イベント丸の内プラチナ大学・レポート

【レポート】会津若松の未来は小さな一歩から(会津若松・後編)

丸の内プラチナ大学ヨソモノ街おこしコース DAY3(2017年8月7日開催)

「より深く考える」をテーマにオープンした丸の内プラチナ大学「ヨソモノまちおこしコース」。今年は考えを深掘りするために2週連続で同一地域を扱う仕様で実施されています。DAY3は前回に続いて会津若松市(福島県)がテーマ。前回は地元プレイヤーから現地の状況やペインを聞きましたが、今回は「ヨソモノ」が活躍している例をインプット。受講生らヨソモノが活躍するためのヒントや手がかりを探します。

この日登壇したのは、会津若松市のとなり、三島町で事業展開する株式会社Toor代表取締役の高枝佳男氏。高枝氏は東京でのキャリアの後に三島町に移住し、地域に密着した事業に取り組んでいます。もうお一方は一般社団法人ディレクトフォースの萩原秀留氏。ディレクトフォースは一線を退いた企業のシニアエグゼクティブ層が社会貢献のために設立した組織で、萩原氏は教育部会の「理科実験グループ」で小中学生を対象にした実験授業を無償で提供しています。
(7月31日開催のDAY2の様子【前編】はこちらから)

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「そこに居続ける」その理由――Toor・高枝氏

「そこに居続ける」その理由――Toor・高枝氏

高枝氏が語ったのは"地域に入り込むこと"の難しさではなく、"そこに居続けること"の大切さです。「なぜ移住したのかという理由よりも、なぜ持続して居続けられるか、その理由のほうが大切だろう」と高枝氏は話しています。

高枝氏は2012年に2度目の起業でToorを設立。しかし、東京の道を歩いているとちょっとマナーの悪い人にも極端にイライラしてしまう自分がいることに気付き、「これはマナーが悪いというよりも、自分がおかしくなっているのではないかと気付いた」ことから、「過密都市から身を離そう」と移住を検討するようになりました。その時にある人を通じて、三島町の築130年の源泉付き古民家リフォーム済みという物件を紹介され、「66度のとろとろの源泉、移り変わる美しい四季の風景、お酒も食べ物もおいしい。こんなところどう?と言われたら、それはもう行くに決まってますよね」と、2013年に三島町に移住します。

この古民家は、地元の建設会社の社長が自費でリフォームし移住者を募っていたもの。「三島町は限界集落の極致のような町で、住人の最年少は65歳。『あと10年でこの町はなくなってしまう』と建設会社の社長が一念発起しリフォームした」という代物で、高枝氏は後々までこの社長と深く関わることになります。

冬は50センチを超える雪が積もる土地柄で、「どんなにクリティカルな会議がある日であろうとも雪かきだけは絶対にしないと生きていけない町」。それだけに、雪にへこたれて冬を越えることなく去ってしまう移住者も多かったのだとか。そのため「夏までは客、ひと冬越えて初めて仲間と認めてもらえる空気があった」とも話します。そんな状況もあり、「大切なのは"移住した"理由よりも、"持続する"ことの理由ではないか」と高枝氏は投げかけます。

高枝氏の場合、それは「人」でした。町の人々、わけても建設会社社長の奥さんが「家族のように遇してくれた」ことが何よりも大きな理由となりました。
「近畿の生まれで東京で仕事をしていて、何の縁もゆかりもない福島にいると、たまに気分が落ちるときがあって、そんなときに手厚く遇してくれる方がいたことが大きな救いだった。これがなければ撤退していた」(高枝氏)
制度的な優遇措置などよりも、こうした「人と人がつながる力」こそが、移住を持続させる鍵になるのではないか――、それが逆に町の人々への「感謝と恩返ししたいという気持ち」につながり、「暮らしていくうえでの源泉になる」、と高枝氏は語ります。

またビジネス面でも、人のつながりから新たな事業が生まれています。Toorが得意とするビッグデータ解析と可視化の技術を道路管理事業に転用。福島県内での実証実験を経て、現在は在京大手システムインテグレーターとの製品化に向けて動き出しています。このシステムの性能は高く評価されており、三菱UFJ技術育成財団研究開発助成、JETRO(日本貿易振興機構)の支援などを受けているほか、福島県土木技術職員業務発表会で最優秀賞、2016年度ヤング武田賞(武田計測先端知財団が具体的な課題を解決し、生活者を豊かにする技術、製品等を生み出す若者を表彰する)で最優秀賞を受賞しています。

何もしないことが最大のコンペティター――Toor・高枝氏

地方創生に照らし合わせて自身の活動を振り返ると、その根本は「恩返ししたいという思い」です。「基本にあるのは、会社の事業を発展させ、売上をしっかりさせること。そうすれば地元に納税もできるし雇用も生み出せる。ここをしっかりしないとブレてしまう」と高枝氏。

「地方」にいることの意味も大きい、と高枝氏はいいます。ひとつは「Working Anywhere」。「ITの仕事は地球上どこでもネットがつながっていればできる、という働き方を実践したい」。

ビジネス上でも地方にはメリットがあります。三島町は人口1,600人、今でも毎年60人ずつ減っていく町で「すべてのサービスの事業体がなくなりつつある」のですが、これはつまり「既得権益がないということ」。 「新しいことをやろうとすると、まず既にあるものを壊さないといけないが、地方だとその労力をかけずに済む」(同)
また、行政規模が小さいため「小さくリーンスタートアップ」し、「うまくいったら、すぐ近くの会津若松でスケールすることも可能」と高枝氏。ひいては「日本が世界的な課題の先進地であるならば、この先世界でイニシアチブを取っていくことも夢ではない」(同)。
他にも取り組んでいる大手企業の実証実験フィールドの提供や、世界中の大学生を三島町に招く教育プログラムなどの取り組みについても、紹介がありました。

そして最後に、「解くべき問題」へアプローチすることの必要性を訴えています。

「解くべき問題がないということが最大の問題。それはなすべきことがないということで、その場では、何をしても"コスト"にしかならないことになる」(同)
地方に関わろうとする人間にとって「do nothngが最大のコンペティターだ」と高枝氏は言います。「人間にとって、何もしないことは結構安住の地で、解決すべき問題を見つけるとは、そこにいる人を動かすために必要なことである」(同)。

また、ここで言う「問題」とは「教育問題とか人口問題とかそういう"レッテル"的なものではない。顔が見えるところの関係から見えてくる問題」こそが本当に解くべき問題となると語ります。
「人間、プライドがあるから、本当に困ったことを初対面の人に話すなんてなかなかできることじゃない。3.11で言われたように、特に東北の人は困っていても困っていないと言うくらい。ヒアリングすれば問題が見えると思ったら大間違いで、一緒に飲んで苦楽を共にして、時間を費やして、ようやく『いや、実は......』と話してくれる。それが本当に解くべき問題になる」(同)

他にもそんなふうに問題を語ってもらっても、「その場で、理屈で解決してはいけない」、「問題」解決には、まず自分の力で小さく始めることが何よりも大事で、それが信頼につながることなど、最後まで示唆に富んだ言葉を、高枝氏は紡いでいました。

実験を通じて子どもたちのチカラを解き放つ機会を――ディレクトフォース・萩原氏

続いての講演はディレクトフォースの萩原氏です。萩原氏は、ディレクトフォースの「理科実験グループ」の活動を紹介し、「ヨソモノ」が関わる意義、可能性を考えさせてくれました。

ディレクトフォースは2002年、大手企業、団体の役員クラスの人間が、知見や人脈を活かして退職後にも社会貢献したい、と結成された組織。現在では600人が在籍し、環境、技術、企業支援などの部会、食と農業、観光立国、健康医療などの研究会などを組織し、活動しています。
萩原氏ら理科実験グループは2010年、子どもたちに自然科学の楽しさ面白さを伝え、理科離れを防ぐために結成されたもの。現在75名が在籍、17の授業・実験テーマを持ち、関東近郊を中心に、日本各地で"出前授業"を行っています。

在籍者は「文系の人も意外と多い」と萩原氏。「理系に憧れがあったけど、文系に行って商社や銀行に行って。役職が上がって社長になったりしても、やっぱり理系がやりたくて、と退職した後にやってくる。今はこの理科実験をやるためにディレクトフォースに入る人もいるくらい」と萩原氏。
テーマは「小学校では習わない、教えないような内容」を吟味して選び、2~3年かけて内容を精査し、構成を決めるのだそう。児童(生徒)3~5人に1人講師が付くという「非常にぜいたくな」実験授業です。2010年から2017年まで620回実施。参加児童は4万人にもおよびます。参加した講師ものべ5,000人と、実に大勢の人々が関わり、盛り上げていることが分かります。

主に東京・神奈川などの首都圏で実施しますが、全国各地でも行っています。多いのは被災地での実施。南三陸町、気仙沼市、南相馬市は今でも年に2,3回開催しています。過疎地・遠隔地では伊豆大島町、十日町市など。CSRとして広島市、愛媛県などでも行っています。ちなみに企業からの依頼の場合、CSR活動の一環として行うことが多いそうです。

そして会津若松市です。2009(平成21)年度から毎年開催しており、市内の11中学校を巡回。目的は科学・理科離れへの対応です。市から「科学や数学の面白さや、身近な生活の中にある疑問、不思議な現象を実感させることで、科学への興味を持ってもらいたい」という要望を受けて、航空力学をやさしく理解する実験などを行っています。これは、会津らしい人材、未来人を育てるために会津若松市が取り組む「あいづっこ人材育成プロジェクト」の一環となっており、現在プロジェクトでは「『はてな・ふしぎ』わくわく理数教室」として親しまれています。

実は萩原氏は企業勤務時代の1975年から1980年まで会津若松市で過ごしており、お子さんも市内の学校を卒業しているとのこと。「子どもが3人いたので、スキー授業のために道具を用意するのが大変だった」「工場で働く男性が婿入りして姓が変わることが多く、名前を覚えるのが大変だった」など、当時のエピソードを紹介。会津人の性格を表す言葉として使われる"会津の三泣き"も体験したそうで、ここでの送別会は「私の人生の中で一番大きな送別会だった」と目を細めます。

会津若松での実験授業は生徒の感想も良く、概ね良好な反応なのですが、「効果があるかと言われたら、それはまだ分からない」とも話します。この授業を経験した生徒が理系を選び、科学関連の職を選ぶかどうか等の追跡調査ができないからです。しかし、科学技術館(千代田区)では、同館が運営する「サイエンス友の会」に子どもの頃に所属し、後に職員になったという人がいることなどを例に挙げて「理系に進む子が増えることに期待したい」と萩原氏。
「理科離れを防ぐためのものではあるが、初対面の人とのコミュニケーション能力を養う、実験することで好奇心を掻き立てるなど、いろいろな効果があると思う。ぜひこのプログラムを多くの人に経験してほしい」と語り締めくくりました。

「自分ができることを、その地域で」

会場も交えた登壇者とのパネルディスカッションに入り、いくつか示唆的な質問、意見交換がありました。

例えば、移住が難しいヨソモノが(二地域居住などで)地域課題に関わりたい場合はどうしたらいいのか、という会場からの質問。
これには高枝氏が「それはやはり難しい」と回答。「そこに骨を埋めるとなり、顔の見える関係になったときに出て来る課題に、みなさんがお持ちの能力や経験が役立つかもしれない。そういうパッシブな受け方のほうが良いのではないか」(高枝氏)。

子どもたちは「やはり地方のほうが素直なのか」という問いには、萩原氏が「確かに都会の子たちはこしゃまっくれているところはある。地方の子のほうが話しやすいとは言える」。しかし、「子どもたちの笑顔は東京も地方も変わらない」と萩原氏は言います。「笑顔」を広げること、これが地方創生の大切なキーワードであるに違いありません。

そしていよいよ、本番とも言えるグループワークへ。今回はワールドカフェ方式で、席を入れ替えて2回、テーブルごとにショートプレゼンと意見交換を実施しました。
これに先立って、講師の松田氏がプレゼンの見本として、自身が発案し取り組んでいる「逆参勤交代制度」を発表。現地での効果、日本全体への波及、経済効果等を数字も示しながら、簡にして要を得たプレゼンを見せてくれました。

ディスカッションの後は、テーブルごとに代表者を1名選出し、アイデア、プランを発表しました。いずれも秀逸なものばかりで終了後に市関係者が「地元の人間では気付けないものばかり」と太鼓判を押しているほど。「観光のスマート化」「Airbnbと産業の連携」「デジタル観光すごろく」など観光に特化したアイデアと、製造業、伝統工芸などの工場、産業とリンクした企画などが目立ちました。

その中で、ちょっと雰囲気は違う発表だったのが、パンづくりをしているという方の意見。「宿題では全く別のプランを考えていたが、今日のお話を聞いて、自分にできることをやれたらと。会津若松のものを使ってパンを作ったり、会津漆器にクリスマスのシュトーレンを入れたりとか。そういうことをやってみたい」。地方創生の現場でよく問題になるのは「アイデアはいい、だが誰がやるのか」ということ。具体的事業主体のないアイデアは空論に過ぎません。できること、やれることに立脚したアイデアこそが、これからのヨソモノが関わる因(よすが)なのかもしれません。

最後のまとめでは、高枝氏が「みなさんが培ってきたものを、どう地元に合わせるのか、俯瞰してみるのが良いと思う」とアドバイスしています。会津若松市からは企画政策部地域づくり課の二瓶亮二氏、前回登壇した渡部博之氏からコメントがありました。二瓶氏は「やはり会津人は不器用で資源を生かしきれてないと感じた。今日の発表資料は全部持ち帰って参考にしたい」とコメント。渡部氏は「発表を聞いて、ぜひさらに深掘りをしてほしいと感じた」と、10月に開催予定のツアーへの参加を呼びかけています。

やはりカギは地元にいる「アツイ」人

料理の説明をする田季野の馬場氏(左)

終了後、取材に答えて渡部氏は反省と期待の両方があったと話しています。反省とは、関心や議論の内容を絞り込めなかったこと。「せっかくの機会ということもあり、幅広く状況や課題を提示しすぎたかもしれない。そのために受講生の方々も問題が絞り込めずやりにくかったかも」と渡部氏。と同時に発表を聞いて期待するところも大だとか。「こういう場で出がちな意見でなく、新しい視点であったのはさすが。でき得るならば、何かひとつ、小さなものでもいいので、具体的なアクション、活動に落とし込んでみてほしい」と、具体的な活動への期待を語りました。地方創生の機運が高まっているとはいえ、行政主導で動くのはまだまだ限りがあります。民が先に動き、行政が後からサポートする。やはりこの流れが、「勝利の方程式」なのかもしれません。

今回受講生としても参加している、会津で割烹を営む「田季野」の女将、馬場由紀子氏は、実は今年のプラチナ大学で会津若松市を取り上げることに積極的に動いた方。民間の立場ながら、行政等を巻き込みながらパワフルに活動することで知られ、市役所内部でも有名人。講師の松田氏、学長の小宮山宏氏(三菱総研理事長)の考えに共感するところ大きく、官民両者に積極的に働きかけて、このカリキュラムを実現させました。
馬場氏は、「会津の歴史と伝統は、京都や金沢に負けるものではない、日本といえば会津、という世界を作り上げたい」と夢を語ります。その実現に向けて、今回の場は「いろいろなアイデア、知恵をいただいて頭が柔軟になった」と高く評価するとともに、引き続き受講生のみなさんには「会津若松に関わって、第二の故郷のように思ってほしい」と熱望しています。

深掘りするためのツアーは10月に開催予定。ここまで考えてきたプランやアイデアがこの先どうブラッシュアップされるのか。受講生のみなさん、秋の会津若松でしっかり考えてきてください! これを読んだ会津好きな方も、ぜひ妄想プラン・アイデアをお寄せくださいね。


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