シリーズコラム

【コラム】ローカリズムに根ざす、これからの「都市と地域のつながり」

平時のざっくばらんな付き合いこそつながりの基盤

東日本大震災によって露呈したのは、農村・漁村といったローカルな共同体の連携の強さであり、とりわけ外部とのつながりをもつ共同体の強さだった。同時に、つながりをもたない人の孤立や、都市が地域の恩恵を一方的に享受してきたという、現代社会の問題をも浮き彫りした。果たして、そうした問題をこれからどのようにして解決していけばいいのだろうか――。 群馬県上野村と東京を往復し、畑を耕しながら、「ローカリズム」の重要性について唱えている内山節氏に、これからの都市の向かうべき姿、大丸有と地方の連携のあり方について伺った。

地域はつながりがなければ孤立する ―
東日本大震災から得た教訓

― 東日本大震災以降、人々の意識が大きく変わったように感じられます。とりわけ、絆とかつながりということが強く意識されるようになりましたね?

内山:東日本大震災で多くの方が感じたであろうことは、津波にしろ原発にしろ、こんなに身近に自分たちの傍にあったのか、ということだと思います。これまで東北以外の人にとっては親戚や知り合いでもいない限り、三陸は一生に一度、旅行で行くかどうかという遠い場所だったのではないでしょうか。ところが、震災を機に、三陸も原発もまさに隣の存在であり、我々はつながりの中に暮らしているということを強く意識せざるを得なくなりました。

阪神淡路大震災以降、ボランティア活動が盛んになったこともあり、東日本大震災でも多くの人がボランティアとして現地入りしましたが、そうした活動がさらに現地との距離を縮めることになりました。現在の私たちの意識の変化の出発点は、今回の災害や事故が遠いどこかのことではなくて、まさに隣で起こったことにあるのだと思います。
そもそも、三陸には、東日本大震災以前から、東京や海外などとつながりをもって活動している人がいます。気仙沼で牡蠣の養殖をしながら森づくりを行ってきた畠山重篤*さんもそのお一人ですが、そういった人たちが核になって、他地域の助けも借りながら、復旧・復興にいち早く取り組んだという例も多かった。そうした事例を見るにつけ、他地域との連携というのが、非常時にはとくに重要だということを再認識させられました。やはり、平時からの連携がなければ、非常時になって急につながることは難しい。つながりがなければ非常時に孤立してしまうということを、今回、まざまざと見せつけられたような気がします。
※ 畠山重篤:日本の養殖漁業家、エッセイスト、京都大学フィールド科学教育センター社会連携教授。「牡蠣の森を慕う会(現在は「NPO法人 森は海の恋人」として活動を継続)」代表。

首都圏もまた、いつ大地震に見舞われても不思議ではありません。東京で大きな災害が起これば、今度は地方に救ってもらうしかないでしょう。地方に助けてもらうためには、普段から、それ相応のつながりを築いておかなければならない。災害が起こってから、慌てて助けてほしいと言っても、それは難しいでしょう。助ける側にしても、顔が見えるような関係があればこそ、親身になって手助けすることができるのです。
つまり、地域というのは、そこだけで自己完結しているわけではなく、外とのつながりをもって初めて完結するということなんですね。そのことを、今回の震災で多くの人が実感し、意識が大きく変わったのだと思います。

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ざっくばらんな関係を築くために必要なこと ―
「化粧品がほしい」と言えなかった女性たちのこと

ざっくばらんな関係を築くために必要なこと ―
「化粧品がほしい」と言えなかった女性たちのこと

― つながりを生み出すためには、どのような取り組みが有効なのでしょうか?

内山:まさにどういう結びつき方をすればいいのか、その方法をこれから真剣に考えていかなければならないのだと思います。いきなり連携しましょうと言っても難しくて、やはりそこには核となる行動が不可欠です。農産物や魚介類などの食やモノの購入から人々の結びつきが生まれる場合もあるでしょうし、逆に、人間関係の結びつきがあって、その後でモノが動くということもある。さまざまな結びつき方があると思いますが、震災後はこれまでよりも多様な結びつきが出てきたように思います。たとえば復興支援のかたちにしても、小口出資や一口オーナー制度、復興支援型ファンドなど、多様な取り組みが見られるようになりました。

― インターネットやメールといった情報通信技術も、今回の支援には不可欠だった気がします。

内山:ただ、ITというのは、あくまでも道具であって、ITを核にして結びつけるということはできないんですね。誰かがネット上で復興を応援します、と宣言したところで、その真意は推し量ることができません。最悪のケースは、詐欺の場合もあり得る。やはり、実際に顔が見える関係でなければ、安心してつながることはできないのだと思います。

震災から1ヵ月くらいした頃、避難所にいる女性たちから、とても困っているという話を聞きました。何に困っているかというと、支援物資に化粧品がなくて困っている、というのです。男からすれば、こんな非常時に化粧なんてどうでもいいじゃないかと、その深刻さが理解できませんでした。ところが、話をよく聞くと、化粧ができないために、人前にも出たくないし、ひきこもりがちになってしまうのだという。ただでさえ、津波で精神的に大きなダメージを負っているなかで、化粧ができないことが沈んだ心にさらに追い打ちをかけていると聞き、驚きました。

しかし、その女性たちはなかなか声を上げられないでいたという。男性はもちろんのこと、女性の中にも、化粧なんてどうでもいいじゃないという声もあるなかで、化粧品がほしいからと、わざわざまちまで車を出してほしいなんてとても口にできない状況だったのです。そのために、ますます閉じこもってしまうという悪循環が起こっていた。さらに厄介だったのは、たとえ化粧品の必要性を認識できたとしても、僕ら男性にとっては、何を買ったらいいのか皆目見当がつかなかったということです。

ところが、災害時のそうした個々の重要なニーズに対しても、前からつながりがあれば、応えることは可能なのです。親しい仲なら、「じつは化粧品がなくて困っているの」と言えるでしょうし、応える側も、「何が欲しいの?」と、ざっくばらんに聞くことができる。残念ながら、ネットだけのつながりでそこまでカバーすることはできません。やはりITというのは、リアルなつながりがあって初めて有効に機能するのだと思います。

最終的には、あるNPO法人が化粧品会社に交渉して、複数の化粧品会社がCSR活動の一環として支援してくれることになりました。もっとも、なかには一切応じてくれない企業もあった。支給した化粧品で肌荒れを起こしたり、提供した商品を横流しされたりした場合、責任が取れないという理由でしたが、これにはガッカリしました。多くの企業が支援に応じる中で、まったく支援しないその企業の返答の背景には、組織の硬直した体質があると感じました。つまり、何か起こったときに責任を取りたくない、という。それでは、いいつながりは決して生まれません。
そもそも、私は人間の本質に属する部分に、「関係性をつくる」ということがある、と考えています。そういう本質に立ち返って、今こそ、「関係性をつくることを目的にした活動」を育てていく必要があると痛切に感じています。

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従来の枠組みを見直し、すべてを変えていく時代―
グローバル化の先にあるものとは

従来の枠組みを見直し、すべてを変えていく時代―
グローバル化の先にあるものとは

内山:今回の震災では、組織の中にいても柔軟に動いてくれた人が多かった一方で、原発事故をはじめ、責任回避に見られるような残念な出来事が多々ありました。とは言うものの、以前よりは、企業の動きは早くなったと思うし、古い体質が改善されてきたという、いい印象はもっています。

その背景には、企業の中の終身雇用制度や年功序列制度が崩壊するなかで、大企業にいても安寧とは言えない時代にあって、コミュニティが流動化し、個々人としての生き方が多様になっているということがあるのだと思います。実際に、企業人でありながら、NPO活動に参加するなど、複数のコミュニティに参加している人も少なくありません。
そう考えると、じつは震災を機に世の中が変わったわけではないとも言える。建築家の隈研吾さんも、「震災で変わったんじゃない。震災前から日本は変わっていたんだ」とおっしゃっています。バブル崩壊からの20年が、世の中を大きく変えていたのでしょう。徐々に変わってきて いたところへ震災が起きて、一気に変化が顕在化したということだと思います。

― 変化という意味では、日本に限らず、世界中で大きな変化が起こっていますね。

内山:グローバル化という意味では、本当に大きな変化が起こっています。20年ほど前までは、自動車を生産できる国は、日本・アメリカ・ドイツ・イギリス・フランス・イタリア・スウェーデンなどの先進国に限られていました。世界中で車が使われているのに、自動車産業から得られる利益をわずか数ヵ国の先進国が独占していたわけです。その体制が崩壊しているにもかかわらず、先進国は未だに、従来の仕組みにしがみついて利益を得ようとする。つまり、量産によってシェアを獲得するという幻想にとらわれているんですね。しかしそれでは、低賃金でモノをつくる国には勝てない。結局、コスト競争のなかで、工場を海外に移転したり、非正規雇用を増やしたりするほか、手段がなくなってしまったのです。

そういう状況にいち早く陥ったのがアメリカです。アメリカはモノづくりで利益を上げられなくなって、今度は金融で利益を上げようとした。こうしてアメリカの利益を守るための金融のグローバル化が始まった。現在、私たちが体験しているグローバル化というのは、そういう歴史的経緯の中で起こっているものなのです。
そう考えてみると、グローバル化に乗り遅れたらおしまいだなどという議論はまったく無意味だということがおわかりになるでしょう。時代はすでに、先進国独占の終焉に向けて、政治も経済も教育も地域社会も、ありとあらゆることを変えていかなければならないという時代に突入しているのです。ひいては、一人ひとりの生き方を変えていかなければならない曲面を迎えています。

当然、一人の人間がすべてを変えていくことなどできません。それぞれの人が関心をもっている領域において、従来の枠組みを見直し、変えていく必要がある。そうした行動が社会に蓄積されてはじめて、ようやく次の社会のかたちが見えてくるのだと思います。

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無数のコミュニティのつながりがもたらすもの―
継続の鍵は「ねばならない」を排除すること

無数のコミュニティのつながりがもたらすもの―
継続の鍵は「ねばならない」を排除すること

― 内山さんは現在、丸の内にある郷土料理店「とかちの...」と、その姉妹店である「にっぽんの...」の運営に関わっていらっしゃいますね。

国際ビル地下1階にある、「とかちの(左)」と「にっぽんの(右)」

内山:「とかちの...」は十勝や北海道の農産物を中心に、「にっぽんの...」は全国7ヵ所の生産農家や漁業者の食を提供していて、地方と都会、生産者と消費者の交流の拠点として機能しています。食を通じて、「つながり感」を確保する場と言えます。
お米だって、生産者から直接買って食べると、ご飯を食べるたびに生産者とのつながりが感じられるし、それが秋田のお米なら、お店で秋田のものを見ると、なんとなく親しみを感じることがあるでしょう。そういう食を通してリアルなつながりを広げていけたらと思っています。実際に、この二つのお店を核にして、活動の輪が広がりつつあります。
もちろん、たった二つのお店で世の中が変わるわけではありませんが、私たちのような試みがたくさん積み上がっていくと、間違いなく社会は変わっていくはずです。大事なのは、1万、あるいは10万もの小さなコミュニティができることでしょう。それぞれの人が、それぞれの持ち場で、関心がある場で活動すればいい。しかも、一人の人間が複数のコミュニティに属していることが重要です。そうすることによって初めて、横のつながりが生まれることになります。

もう一つ重要なのは、「ねばならない」をなくすこと。
今、金曜日に首相官邸周辺で定期的に脱原発のデモが行われていますね。このデモが従来のデモと大きく違うのは、その場で決着をつけようとしていない点にあります。60年代、70年代に盛んに行われていたデモは、そこで決着をつけようという強硬なものでした。一方で、金曜日のデモを見ると、集まっている人の多くは、意思表示くらいはしておこうという感覚で参加しているように見受けられます。決着をつけるのは、社会の仕組みを組み直していくときだという、長期戦の構えなんですね。だから気楽に参加している人が多い。

このように、活動を継続していくうえで重要なのは、「ねばならない」を排除することにあります。人それぞれ事情もあるし、「ねばならない」で縛ってしまうと、結局、継続が難しくなる。「にっぽんの...」でも、活動を強要するようなことは一切ありません。皆で富山に共同農場を持っているのですが、そこでの作業も、やりたい人がやるだけです。

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終わりがあるから始まりがある ―
手仕舞いの思想とつながりの多様性

終わりがあるから始まりがある ―
手仕舞いの思想とつながりの多様性

― 新しいつながりを生み出すためには、ほかにどのようなことがポイントになるのでしょうか?

内山:私は、手仕舞いというか、幕引きを考えることにあると思っています。人生でも、今はどう生きるかばかりで、どう人生を終えるかということを考えなくなっている。でも本来、何かをつくるときには、かならず終わらせ方を考えなければならないのです。都市にしても、建物にしても、終わりという区切りがあって初めて、次へ発展ができる。
終わりを考えなくなったのは、都市に住む人が地方とのつながりを失った結果だと思います。かつて、江戸へ出稼ぎにくる農家の次男坊、三男坊は、いずれは地元に帰るのが前提で江戸で暮らしていました。郷里とのつながりを保ったままだから、いずれ帰ることができたのです。そして、終わりを意識するからこそ、新しい論理が見つけることができた。

一方で、現代社会の恐ろしいところは、ずっと永遠に今の状況が続くものだと勘違いしているところにあります。しかし何事にも終わりは必ずあるのです。結局、終わりを意識していないところへ、ある日突然、外部から強制終了させられてしまう。そうなると路頭に迷うしかありません。

― 終わりというとネガティブな印象をもつ人も多いと思いますが、あくまでも新しい論理を導くための終わりということですね。

内山:そうです。そもそも、終わりがないものというのは、まちにしても、建物にしても、奥行がないでしょう? 「生き生きと暮らせるまち」よりも、むしろ「幸せに死んでいけるまち」のほうが魅力的だと思う。終わりを内包しているからこそ、次に引き継ぐことができるということ。それが本来の継続の論理なのです。今、皆が求めているのは終わりのない継続ですが、その先にあるのは行き詰まりでしかありません。

このように意識を変える、論理を変えるためにも、人とのつながりは不可欠です。私自身、もう30年以上、群馬県上野村と東京を往復して暮らしていますが、双方のつながりがなければ、自分の考えを広げることはとうていできなかったでしょう。また、北海道から九州まで、多くの農村、漁村の人と交流してきましたが、そうしたつながりのなかで、自然に教えられたことも数え切れないほどあります。
つまり、多様性というのは、つながりの中でしか生まれないんですね。元素の数だって、地球上には100くらいしかないけれど、それを組み合せることで無数の物質が生まれる。つながりを失うということは、衰退を意味しています。

もっとも、人の関心は多様ですから、つながるためには、さまざまな入口を用意する必要はあります。また、一回きりのイベントをやるよりも、少人数でもいいから継続して活動できる何かを提供するほうがいい。そして、個人個人が、興味の赴くままに、いくつもの活動に参加していけばいいんだと思います。私自身、10くらいのNPO法人と関わっていて、ゆるやかなつながりの中で、さまざまな発想を得ています。

― 今日は、地域連携についてさまざまな発想をいただき、大変、刺激になりました。最後に、大丸有について望むことをお聞かせください。

内山:やはり東京の玄関口としての圧倒的な便利さが必要だと思います。東京駅周辺の再開発事業によって、食事にしろ、移動にしろ、便利さという意味では、かなり充実してきたように思います。「とかちの...」や「にっぽんの...」も、東京駅に近いということが、地方から出てきた人と都会を結ぶうえで欠かせない要素になっています。
一方で、都会での生活は、望まないつながりに縛られる部分も多々ある。仕事の付き合いなど、不本意な結びつきを要求されることもあるでしょう。そういう不本意な結びつきから離れて、ホッと一息つけるような場所というのも、大丸有には必要だと思います。

僕は以前、パチンコをよくやっていたのですが、なぜ通っていたかというと、独りになるのにちょうどいい場所だったからです。まさに不本意な結びつきから解放される癒しの場だったのです。そういった意味で、今の大丸有には陰がないというか、孤独になれるような場がないという気がしています。よいつながりをもつ場だけでなく、ありがたくない関係から自由になれるような、そういう陰影のあるまちづくりにも期待したいと思います。

― 本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

編集部から
取材を終えて後日、内山先生をはじめ、地方の生産者たちが共同出資して組織をつくり、店を運営しているという「にっぽんの...」(国際ビルB1)に行ってみた。富山・五箇山豆腐の燻製や南砺から届いたばかりの里芋の田舎煮、各地の味噌でいただく新鮮な生野菜、やさしい味付けのブリ大根など、チェーン店ではけっして味わえない珍しくも懐かしい味に感動し、思わず店員さんとも会話が弾んだ。地域の食の多様さと、つながることの豊かさを感じたひとときでした。

内山節(うちやま・たかし)

1950年、東京生まれ。哲学者。1970年代から東京都群馬県上野村を往復して暮らす。NPO法人森づくりフォーラム代表理事。『かがり火』編集長。東北農家の会、九州農家の会などで講師を務める。丸の内の郷土料理店「とかちの...」「にっぽんの...」にも関与。2010年4月より立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授。著書、『怯えの時代』(新潮選書)、『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』(講談社現代新書)、『内山節のローカリズム言論 新しい共同体をデザインする』(農文協)、『文明の災禍』(新潮新書)ほか多数。


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