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【国際】サステナブルなものづくりのための場づくりを

「2025年の産業デザイン」への誘い

転換を迫られる20世紀型産業デザイン

地球資源の差し迫る有限性を背景に、産業界は単純に新しいプロダクトを造る、売るという観点から、再利用、環境負荷の低減、ライフロングデザインといった観点に転換を迫られています。

サステナブルな未来のために、どんなプロダクトやサービスが生まれたら良いのでしょうか。これからどんな取り組みが求められているのでしょうか。

「2025年のサステナブルなものづくり」をテーマに、イギリスのサステナビリティを専門とするNPOであるForum for the FutureはSony Europe Ltd.(ソニー・ヨーロッパ社)と共同で、2011年よりオープンイノベーションプロジェクト「FutureScapes」を行っています。

本プロジェクトの担当者であるForum for the Futureのシニア・サステナビリティ・アドバイサーのLouise Armstrong(ルイーズ・アームストロング)さんにお話を伺いながら、私たちができることを考えていきましょう。

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オープンイノベーションの「現場」

オープンイノベーションは場づくりから

Forum for the Futureが発行する季刊誌『Green Futures』

Forum for the Futureはイギリスのロンドンを拠点とした、サステナビリティを専門するNPOです。1996年の創立以来、地球温暖化、食糧・エネルギー問題などそれぞれの分野の専門家を抱え、ユニリーバや英国の大手通信社O2など多数の企業、そして英国政府とコラボレーションを行ってきました。

世界のサステナビリティニュースを集めた季刊誌『Green Futures』の発行、ロンドンの大学との共同で、サステナビリティの修士コースの提供といった、メディア活動や人材育成も行っています。

「FutureScapes」は2011年、テクノロジーとものづくりの未来を考える企業の支援を目的として、Forum for the Futureが立ち上げたコラボレーションプロジェクトです。 仕掛人の中心人物であるルイーズさんは、立ち上げの経緯について次のように語っています。

「私は、ハイテクノロジーの国である日本の皆さんと同じように、新しいテクノロジーやガジェットが大好きで、その恩恵を受けてきました。同時に私たちは、地球環境の未来を考える専門家でもあります。ですから、これら2つのことを同時に考えていきたいと思っていました。

未来―あるいはより具体的に考えると、2025年における企業の技術部門は、どうあるべきなのでしょうか。どんなプロダクトやサービスが生まれているべきなのでしょうか。私たちは、これまでとはまったく異なる考え方をする必要があるでしょう。

手始めとして、イマジネーションを開放し、あらゆる可能性を検討する、遊び心のあるオープンイノベーションの場を作る必要があると考えました。そして、新たなアイデアを生み出すためには、未来科学や社会の専門家、思想家、執筆家、デザイナー、そして一般市民といった、さまざまな立場の人を巻き込むことが大切だと考えました」

これまで多くの企業や政府とのコラボレーションをコーディネートしてきたルイーズさんは、今回のプロジェクトには製造側の視点も不可欠だと感じていました。そこで、ソニー・ヨーロッパとの共同という形を取ることになりました。

2025年って?―仮説シナリオが誘う未来

FutureScapesの取り組みをまとめた報告書「THE SCENARIOS」

未来と一口に言っても、曖昧で、なかなかピンと来ないかもしれません。そこで「FutureScapes」はまず、私たちが2025年にどんな未来を送っているのかを想定した「4本の未来の仮説シナリオ」を作りました。

「未来のシナリオは、技術者や社会科学者へのインタビュー、データ調査、ロンドンとパリで行ったワークショップをもとに作成しました。2011年時点の変化の兆し、例えば人工肉やウェアラブルコンピュータなどの技術革新、低炭素社会のための技術革新。2025年は、これらが当たり前になり、発展しているような社会でしょう。この未来のシナリオというのは、確実な未来予想ではありません。複雑な未来の問題を、シンプルにすることで、可能性やリスクを明らかにして、対処すべきことの優先順位をつけるためのツールなのです」

この4本のシナリオは、「FUTURE SCAPES THE SCENARIOS」から、誰でもダウンロードして読むことができます。

さらにはこれら4本の未来のシナリオを、より分かりやすく、伝わりやすいようにと、「プロダクト」「場所」「プラットフォーム」「哲学」という分野別に、4つの具体的なアイデアを導き出しました。

理想のガジェット「WandULar」

2025年のサステナブルなガジェット案「WandULar」

プロダクト例のアイデアとして生み出されたのが、進化に対応できるガジェット「WandULar」です。機種がアップグレードされる度にデバイスを買い換えるのは地球資源の無駄遣いではないか、こうしてデバイスを販売することで売上を上げているモバイルビジネス市場を見直す必要があるのではないか―そんな疑問を背景に生まれました。

「WandULar」はクラウドにアクセスできる心臓部分を、さまざまなデバイスに差し込んで使います。こうすることで、データ部分のアップデート、デバイスの変化への対応や再利用、利用者の利便性の向上に繋げます。

「WandULarは試作品で、これが理想的なガジェットの絶対的な姿、というわけではありません。具体的なプロダクト例を通して、多くの人を議論に巻き込むためのツールです。2013年には、WandULarはロンドンのデザインミュージアムで開催された、新たな科学技術と私たちの未来を考える特別展『Future is here』で展示されました。今後、この展覧会の世界巡回が予定されています」

ツールキットとプラクティスへの期待

ガーナで廃棄された携帯電話やスマートフォンを回収する「Faiphone」のプロジェクト

「FutureScapes」は、こうして一般市民向けの展覧会やYouTubeでの動画などの周知活動を通して、広がりを見せています。アイデアを受け取った他国の誰かから、新しい視点を持ったものづくりが始まるのかもしれません。

「これまでの活動はインターネット上に記録を残しているので、皆さんもぜひ活用してください。最近では、捨てられたスマートフォンを部材に使い、労働環境の管理やライフロングデザインを重視するサステナブルな製造過程で作られるスマートフォン『Fairphone』や、消費者が簡単に修復したりカスタマイズできるようにしたブロック型の『Phonebloks』という、WandULarの構想に近いサービスの実用化が始まっています。企業の収益モデルの転換など、今はまだ課題も多いですが、いずれはこうしたサステナブルなものづくりが主流になると信じていますし、私たちはそうしていくべきでしょう。日本から未来志向の技術や産業を多く生んで、これからも世界を驚かせてください」

未来へ向けた「シナリオ」

「FutureScapes」では未来に向けたシナリオを「仮説シナリオ」と呼んでいますが、これは、エコッツェリア協会主催で開催予定の「シナリオ・プランニング」とほぼ同じ考え方といえそうです。

こちらは、よりプロダクトに近い位置から人々の生活や未来を発想しています。その分、具体的でわかりやすい、入り込みやすいとも言えるかもしれません。

どんな未来がやってくるのか、それを考えることを抜きにして、これからのアクションを考えることはできないという発想は、いまや世界の潮流になっているのでしょう。興味のある方は、Forum for the Futureの取り組みとともに、丸の内のシナリオ・プランニングの取り組みにもアクセスしてみてください。


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