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【レポート】3人の強みを生かして起業。小さく始める共同創業のすすめ

女性アントレプレナー発掘プログラム ~Program4~ 2020年1月16日(木)開催

4,8

女性の起業をテーマとして開催されている「女性アントレプレナー発掘プログラム」。
このプログラムは東京都が実施する創業支援事業「インキュベーションHUB推進プロジェクト」の一環として、さまざまな女性起業家を講師に招き、女性ならではの視点から、起業のきっかけや創業時の苦労、成功に至るまでの話を伺います。

第4回目のゲストスピーカーは、株式会社Waris共同代表の河京子氏。「小さくスタートしてみよう」をテーマに、創業に至るまでの思いやプロセスを語っていただきました。
Waris創業前の事業計画の段階から、実際に軌道に乗る創設1年後まで、前職に会社員として務めながらと並行して起業に取り組んできた河氏。どういった課題からスタートし、会社員と並行しながらどのように共同創業に取り組んだのか、参加者とともに起業成功のポイントを共有していきました。

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「Live Your Life」実現のためのビジネスアイデアとは

「Live Your Life」実現のためのビジネスアイデアとは

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まず、ファシリテーターの小崎亜依子氏からプログラム概要の振り返りがありました。
起業を成功させるための5つの大事な要素は、「アイデア」(どういう課題にフォーカスするか)、アイデア(課題)を実現させるための「プロダクト」、そして実行するための「チーム」(全部1人でできなくてもいい=共同創業)、それを推し進める「実行力」、最後に実現したい「ライフスタイル」(自分に合った起業の仕方)です。

起業というと、ハードルを高く感じてしまいがちですが、自分が実現したいライフスタイルを軸に、他の4つの要素を取り入れると、身近なことから起業を具体化できると小崎氏は話します。

「Warisは、単なる女性に特化した人材派遣ではなく、個人の能力やスキル、人間性を見極めた上で、その人にあった仕事をきめ細かく提案するジョブマッチングビジネスを展開しています。河さんの事業のアイデアの生み出し方や、Warisの3人の共同代表によるチーム経営の方法を聞き、成功するための5つの要素をご自身の参考にしていきましょう」(小崎氏)

2013年に、河氏が3人で共同創業したWarisのビジョンは「Live Your Life」。このビジョン実現のために、2つのジョブマッチング事業を立ち上げました。

1つが、「Warisプロフェッショナル」。自分のペースで働き続けたいと願う女性と、豊富な経験や専門知識を持つ人材を求める企業とを、フリーランスという形で結びつけたジョブマッチングサービスです。
もう1つは、女性の再就職を支援する「Warisワ-クアゲイン」。女性は、結婚や育児、介護などのライフイベントをきっかけに離職せざるを得なくなり、その後、職場復帰や再就職を希望してもうまくいかないことが多くあります。そこで、企業とも協力しながら女性の再就業をサポートしていくジョブマッチングサービスとして、「Warisワークアゲイン」を立ち上げました。

「私たちはこの女性たちの存在を、人材市場の"ブルー・オーシャン"(未開拓市場、競合相手のいない領域)と位置づけ、活用しなければ『もったいない』という発想で出発しました」(河氏)

キャリアの再構築をしたいと願う女性たちや、自分たちも含めたすべての女性の「Live Your Life」を実現できる働き方を作るために、試行錯誤を続けている河氏。「自分らしくあるとは、自分らしい働き方とは」を追求していく中で、自然に自分たちの働き方も多様なものへと変化していったと話します。

「Warisでは、約40人弱が仕事をしていますが、全員リモートワークです。常に『自分らしい働き方、生き方』を追求していくうちに、時間や場所にとらわれない働き方になりました。創業時にオフィスにはコストをかけたくないと考えたことも、リモートワークを後押ししたと思います」(河氏)

心に持ち続けたビネスプランが人を引き寄せ、人と人を結び付ける

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「起業できるなんて思ってもいなかった」と語る河氏ですが、起業に思い至った課題の芽生えは、幼い頃からすでにあったと話します。
河氏は、在日朝鮮人3世。自身の出自がマイノリティであったことから、子供の頃から常に弱者に対する強い関心がありました。そのため、ジャーナリストを志望していた河氏でしたが、OGの勧めがあり、リクルートへ入社することになります。

リクルートに入社した2007年当時、企業の採用状況は「女性はダメ」「子供がいるなんてもっとダメ」という風潮が非常に強く、女性にとっての厳しい環境を目の当たりにしました。
さらに、リーマンショックで毎日のように会社が倒産していた2008年頃、同級生の友人が「明日から来なくていい」と突然退職させられたことにもショックを受けたと振り返ります。

「私自身マイノリティな出自のために、直接差別を受けた経験はありませんでしたが、小さい時から、差別をなくしたいという強い思いがありました。社会人になってからは、女性に厳しい社会の壁に直面し、女性のキャリアの危機を痛感。また、個人と会社の関係は常に主従関係で、企業組織は巨大で個人は弱者でしかないと感じました。それからは、マイノリティ支援をビジネスにしたいという思いが、ずっと心の中にあります。けれど、どのように行動に移していいのかわからない状況が続きました」(河氏)

課題として取り組みたいことを強く意識しつつも、悶々としていた河氏に転機が訪れたのは、入社して4年後。たまたまルームメイトに「女性のキャリア支援事業をするためには、もう社外に出た方がいいのかも」と話をしたところ、共通の友人が女性のキャリア支援事業を立ち上げるために仕事を辞めたことを知らされました。「そんな大きな決断をするなんてすごい! 本気でトライする人がいた!」と感動した河氏はすぐにその友人に会いに行きます。
その友人が、後にWariの共同代表となる田中美和氏でした。お互いの問題意識が共通していたことで話は一気に進み、一緒に女性のキャリア支援に取り組んでいくことで一致します。

河氏には、自分の中で育ててきたビジネスプランがありました。
そのプランとは、企業と業務委託契約をして、フリーランスで働くことを前提とした人材紹介業です。女性たちが正社員として柔軟な働き方を求めても、企業の納得は得られません。そこで、発想を切り替え、企業には比較的自由な雇用を提供でき、女性には柔軟な働き方を提供できる業務委託契約にメリットを見出しました。

そして、過去に一緒に仕事をしたことが縁となって、元リクルート社員の米倉史夏氏が仲間入りします。米倉氏は、リクルートを退職した後、ある企業と業務委託契約をして、週に3回広報の仕事を請け負っていました。まさに河氏が女性に提供したいと考えていた働き方を、米倉氏が実践していたとあって、すぐに意気投合することになります。

「元々素晴らしいキャリアと高いスキルの持ち主であった米倉は、まさしく私たちのターゲットとするペルソナでした。米倉の実践する働き方で、ある程度満足いく収入が得られているのであれば、私たちのビジネスプランは実現できると直感し、すぐ会いに行きました。情報を得たらすぐ動くことは大事です。そして、やりたいことを人に伝えることも大事ですね。行動することで、どんどん必要なものが引き寄せられてくることを実感しました」(河氏)

米倉氏も自身の働き方を、女性に有効な働き方として広めたいと考えていましたが、「自分一人ではどうしていいのかわからなかった」と言います。

「私たち3人のスキルや強みはバラバラ。3人がお互いのスキルをリスペクトしあうことができ、お互いの意見・見解を尊重できる関係性が構築できれば共同創業がベストであると考えました。3人とも『1人で起業するなんて無理!』というタイプだったのもありますね。私たちのやりたいことを追求した結果、共同創業がスタートしました」(河氏)

小さく始めればいいと気づいて、動き出した事業

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いよいよ会社を設立することを決めたものの「事業計画の立案や、事業計画書の書き方など、何から手をつければいいのかわからないことばかりだった」と河氏は言います。事業計画を立てたところで、フィードバックが欲しいと考えた3人は、ビジネスプランコンテストにチャレンジすることにします。

あらゆるコンテストに応募して出会った一つが、かわさき起業家オーディション(川崎市産業振興財団と川崎市が主催)。そこで得られたコネクションとフィードバックが非常に的確で役に立ったと言います。

「それまでは、ビジネスプランを難しく考え過ぎて、うまく書き進めることができませんでした。でも、そのコンテストの評議委員の方から『まず1年後の役員報酬をいくらにするかを考えればいい』と言われて、すごく気が楽になりましたね。小さく始めればいいのだと気付かされました。米倉と田中の役員報酬はミニマムで月20万円、私は報酬0円で負担のないところから始め、それが後の成長につながる結果となったと思います」(河氏)

3人で創業してから、河氏がリクルートとダブルワークをしていた期間は約1年。出社前の毎朝6時に3人でカフェに集まり、1時間ほど事業計画やその日の動き方を検討するのを日課としていました。

出社後は、リクルートでの仕事をしながら、合間にWarisの就業規則を作ったり、業務委託契約書を作ったり、限られた時間は最大限有効活用。リクルートの仕事から、Warisに役立つ情報が得られることも多かったと河氏は言います。

「企業に提案する企画書、業務委託契約書、個人にするプライシングなどの書類は、リクルートのノウハウがとても役に立ちました。リクルートでの学びがたくさんあったのもありますが、やはり安定した仕事を辞めることに、非常に抵抗がありましたね。夫からも応援してもらってはいたのですが、『収入面を考えて待った方がいい」と言われ、踏み切れませんでした。生身の人間だし、やはりとにかく辞めることが怖かったです」(河氏)

共同代表の2人は「仕事を辞めれば必ず違う景色が見られる。なんで辞めるのがあんなに怖かったんだろうと思うくらい、良い景色が待っているよ」と、河氏の背中を押し続けたそうです。

「田中のリリースした記事で次々とテレビ、新聞、雑誌などの取材の申込みを受け、マスコミに取り上げられるようになりました。そして遂に創業1年で、目標の役員報酬の月20万円と黒字化ができ、2年目以降私自身の報酬も含めても黒字化が見込めるようになりました。みんなの後押しと目標達成が見え、安心して2014年6月に退職することができました」(河氏)

3人で行動することで、不安を前進する力に

Warisのスタート時は、企業へも、登録者へも手弁当で、3人の身近な知り合いへの声掛けで成り立っていました。毎日メールや電話をして企業にアポを取り、1日5~6件回りながら、少しずつ契約を取っていったと言います。企業から依頼された人材が見つからず、知り合いのつてをたどってやっと見つけることもありました。

「リクルート在籍中、ほとんど実績を残せずに退職してしまったことは、残念でした。ただ、一生懸命頑張っているスタンスは常に崩さないように心がけていました。どのような信頼関係を築いておくかは、起業するときにも役立つと思います。去る時には遺留もされ、応援も協力もたくさんしてもらえるような良好な関係性を築くことができ、本当に良かったと思います」(河氏)

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河氏の講演後には、グループに分かれて参加者同士の感想共有と、質疑応答の時間が設けられました。質疑応答では、起業にあたっての具体的なプロセスや、気持ちの上での乗り越え方について関心のある参加者が多く見受けられました。

「事業を始めて芽が出なかった時のことは考えていたのか?」との質問には、河氏は「考えていなかった」と答えました。
「Warisの中で、新たな企画を立てる際には、あらかじめ撤退プランもセットにして考えるように伝えていますが、私たちが創業する際には、ほぼ考えていませんでした。それも小さく始めることのメリットですね。上手くいかなくても、元に戻るだけです。ただ、これからのWarisを3人で考えるときには、膝を突き合わせて話をすることを欠かさないようにしています。個性もスキルもバラバラな私たちの唯一のつながりは『ビジョン』なので」(河氏)

ビジョンでつながることを意識的に行うようにしていると語る河氏は、共同創業についてのメリットとデメリットについても言及しました。

「経営者が1人である方が、意思決定のスピードは早いです。経営陣が多いほど、やはり意見をまとめるのに時間がかかりますし、分裂してしまうこともあると思います。それでも私たちが共同創業を勧める理由は、モチベーションの維持ですね。女性は自信がない方が多い反面、協力して物事を進めることが得意です。私たちの場合も、誰か1人が経営者になって引っ張るよりも、お互い補い合って取り組んでいくことの方が向いていたため、共同創業という形でこれまでやってきました。外部からファシリテーターを入れるなど、共同創業を円滑に回していくための方法はたくさんあります」(河氏)

起業に対しての不安を払拭するための方法は、とにかく「行動すること」であり、「行動が必要なものを引き寄せる」と、河氏は参加者を勇気付けました。
参加者の中には、起業に対して前向きな行動を宣言する方も現れ、女性のキャリアの選択肢として、起業がぐっと身近に感じられたプログラムとなったようです。
エコッツェリア協会は、今後も創業支援に関するイベントを開催していきますので、どうぞご期待ください。


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