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【レポート】SDGsの「可能性」とは

デロイト トーマツ グループ主催「ばばばSDGs!ワークショップ&イベント」(9月30日開催)

9月30日、3×3Lab Futureにてデロイト トーマツによる「ばばばSDGs!ワークショップ&イベント―ローカル&グローバルの視点から未来を考える」が開催されました。デロイト トーマツはこれまでエコッツェリアの法人会員メンバーとして会員向けセミナー等にも多く参加いただいており、この前日には企業向けのSDGs関連イベントをサロンで開催されていました。

SDGsとは、「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals)。2015年9月に国連で採択された2030年に向けた行動目標です。日本でも実施指針のガイドラインが発表されるなど徐々に浸透しはじめていますが、特にこのSDGsを「ビジネス」の枠組みでどう捉え、持続的な取り組みを実現するかという視点で議論されることが多くなっています。

この日のイベントは、デロイト トーマツ グループの職員がSDGsを踏まえ、「どんな社会インパクトを出せるかをみんなで考える」というもの。インプットトークとして、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社、CSR・SDGs推進室長 執行役員の田瀬和夫氏、デロイト トーマツ合同会社から、経済同友会へ出向、復興のために気仙沼市で奮闘している百瀬旬氏が登壇。司会は田瀬氏が務めています。

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レバレッジポイントとは

レバレッジポイントとは

国連広報センターより

SDGsは2015年9月の「国連持続可能な開発サミット」で採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中で掲げられている行動目標宣言です。「貧困」「飢餓」「エネルギー」「海の豊かさ」など17分野で、169項目の細かなターゲットが設定されています。

田瀬氏田瀬氏は、これを「政治的拘束力はないが、崇高な理想に基づいた人類の目標」であり、「偉大な文章」と評しています。田瀬氏は外務省から国連へ出向し、国連難民高等弁務官の緒方貞子氏の補佐官、国連人道問題調整部・人間の安全保障ユニット課長などを務め、2014年からデロイト トーマツ コンサルティングのCSR・SDGs担当執行役員に就任。世界の現状と、SDGsの持つ意味をもっともよく理解している日本人のひとりと言えるでしょう。

「これまでの(MDGsのような)行動目標と比べると、海洋や"格差"の問題が含まれている点が新しい」とし、前日に開催された企業向けSDGsセミナーには定員をはるかに超える申し込みがあり、「ビジネスにおけるSDGsの関心の高さが垣間見えた」と語ります。

まず、この日は「ぜひ覚えて帰ってほしい言葉」として「レバレッジポイント」を挙げて解説。それによると「17分野の課題はひとつひとつがすべて関連しあっている"連立方程式"のようなもの」で、「どれかひとつを押さえると、必ず他へ波及する。もしかすると悪影響を与えることもある」かもしれません。例えば飢餓の課題解決に遺伝子組み換え作物を利用すると、もしかしたら生物多様性に影響があるかもしれない。一方で、そんな中でも、ここを押さえると、あちらにもこちらにも良い影響がでるポイントというものもあります。それがレバレッジポイントです。

レバレッジポイントとは「てこの支点」のことで、ひとつの力点で複数の作用点へ良い影響を与えるもの。例えば開発途上国での学校給食です。学校給食を食べるために子どもたちは学校へ行くようになる。すると「子どもの栄養状態が良くなる」「勉強する機会と時間を獲得する」「周辺農家の支援」といったいくつもの問題解決にアプローチすることができるのです。このほか、ゴミ捨て場の問題、強制的に早婚される少女の問題などが例として挙げられました。

そして「このレバレッジポイントをいくつ見つけられるか、それが開発だけではなくSDGsビジネスとしても重要になる」と田瀬氏。例として少女の問題に取り組む「Girl Effect財団」(http://www.girleffect.org/)について、ナイキとノボ財団が国連と提携して取り組んでいる例を提示。「大企業が世界の社会全体を左右しようとする。こんなに素晴らしいことはない。国連だけ、企業だけでは出せなかったインパクトがある」(田瀬氏)。

ローカルもSDGs

そして次のテーマとして地方創生とSDGsの関係について指摘します。北海道の八雲町の地方創生を例にあげ、その実績に基づいて「SDGsは地方自治体で網羅できる」と田瀬氏は説明します。

八雲町がまずやったことは、「課題と現行の取り組みを、17分野に分けて、環境(Environment)、人への配慮(Social)、ガバナンス(Governance)という3つに分けて整理」したこと。それで分かったのは、「ESG投資などでは、それぞれを個別に、バラバラに考えていることが多いが、実は地方自治体ではそれらがすべてつながっている」ということでした。SDGsが世界において連立方程式のように複雑に絡み合っているように、地方自治体でもすべての問題は分かちがたく結びつき、影響しあっている。「別々に考えていてはうまくいかない。ESGの三位一体で総合的に考えていかなければ、地方自治体の課題は解けないだろう」と田瀬氏。「これからはSDGs×地方、グローバル×地方といった視点がすごく重要になっていくと思う」。

Making an impact that matters.

また、最後に「今日の重要なメッセージ」として「デロイトのPurposeは何か?」を会場に投げかけます。「デロイトが掲げるMaking an impact that matters.という指針のmattersって何?ということ」。また、デロイト トーマツでは、「社会に対する公平性(Fairness to society)」「クライアントに対するイノベーション(Innovation for clients)」「人材育成(Talent of people)」を経営理念に掲げ、活動の3本柱にしていますが、「SDGsをその思想の土台に置き、ビジネスの中軸に据えておくことが大事なのではないか」と田瀬氏は指摘します。

そして「では、このSDGsの17分野169項目の課題が解決できれば、人類はそれでいいの?というのが、今日の私から皆さんへの最大のクエスチョン」とさらに投げかけます。「SDGsでは、残念ながらHappinessという言葉は入っていない。でも、SDGsを達成すれば人類は幸せになれるんだろうか」。

ここで「何をもって幸せと考えるのか」、幸せの十分条件について、会場で話し合いました。「働きがい」「家族への愛」「感動的なことがあること」などなど、さまざまな意見が出されます。

これを受けて田瀬氏は「さまざまな意見があっていい」としつつも「紛争後の安全保障をやってきた経験から思うこと」として、まず最低限「殺されない、殴られない、迫害されない、食べられるという、『安全と安心』があること」を前提としたうえで、「絆」(家族、愛情を含む人間的関係性)、「生きがい」、そして「希望」の3つを幸せの十分条件として解説しました。

特に「希望」については「これがないと、人間は本当にダメです」と力説。毎年2.5万人が自殺する日本、物はなく、貧しいながらも笑顔が絶えないカンボジア、その違いはどこにあるのか。「ポル・ポト政権が終わり、これから良くなると信じられる。良くなるんだ、がんばろうと思えることが、幸せには必要」と田瀬氏は言います。

そして、デロイト トーマツがビジネスを通して目指すべきことが何なのか、最大のメッセージとして「SDGsを達成することが、ビジネスの目的ではない。ビジネスを通して、人間の幸せをこしらえること。それが目的なんじゃないか」と力強く語りました。

気仙沼でのデロイト トーマツ

サイト「ちょいのぞき気仙沼」トップページ

続いてのスピーカーの百瀬氏からは、出向先の気仙沼市での取り組みの紹介がありました。百瀬氏は2015年4月より経済同友会に出向、以来、気仙沼市役所の職員、地元住民として、仮設住宅で暮らしながら、復興業務を続けています。

百瀬氏まず気仙沼が世界有数の漁港であること、仮設住宅の暮らしは「本当にプライバシーはないが、隣り近所で助け合って生活している」こと、人口減に伴い、祭りの担い手が減りつつあることや「地元では魚を買う人は少なく、みんなお互いにおすそ分けし合う生活文化がある」ことなどを、実体験を交えて暮らしぶりを紹介。また、実際の業務として、デロイト トーマツも参画している、東北未来創造イニシアチブ主宰の地元の経営者を対象にした「人材育成道場(経営未来塾)」には、「4大監査法人はじめ、マッキンゼー、博報堂、ISL、日本政策投資銀行など、多くの想いを持った企業が集い、」精力的なプロボノ活動をしており、「東京では考えられない座組み」で復興支援の根幹として人材の育成が続けられている様子なども紹介しました。

そして、気仙沼が進める新しい産業づくりにおいて百瀬氏が他企業からの出向者とともに、特に力を入れている「観光イシュー」「水産イシュー」についての詳細をレポート。それによると観光は「戦略、予算、人員など多くの課題の中でスタート」したが、震災を機に元々の基幹産業であった水産業周辺の企業や人材育成道場の卒塾生とも連携して観光プログラム「ちょいのぞき気仙沼(http://www.cyoinozoki.jp/)」などがスタート。また、訪日観光客の誘客インバウンド施策として、「唐桑半島には本当に美しい風景があるが、その価値や魅力が伝わっていない」としてPRにも力を入れたことで、JAPAN GUIDE.comが主催する「Hidden Beauty大賞 2015」(http://www.japan-guide.com/tour/2015/j/)を受賞したそうです。

先ごろは広域連携をキーワードに陸前高田市と共同で訪日外国人モニタリングツアーを実施したほか、「インバウンドのターゲット国の一つとして、タイ向けのテレビ番組やプロモーションイベントを在京テレビ局と共同で制作」したことなども紹介されました。

残すべきは「継続的な人材教育の仕掛け」

唐桑の牡蠣ごしの日の入り(japa-guide.com Hidden Beauty大賞のページより抜粋)

そして、出向任期が来年3月で終わることに触れ、「残り半年をいかにして過ごすかを考えている」と今後についても語ります。

「残りわずかな時間でできることは少なく、即目に見える形での成果は期待していない。一見遠回りのような気もしているが、1年半の経験としては、復興の先に行くには、結局のところ、『人』だろう、という思いが強い」という。「市長が掲げる『人から始まる地方創生』という言葉もそうだし、これまで町の方々や他の出向者と撒いてきた、いろいろな"タネ"。そのタネに継続的に水をあげて、育ててくれる仲間を増やしたい」と百瀬氏。そのタネのひとつの活動が、人材育成道場(経営未来塾)や気仙沼の若手対象のまちづくり学校「ぬま塾」やシニアや女性を対象にした各種ある人材育成プログラムに参加したリーダーシップを持った人たちがセクターを超えて集い、一緒に挑戦していく場の設計をすること。これを「まち大学構想」とし、市長以下、官民、NPO、移住者や自分のようなヨソモノ含め、現在チームアップし取り組んでいる」と百瀬氏。

そして最後に、「今ここに自分が立っているその後ろにはデロイト トーマツをはじめ大勢の仲間がいる。気仙沼の活動もそんな多くの人に支えられている。デロイト トーマツの復興支援室での活動に限らず、日々の多くの業務が社会課題に少なからずのインパクトを与えてくれていると信じている」と締めくくりました。

SDGsで未来を作るビジネスを

小川氏トークの後、田瀬氏、百瀬氏と会場を交えたディスカッションを行いました。東北でのこと、世界でのこと、東京のこと、話題はあちこちに飛び、楽しいセッションになりましたが、同時にしっかりとデロイト トーマツが進むべき道筋を改めて確認していたようです。

最後には、デロイト トーマツ グループCEOの小川陽一郎氏が挨拶に立ち、今年7月に東北を訪れた折には、車を追いかけてまでお礼の言葉をかけてくれた人がいたというエピソードを紹介。「最初は我々のような組織が復興支援のお役に立てるのか心配だった。しかし、思わぬところでこんなにもインパクトを与えることができるのだと、とてもうれしく、感激する思いだった。そういう組織にいられること自体が幸せなこと。ぜひ、これからもSDGsをテーマに、みんなと一緒に考えていきたい」と締めくくりました。

復興支援のみならず、SDGsをフレームワークに社会課題の解決、社会イシュー起点のビジネスに取り組むデロイト トーマツ。今後の動きにも注目です。


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