シリーズコラム

【さんさん対談】自己認識を深めることが、ウェルビーイングを紡ぎ出す

前野マドカ氏(EVOL株式会社代表取締役CEO/幸福学研究家)×田口真司(3×3Lab Futureプロデューサー)

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身体的、精神的、社会的に満たされ、自分らしく幸せに働き、生き生きと日々を過ごせる状態を表す「ウェルビーイング」。近年、ライフスタイルだけでなくビジネスの観点からも注目を集めている概念で、丸の内プラチナ大学(以下、プラチナ大学)でもウェルビーイングについて知り、日々の生活への活かし方を学ぶ「ウェルビーイングライフデザインコース」は人気の講座となっています。

ウェルビーイングが持つ可能性について考えるために、今回のさんさん対談では、同コースの講師を務める前野マドカ氏をお招きしました。前野氏の数々の取り組みについて伺いながら、より良い人生を生きるためのヒントを探っていきました。

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ともにウェルビーイングを考えることが、気の置けない仲間をつくる

ともにウェルビーイングを考えることが、気の置けない仲間をつくる

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田口 まずは前野さんの最近の取り組みについて教えていただけますか。

前野 代表取締役を務めるEVOL株式会社では、「人は本来、幸せになるために生まれてきた」ということを思い出してもらい、日々の生活で実践できるようサポートしています。仕事、プライベート、子育てなど、あらゆる活動が幸せにつながるという意識を取り戻すため、科学的根拠に基づいた心の状態を改善する知見を提供し、ワークショップや日々の意識改革を通じて、誰もが幸せを感じられる生き方を伝えることが私の仕事です。
その他に、2024年に世界初の「ウェルビーイング学部」を開講した武蔵野大学で客員教授をしています。そして、田口さんたちエコッツェリア協会が主催するプラチナ大学でも「ウェルビーイングライフデザインコース」の講座を受け持たせてもらっています。

田口 ウェルビーイングライフデザインコースは2021年度から講師を務めていただき、このインタビューを行っている時点で4期目が終了しました。これまでを振り返っていかがですか。

前野 率直に感じているのは、この4年間でウェルビーイングに対する認識が世の中に広がっていることです。2024年度の参加者の中にも、ウェルビーイングについて学んだことが人生を考え直すきっかけとなり、起業した方がいました。また、学生の受講生もいたのですが、講座を通じて様々な人と対話したことで、本当に自分がやりたいことに気づいたと言い、内定をもらっていた業界とは別の業界に就職をしていました。皆さんの人生の変化に関わることに責任も感じますが、自分の本当にやりたいことを考え、未来に希望を持って選択をしてくださったことはとても嬉しかったですね。

田口 各年で講座のテーマは違うのですか。

前野 初年度はウェルビーイングを深く学ぶことに重点を置いていましたが、2年目は「困難を乗り越える」、3年目は「愛と成長」というサブテーマを設けました。4年目のテーマは「存在感と自己肯定感」。ウェルビーイングは自分が起点になるものなので、自己肯定感とは何かを知り、自分の存在を意識して表現することで、自分のあり方が変わっていくことをお伝えしました。
具体的な取り組みとしては、数人でひとつのチームを作り、講座がないタイミングで定期的にオンラインで集まってウェルビーイングについて話し合ってもらう機会を設けました。最初は面倒に感じていた方もいたかもしれませんが、集まってみると皆さん自分のことを語りたいんですよ。それは、自分がここにいることを感じられるからなんです。皆で集まれる場があると帰属意識が高まり、存在承認にもなります。営利関係がなく、年齢やバックグラウンドも違い、多様な価値観を持つ受講生同士でコミュニケーションを交わすことで、寛容性や心理的な安全性、柔軟性も育まれていきます。そして、いつしか互いに応援し合うようになり、オンラインだけでなくリアルな場で早く皆に会いたいと思えるようになるんです。講座内に気の置けない仲間ができることから途中離脱者もほとんど出ず、皆さん完走してくださることも嬉しいですね。

ウェルビーイングに重要な「自己認識」

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田口 武蔵野大学でもウェルビーイングについて教えているとのことですが、学生のような若者とプラチナ大学を受講する大人とでは、ウェルビーイングや自己肯定感といった言葉に対する考え方はまるで違うのではありませんか。

前野 おっしゃる通りです。プラチナ大学の場合は、自分自身がウェルビーイングに興味を持って受講していますし、人生経験も豊富ですから、言葉にも深みや広がりがあります。一方で武蔵野大学の学生の場合、親に勧められて選んだという子も少なくないんですね。でも、ウェルビーイングについて知らないが故の素直さを持っているので、学んだことがそのままスッと入っている印象があります。
もちろん、大人と若者のどちらが良い悪いという話ではありません。ただ、いずれにせよ面白いのは、ウェルビーイングの重要性に気づくと目から鱗が落ちたようになって、そこからウェルビーイングに夢中になる方がいることですね。

田口 否定的なスタンスだった方の姿勢が180度変わるのは見ていて気持ちが良いですよね。 お話を聞いていて感じるのは、今の日本社会には自己肯定感が足りていないということです。要因はいくつかありますが、ひとつには社会が「Why」よりも「How」に傾きがちなところにあるのではないでしょうか。仕事でいえば、給料という対価を得るためには、マインドを持って取り組むよりもタスクをこなす方が楽ですよね。勉強においても、良い大学に行くために勉強をこなさなければならず、大学進学後も興味があることを学ぶよりも、良い就職先に進むためのスキルの獲得を優先しがちになってしまう。仕方がない部分もありますが、ウェルビーイングな人生には自分自身の「Why」について感じ、考えることが大切なはずなのに、そこに割く時間が少なくなってしまっているのではないかと思うんです。

前野 その通りだと思います。そもそもウェルビーイングには、自分が心地良く感じるものは何か、何を不快に感じるのかといった自己認識を持つことが重要です。だから自分らしさを理解し、自分軸がしっかりある人の場合は強いんですよね。自分にとって大切なものがわかっていれば、他人の物差しで何か言われたとしても受け流せますし、人生をより良く過ごしていけます。

田口 自己認識の重要性に気づける人と気づけない人は、何が違うのでしょうか。

前野 世の中の情報に敏感な人や、読書など自発的に学ぶことが好きな人は気づきやすい傾向にあります。それ以外には、非日常を経験した時に気づくこともありますね。例えば怪我や病気で身体の動きに制約が生じると、自分が普段何気なくしていたことや求めていたことができなくなるので、そこで自分自身を理解できるんです。だから日々の中でもっと自分について考える時間があると気づきやすくなりますし、仕事もプライベートも変わってくるのではないでしょうか。

田口 なるほど。もうひとつ感じたのは、他者と対話を重ねることも自己認識の理解につながるのではないか、という点です。僕は自分自身を「ありのままに表せている方だと思いますが、それはこれまでの人生で多くの方と対話する機会に恵まれたことが大きいのではないかと考えています。だから3×3Lab Futureでも、もっと対話の場を増やしていきたいですね。

前野 まさに対話は大事で、だからこそウェルビーイングライフデザインコースではチームをつくって講座外でも集まることを促しています。その際に対話がしやすいように、「人生で大切にしていることは何ですか」といったウェルビーイングに関連したお題を出しています。自分とはまったく異なる観点の答えが出てくることもあり、相互理解だけでなく、自分の引き出しを増やすことにもつながりますし、一方で自分の答えが誰かの役に立つこともあります。だから皆さん喜んで取り組んでくださいます。

地域発のユニークなウェルビーイング事例

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田口 少し話が戻りますが、最近の日本社会では汲々としながら生きている人が多いと感じます。そうした人々に自己認識を深めてもらうためにどうアプローチすべきか、常日頃悩んでいるんです。この点について前野さんはどうお考えですか。

前野 影響力があるのは自治体ではないでしょうか。自治体は地域の中にコミュニティスペースなどの場所を持っていますし、庁内に横のつながりがあるので情報も入手しやすい立場にあります。自治体の取り組みなら安心して参加できる点も大きいですよね。

田口 ただ、3×3Lab Futureにも自治体の方がよく視察に来られますが、ベンチャー企業を増やしたり、稼げるまちにするために、どうしてもインキュベーション施設を作ろうとする傾向にあります。もちろんそれを否定するつもりはありませんが、ビジネス的な空間からは離れた、ウェルビーイングな場がもっと増えてもいいのではないかと思っています。そうした動きをしている地域はあるのでしょうか。

前野 滋賀県長浜市では、市も関わり、閑散としていた駅前を活用して地域の人々が集えるコミュニティスペースもある複合施設を整備しました。カフェのようなコミュニティスペースは、子育て中の親たちが集まって悩みを相談し合ったり、高齢者が散歩の途中で立ち寄ったり、周辺で働く人たちがランチを食べたりできる場所で、地域の人々でとても賑わっています。ふたりの女性が中心となって立ち上げた会社が運営しているのですが、彼女たちは自らの得意なことを活かしているので、とても幸せそうで、ウェルビーイングに過ごされていますね。
また、逆に行政が運営に関わらないケースとして、香川県高松市にある「仏生山温泉」でも面白い取り組みがなされています。ここは個人の方が掘り当てたことでできた入浴施設で、積極的に観光客を呼び込むよりも地元の人たちの居場所にすることをコンセプトに運営されています。そのために休憩スペースを作ったり、日常利用できるように価格帯を低く設定したり、近所で採れた農産物を販売したりしています。ユニークなのは、200円で古本を販売し、その本を温泉に持ち込むことができる点です。回転率を高めるよりも、長くいられるように工夫をしているんですね。実際に利用者の8割は地元の人で、本当に居心地が良さそうで、皆さんとても幸せそうな様子をしていました。

仏生山温泉では行政の予算は1円も使われていないこともポイントです。行政からの援助を受けていないからこそ地元客を優先的に考えられますし、行政としても費用をかけずに地域が活性化し、その分の予算を他に回せることもあって喜んでいるそうです。なかなか珍しいタイプのウェルビーイングな地域だと思います。

田口 それはとても面白い事例ですね。エコッツェリア協会は東京を拠点に活動していますが、ここで得た知見やつながりを地域に還元していくことは大切だと思っています。そのためにも他の地域の事例をもっと知りたいので、今後は前野さんと一緒に行くウェルビーイングツアーを開催させてください。

前野 是非、一緒にお願いします。ウェルビーイングには人同士の相互理解を深めることが重要ですが、同じように地域と地域が理解し合うことも大切ですからね。それに、日本には本当に美しい自然や建物、文化がたくさんあります。「美とウェルビーイング」を今後の私のテーマにしたいと常々考えていましたから、一緒に日本中の美しい地域を巡りましょう。

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前野 マドカ(まえの・まどか)
EVOL株式会社代表取締役CEO、幸福学研究家

幸福学研究の第一人者であり夫の前野隆司氏の留学のためともに渡米したことをきっかけに、幸せや自分自身について深く考えるようになる。帰国後、幸福学の研究に本格的に携わる。現在は幸せを広めるワークショップ、コンサルティング、研修活動及びフレームワーク研究・事業展開を全国各地で行い、誰もが自分らしく生き生きと幸せに生きる世界を築くことを目指して活動。武蔵野大学ウェルビーイング学部客員教授、一般社団法人ウェルビーイングデザイン理事などを務めるほか、エコッツェリア協会「丸の内プラチナ大学」では2021年からウェルビーイングライフデザインコースの講師を担う。著書に『仕事も人生もスーッと整う 幸せになる練習。』など。

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