ワーキンググループ環境経営サロン・インタビュー

【環境経営サロン】2013年度第2回 カルビー株式会社CalNeCo事業部部長・加藤孝一氏

環境への取り組みは、購買動機を刺激する

7月9日、エコッツェリア協会が主催する「環境経営サロン」の第2回が開催された。
今回のゲストスピーカーは、カルビー株式会社 CalNeCo(カルネコ)事業部部長・加藤孝一氏。

カルビーと聞けば、ポテトチップスやエビせんを思い浮かべる人も多いだろう。しかし、「カルネコ」事業部は、スナック菓子を扱っているわけではない。  ではどんな仕事をしているのだろうか? 

「売り場を演出する、POPなどの販促・プロモーションツールの事業を展開しています。消費者が思わず買ってしまうような魅力的な売り場作りを提案することはもちろん、POP等の印刷物の制作過程を、徹底的に効率化しました」

カルネコの特徴は、「必要な時に必要なだけ、どこへでもお届けする」ことだという。

「オンデマンドで独自の制作システムを作り出すことで、制作にかかる時間が短縮でき、かつ廃棄ロスを徹底的に減らすことができました。販促の効果と、効率化と、環境負荷の軽減。3つの価値が両立する販促プロモーションシステムです」と加藤氏。

2005年にスタートしたカルネコ事業部の顧客は、今、カルビーを含めて35社まで膨らんでいる。さらに、この販促プロモーションツールのシステムは、興味深い進化を見せつつあるという。
それが、「環境貢献型プロモーション」だ。

「私たちが設計したカルネコのシステムが、EVI(Eco Value Interchange)という日本の森と水と空気を守るプラットフォームの仕組みに寄与しています。EVIは全国46の森林事業者と、企業、そして消費者をつなぎ、カーボンクレジットを売買できる画期的なサイトで参加企業も増えています」

プレゼンテーションを聞いていたサロン参加者たちからはさまざまな感想が出た。

「これまでビジネスと環境はうまく混じり合わず、経済人の中には『環境課題にコストをかけると経済が冷えてしまう』と後ろ向きの発言をする人も多かった。しかし、カルネコ事業は、その2つをつなぎあわせてきちんと回っている」

「環境への取り組みは、付加価値やおオマケではないと思った。たしかなメッセージでありストーリーだ。そのストーリーがきちんと伝われば消費者は商品を買ってくれる時代なのだ」

「環境ビジネスに対する勇気がわいてきた」

東京駅の隣、最新の高層ビルの中にあるカルビー本社。私たちは、カルネコ事業部の扉を叩いた。
事業部の入口は、独特の質感に包まれていた。

カルネコ事業部の入り口には、間伐材から創られたノベルティグッズの見本がズラリ間伐材で作られたコースターや額縁、うちわなど、ノベルティグッズの見本がずらり。「環境貢献型プロモーション」に活用される見本品だ。
木の手触り感、そこにこめられた人々の思い。背後にある熱気や意気込みが、気配となってオフィスに漂っている。

「カルビーのPOP事業と、『日本の森と水と空気を守る』というEVIの事業がどのようにリンクしているのかと、よく質問を受けます。たしかに弊社の上層部ですらピンとこない人もいるくらいです(笑)が、もちろん2つはしっかりとつながっています」と加藤氏は口を開いた。

振りかえれば、端緒は加藤氏がカルビーのマーケティング責任者だった96年~2001年頃。

「当時、売り上げがまったく増えない10年間というものに直面しました。私はマーケティングの責任者として、商品を一から問い直す試行錯誤をしていたのですが、ある考え方に出会ったのです。『プライマリー・ベネフィット(決定的購買動機)』というものでした」

「決定的購買動機」。
"顧客には商品を買う決定的な理由が一つある"という、アメリカで生まれたマーケィングの考え方だった。

「簡単にいえば、買う理由を呼び起こすメッセージが届けば消費者は響いてくれる。購入してくれる、ということです」

加藤氏は、その考え方の効力を検証するために、店舗の現場で実験や調査を重ねていった。
消費者は、あまたある商品の中からどうやって選んでいるのか。
何があれば、「買う」という行動に出るのか。

「メッセージが伝わると購入していただけるだけでなく、価格は二の次になる」と熱く語る加藤氏「調査で見えてきたことがありました。消費者は売り場でメッセージを拾い、我が家ではどうなのかとイメージし、自分の生活実感と一致すると心に響けば買う。メッセージを見てから買うと決めるまで、たった3秒から5秒。しかしもし、売り場にメッセージがなかったら、何も起こらないのです」

メッセージのある商品を作りあげ、売り場でしっかりと伝える。そうすれば価格を競い合うプロモーションにとどまらず、たしかな「メッセージのプロモーション」ができる。

「もう一つわかったことがありました。メッセージがしっかりと伝わり消費者に響いた時には、購入していただけるだけでなく、価格は二の次になる、ということでした。買う理由の方が価格より大切になるのです」

不毛な価格競争の悪循環から脱出する道筋がそこに見えてきた。
客の側も、本当に欲しかったものを買うという満足が得られるはずだ。

「メッセージを効果的にプロモーションできる販促支援のシステムが必要だと、その頃から考え始めました。私自身の営業経験やマーケティングで発見したこと、実証実験で学んできたノウハウのすべてを入れ込んで、独自のシステムを構築していったのです」

費用は1/4になり、POPの膨大な無駄が消えた

2005年9月、加藤氏はカルネコ事業部を立ち上げた。
「カルネコ」とは、Calendar・お客様の健やかな生活に貢献するために、Network・お客様とお客様へのサービスが出会う接点をネットワークし、Communication・お客様との対話を通して最適なサービスを提供する、というところから考え出された造語だという。

カルネコのオンデマンド受注生産・配送のプラットフォームはこんな特徴がある。

カルネコのプロモーション支援システム 10プロセス

発注する側と制作する側は、ウエブ上でPOP等の制作を共有化し作業を進める。
対話はダイレクトになり、伝えたいメッセージは明確になる。
制作にかかる時間は短縮し、速度が増す。チャンスを捉えた新鮮な売り場作りができる。
必要な数が把握できるため、無駄な発注が減り廃棄ロスがなくなる。
売り場スタッフとも意思疎通しやく、現場の意欲が高まる。
......と、複数のメリットが生まれてくる驚きのシステムだ。

カルネコを利用すると、デザインの入稿から標準2週間で店頭プロモーション実現のための発注が可能となる。そして、発注から最短5日でPOPなどの実物が店に届く。

「必要な数だけ作ることで廃棄や欠品がなくなり、単価は多少高くても結果として年に数億円かかっていた販促資材コストが大幅に削減できるようになりました。費用はほぼ1/4になる。7割捨てられてきたPOPの無駄も消える。しかも、意思疎通がよくなるのでプロモーションの実施率が上がります」

バラバラに回っていたものをつなぎ合わせ、ひとつのシステムとして組み上げる。
「つなぐ」ことによって、互いのコミュニケーションの密度は深まり、無駄は消える。
カルネコのプラットフォームは、「編集力」が結実したものだった。

カルネコが土台となり、
「環境貢献型プロモーション」へと展開

「メッセージが届けば、消費者は商品を選んでくれる」
「メッセージに共感した時は、商品の価格は二の次になる」

2つの発見から生まれた、カルネコのメッセージ・プロモーション思想。
それを実現する、独自のオンデマンド受注・生産システムの構築。

廃棄ロスがなくなることで、すでに環境負荷を減らすビジネスモデルとなっていたが、その土台にさらに「環境」というテーマが加わることになった。

「きっかけは、2010年8月~9月に菓子業界で実施したカーボンフットプリント(CFP)を紹介する『あなたが選ぶ! 森が活きる!』キャンペーンでした。購入したお菓子に応募券が付いていて、支援したい森の取り組みを選択できるのです。マーク1つにつき2円分がその取り組みへ入る、という仕組みでした」

『あなたが選ぶ! 森が活きる!』キャンペーン

最初は、加藤氏自身も半信半疑だった。
本当に「環境貢献」というメッセージが消費者に届くのだろうか。
それを動機にして「購買」行動を起こしてくれるのだろうか。

「効果を検証してみたところ、前年の販売実績と比べてなんと2.7倍も商品が売れていたのです。環境メッセージの力をあらためて思い知りましたね」

もう一つ、大きな収穫があった。 アンケートの結果、全体の7割もの人が「普段の買い物で(CO2削減などの)環境貢献ができるなら値段が1割が高くても商品を買う」と答えたのだ。

アンケートでは7割の人が「普段の買い物でCO2削減ができるなら値段が1割が高くても買う」と回答

「これはすごいこと。それならばしっかりと『環境』というメッセージを発信すればいいのだ。ビジネスとしてきちんと回るはずだ、と確認できました」

「日本の森と水と空気を守る」理念のもとに
EVI推進協議会がスタート

環境によい商品を買いたい、という消費者がいる。
一方で、環境に貢献したい、という企業がある。
そして、山にはカーボンクレジットを売りたい、という森林事業者がいる。

バラバラに離れていたこの3者を、カルネコの編集力がつなぎあわせ、新たな環境貢献型プラットフォームシステム「EVI(Eco Value Interchange)」を開発した。 2011年3月、「日本の森と水と空気を守る」という理念のもと、EVI推進協議会が活動を始めた。

EVIは森林事業者からJ-VERクレジットを預かる。クレジットを利用したい企業はEVIのプラットフォームを通じて必要な分だけを購入する

EVIは、46の森林事業者等が間伐や植林などの整備事業からJ-VERクレジットを預かる。クレジットを利用したい企業はEVIのプラットフォームを通じて必要な分だけを購入するという仕組みだ。事務局は三菱UFJリース株式会社とカルビー株式会社カルネコ事業部。

注目は、クレジットを活用してもらいたい森林側も、クレジットを購入してカーボンオフセットを進めたい企業側も、手数料無料で登録・利用ができるという点だ。

「カルネコ事業部を立ち上げてから黒字を継続しています。一方のEVIのプラットフォームは事業としては赤字ですが、本業の黒字でEVIの赤字をカバーしています。その勢いでいかなければインフラ構築は前に進みませんから。今後はさらに事務手続きの簡略化や効率化で、コストのかからないシステムにしていきます」

さくらんぼのキャンペーンの店頭加藤氏の本気度がひしひしと伝わってくる。
この環境貢献型プロモーションのプラットフォームからは、カーボンオフセット付きのさくらんぼや、規格外として廃棄されてきたリンゴやシイタケを活用した新商品など、さまざまなものが生まれてきている。
取材で訪ねた日も、福岡県八女からカーボンオフセット付き農産物の開発・販売の相談にやってきた人の姿があった。

カルネコが開発したプラットフォームをベースとした環境貢献活動はますます広がりを見せていきそうだが、「課題はまだ山積していますよ」と加藤氏。

「今、J-VER制度で認証されているオフセット・クレジットは33万トン。しかし、そのうちのたった4万トンしか売れていないのが現実です。これからは一社が一回、大量に買う形ではなくて、日常の中で一人一人が持続的に少しずつ買っていただけるような形を作りたい。特別に意識しなくても、普段の買い物を通して環境に貢献できるような、そんなシステムを作り上げたいのです」

今、預っているクレジットの県別カバー率は75%にまで到達した。さらに100%を目指していく。
大量にストックされた日本の森林クレジットは、購入してくれる人を今も待っている。

CSVの視点から見たカルネコとは

「環境経営サロン」では毎回、参加者が活発な議論を重ねている。「CSV」をテーマにゲストの話を読み解いている。
「CSV(Creating Shared Value=共有価値の創出)」とは、簡単にいえば、社会にとっての価値と企業にとっての価値を両立させて、企業が本業を通じて社会課題を解決していくことだ。CSVには以下3つのアプローチがある。
①「製品・サービスのCSV」 ②「バリューチェーンのCSV」 ③「クラスター/競争基盤のCSV」

この視点からカルネコの事業を見てみよう。
「在庫ゼロ、廃棄ゼロのPOP調達」というカルネコの事業は、①「製品・サービスのCSV」に該当していると言える。
また、配送の仕組みや物流の効率化は、②「バリューチェーンのCSV」に該当すると言えるだろう。③「クラスター/競争基盤のCSV」については、EVIの活動を支えることで、森林事業の支援、地域の廃棄農産物を商品化する6次産業化や間伐材を活用したノベルティーグッズ開発の推進に関わっている。
カルネコの事業が展開すればするほど、社会の問題解決も促進されていく。

(左)「WOOD LUK」のブランドで間伐材をノベルティグッズに(右)ロゴマーク「EVI」と「木の出口」

最後に「環境経営サロンへのメッセージをいただけませんか?」と訊ねると、加藤氏からこんな言葉が返ってきた。

「印刷物をたくさん作りすぎて捨てていませんか? 大量発注して余ったら捨てればいい、その方がコストが安い、と考えてはいませんか? しかし時代は変化しています。昔流の考え方はもう通らない。これからは単価が多少高くても、必要な時に必要な量を発注することを心がける時代です。それが結果としては、環境負荷を減らし、同時に総支払い額も下げることにつながります。日本をリードする企業の方々にはぜひ、そこに気づいてほしい。その気づきが広がって日本を変える力なったら嬉しい。カルネコの事業がそのきっかけになれば本望です」

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エコッツェリアに集う企業の経営者層が集い、環境まちづくりを支える「環境経営」について、工夫や苦労を本音で語り合い、環境・CSRを経営戦略に組み込むヒントを共有する研究会です。議論後のワイガヤも大事にしています。

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