き屋や、初めてレコードを買ったレコード屋があった商店街がシャッター通りになっていて寂しい思いを抱いた」ことをきっかけにUターンします。そして、自然の多さや人の温かさといった天竜区が持つ魅力を再認識し、このエリアでおもしろい取り組みをしたいという思いを持つ人々が集まれるサードプレイスをつくることを決意したそうです。

「この建物はもともと別の喫茶店が入っていたのですが、そのお店が移転したことをきっかけに借りることにしました。当初は1階も2階も飲食スペースにしていましたが、やがて2階部分は地域の人々がじっくりと地域について考えられる場として開放しました」(中谷氏)

同じ頃、浜松市では、地元企業や他都市から誘致する企業が交流できるワーキングスペースをつくる「はままつトライアルオフィス」という取り組みを推進しており、協力事業者を募集していました。天竜区のアピールにもつながると考えた中谷氏は、周囲の賛同もあり、山ノ舎の2階をはままつトライアルオフィスのひとつとして貸し出すことにしました。

「新型コロナウイルスの影響でまだ十分な活動はできていませんが、阿多古屋やサウナ天竜のような魅力的な場所は増えてきています。今はまだ点と点の状態ですが、それぞれをつないで面になるような展開をしていきたいと考えています」(中谷氏)

image_event_220902.013.jpeg 写真左:山ノ舎の外観
写真右:山ノ舎の2階でディスカッションする受講生たち

中谷氏の話を終えると、質疑応答へと移ります。まずは「この地域のコミュニティはどのような特徴があるのか」について質問が投げかけられました。これに対して林氏は「基本的には飲み仲間のようなゆるいつながり」としながらも「矢印は一緒」と言います。

「普段はそれぞれで活動していますが、各々が進む中で接点を見いだせると『じゃあ一緒にやってみよう』と自然にまとまります。世代はまちまちですが、『この素晴らしい場所をどうやって活かしていくか』という思いは共通しているので、良い関係性が築けていると感じています」(林氏)

地域住民の中には「こんなところに人が来るわけない」と考えている人もいるようですが、三氏は「決してそんなことはない」と言います。それは、ここまで触れてきたように自然的な魅力、ここで暮らす人々の魅力に加え、市の中心部からの"ほどよい距離感"も関係しているのです。

「この天竜区は浜松駅から自動車で一時間弱ほどの距離ですが、これくらいの距離感で非日常が過ごせる場所は貴重です。これが2時間になると他にも足を伸ばせるセクションが広がってしまいますよね。東京で言えば高尾山も絶妙な距離感だと思いますが、遠すぎず、近すぎない、時間と距離の関係性はとても大事です」(同)

一方で林氏は「場所ごとに適した受け入れ人数がある」とも述べます。無尽蔵に受け入れてしまうと地元側のキャパシティがオーバーし、受け入れ側にとっても来場者側にとっても不満が生じる恐れがあるからです。受け入れ数をコントロールするためには、例えば駐車場を設置することで、施設としての上限数を示す方法などがあるとも教えてくれました。この話が示すように、何が何でも天竜区を訪れる人を増やしたいと考えているわけではありません。それよりも「少人数でもいいから、地域のことをおもしろがってくれる人や、一緒になって新しいものを作ろうとしてくれる人を得られるか」(中谷氏)が重要であり、そのような人たちと継続的に関わり、地域に笑顔を増やすことが理想であると語ってくれました。

image_event_220902.014.jpeg 写真左:天竜クローバー通り商店街を散策する受講生たち
写真右:古民家をリノベーションした店舗も多く、老若男女問わず立ち寄りたくなる雰囲気でした

三氏とのディスカッションを終えると、古い建物をリノベーションしてかつての活気を取り戻している天竜クローバー通り商店街を見学。受講生たちは買い物を楽しみながら天竜の今と未来に思いを馳せている様子でした。

こうして1日目のフィールドワークは終了し、宿泊施設へと移動します。これまでの逆参勤交代での宿泊先はビジネスホテルが主でしたが、今回はグランピングが楽しめるはままつフルーツパーク時之栖にチェックイン。年間30万人ほどが訪れるという市を代表する人気スポットで、自然に抱かれながら夜を過ごしていきました。

image_event_220902.015.jpeg image_event_220902.016.jpeg真左上:宿泊先のはままつフルーツパーク時之栖
写真右上:人気のグランピングを体験
写真左下:バーベキューを通じて親交を深めていきました
写真右下:"夜の逆参勤交代"を楽しんだ受講生たち

後編はこちら

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