イベント丸の内サマーカレッジ・レポート

【レポート】大丸有に集い、語り、未来への一歩を踏み出そう Day 1

丸の内サマーカレッジ2025 2025年8月13日(水)~15日(金)開催

4,8,11

予測が難しいVUCAの時代には「自ら考え、行動する力」が求められます。35万人が働く大丸有エリアで「丸の内サマーカレッジ2025」が開催されました。8月6日のオリエンテーション、8月13日~15日のメインプログラムには約70人の高校生・大学生等が集いました。講義やワークショップから社会課題や未来を考えるイベントは今年で8回目。毎年「自分も夢を叶えたい」「学生でも考え方が違って刺激になる」といった感想が飛び出します。

司会は、エコッツェリア協会の田口真司、西村初夏。田口からは「活躍する方の話から学び、『自分の意見』を語れるようになっていただければ」とエールが送られました。仲間と学び、語り、伝える3日間が始まります。

<1日目>
講演1「『学び』を『実践』へ発展させる3日間のはじまり」
・・・長岡健氏(法政大学経営学部教授)
講演2 「社会課題に向き合い、豊かな社会の実現へ」
・・・松岡夏子氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 主任研究員)
・・・新井和宏氏(株式会社eumo共同代表/武蔵野大学 ウェルビーイング学部客員教授)
フィールドワーク「大丸有まち歩きツアー」

続きを読む
講演1 「『学び』を『実践』へ発展させる3日間のはじまり」長岡健氏

講演1 「『学び』を『実践』へ発展させる3日間のはじまり」長岡健氏

image_event_20250815.jpeg.002.jpeg長岡健氏

「たくさんの人と話すことが重要です。授業は学校で行われるもの、講演中はスマートフォンの電源を切るものという固定観念を捨てて、X(旧Twitter)で意見をつぶやいてほしい」と、法政大学経営学部で組織論を教える長岡教授。緊張した空気が和らぎました。続けて「3日間で自分の頭で考え、意見を発信してほしい」と心構えを伝えます。

「創造的なコラボレーションのデザイン」を研究テーマとする長岡氏は、まちに繰り出すフィールドワークやカフェ・商業スペースを利用した「カフェゼミ」など学生や社会人が集まる場づくりを実践しています。研究者の立場から見る創造性とは、「雰囲気に流されず、同調圧力に屈しない」こと。慣習や自分の考えを健全に自己否定し、形式にとらわれず考えることが必要です。

では、なぜ同じ時間、同じ場所に集まる必要があるのか。その答えは「焚き火的空間」にあるという長岡氏。それは目的を持たずに人が集まり、自然な対話から新しいアイデアが生まれる場です。対する「井戸的空間」は、水を汲む目的のために集まり、効率や成果が重視されます。サマーカレッジは前者であり、評価は考えずに挑戦してほしいと話しました。

3日間を通して多くのグループワークが組まれますが、ここで重要なのが「グループジーニアス」という考え方。これは、個人では思いつかない天才的な発想が対話から生まれることを意味します。知恵を出し、互いに刺激を与えあうことこそが良い発想の源です。長岡氏は、「全員が没頭し、集中した状態」がより良いアイデアを生む「フロー理論」を紹介しながら、遠慮をせず、自主的に意見を伝えて欲しいと説明します。自分の意見にこだわらず、相手の意見を聞いて考えを変えて場の空気を楽しんでほしいと伝えました。

image_event_20250815_2.jpeg.001.jpeg左:学校外での授業の様子を伝える
右:スマートフォンを使いながらリアルタイムで意見を伝える学生たち

ワークを進める上ではリスクを受け入れる覚悟も必要です。「理路整然と進めるよりも、動きながら限界まで考える。10分前に意見が覆っても構わない」という言葉に、学生たちは少し驚いた様子です。「効率を考えずに対話を続けてほしい」と創造性を高める方法も伝えつつ、最も意識してほしいのが「親しくない人」とのコミュニケーションだと強調します。仲が良い人同士の「会話」は楽しい反面、新しい発想は生まれづらいもの。「シリアスとファン、つまり真剣に真面目な話をしつつ、楽しい雰囲気を味わってほしい」と長岡氏。机に座る必要はなく、好きな場所で自由に、「あなたの意見を聞きたい」という言葉に、拍手が広がりました

続いては、メインプログラム最終日に実施されるプレゼンテーションのグループ決め。まずは簡単なテーマで4~5名のグループ作りを練習します。グループが作れたら自己紹介やテーマの回答理由を伝え合いますが、講演での「ニコッと笑い、積極的に挑戦する」という言葉を思い出し、積極的にコミュニケーションを取り合います。「無人島に何を持っていくか」というテーマでは「人を連れていく」という視点が似た者同士で盛り上がるチームもありました。

数回の練習を経て、「あなたが創りたい未来」というテーマで最終日に発表するグループを結成し、昼食を取った後は午後の講義です。

講演2‐1 「社会課題に向き合い、豊かな社会の実現へ」松岡夏子氏

image_event_20250815.jpeg.003.jpeg松岡夏子氏

午後からは「社会課題と向き合う」視点で2名のゲストにお話を伺います。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの主任研究員、松岡夏子氏がオンラインで登壇しました。松岡氏はNPO法人、行政、シンクタンクと、3つの立場から20年以上にわたり、ごみ問題に取り組んでいます。

日本ではごみの8割は焼却され、残った灰は全国およそ1,700箇所の埋め立て地に運ばれます。新しい埋め立て地を作るために山が削られる現状に対し、「作って使って焼いて埋める」仕組み自体を変える必要があります。

大学時代に知った香川県豊島での不法投棄問題が関心を持つきっかけでした。小さな島に大量の車部品が持ち込まれ燃やされる「野焼き」で環境と住人の健康が失われました。島に通うなか、住民からから「この問題は誰が悪いと思う?関心を払わずに放置している社会そのものが悪いし、あなたもその一員」と言われ、自身も傍観者だったことに気づいたことが原点となりました。

「2020年までにごみをゼロにする」という目標を掲げる徳島県上勝町に移住し、NPO法人で働き始めた松岡氏。上勝町は焼却炉の使用中止をきっかけに34種類のごみ分別と各家庭へのコンポスト導入を行い、ごみ全体の80%をリサイクルしています。町長の「分別してもリサイクルできないものは、生産者の責任で回収すべき」という主張が、一部メーカーなどでようやく実現しています。

小さなコミュニティでは「誰がやっているか」が重要です。住民と対話を重ねて理解と協力を得たことや、現場で挑戦を繰り返す貴重な経験が「ごみの専門家」としてのキャリアの土台となりました

続く神奈川県葉山町での地方公務員としての業務は、分別されないごみの中身の組成調査から始まりました。分別収集方法の見直し、生ごみのコンポスト化を進め、ボランティアの協力も得てモデル地区での焼却ごみの半減を達成。小規模自治体ならではの「町全体を変えられる力の大きさと可能性、面白さとやりがい」を感じるとともに、大きな権限を持つ行政の責任の重さも感じました。NPOと行政での見られ方の違いも感じ、「挑戦していく文化へと変えるには、社会の行政に対する意識の変化が必要かもしれません」と述べました。

現在はシンクタンクで資源循環政策のコンサルティングに従事。年間約460万トンに及ぶ食品ロスに対して、イギリス発の「フードロスダイアリー」を使った調査手法を基に実態解明を進める等、やりがいを感じる一方で、「現場を知らないコンサル」にならないよう、現場の人たちと信頼関係を築くために常に「人間らしさ」をもって接するよう努めていると語りました。

image_event_20250815_2.jpeg.003.jpeg左:講演の途中では感想をシェアする場面も
右:刺激を受けた学生からは多くの質問が

また、講演では「仕事」以外の、育児休業と家族の仕事に伴うワシントンDCでの生活にも及びました。松岡氏はこの期間をキャリアブレイクではなく、新たな気づきの機会だったと話します。「市民」としての生活や考え方への想像力が深まりました。海外生活では、多様性を目の当たりにし、日本的な「啓発」活動は無力と感じることもあり、環境政策には経済格差への配慮が不可欠だと実感しました。

「異なる立場から社会課題に取り組むことで視点が広がり、理解も深まる」という松岡氏。質疑応答では、「コミュニティの広げ方」や「人の巻き込み方」に関して「やりたいという気持ちをすくい上げ、多くの人のメリットを訴える」工夫を紹介し、今後は国全体での取り組みについて、知識を深めたいと展望を語りました。

講演2‐2 「社会課題に向き合い、豊かな社会の実現へ」新井和宏氏

image_event_20250815.jpeg.004.jpeg新井和宏氏

共感をベースにした経済循環を創出する株式会社eumoの共同代表、武蔵野大学のウェルビーイング学部客員教授など20以上の肩書きを持つ新井和宏氏。金融業界からキャリアをスタートし、社会起業家育成などでも活躍されています。この日も大阪から東京へ移動後、講演を終えて出雲へ向かう予定とのことで、ご自身を「旅芸人」と自称するほど。現在は「楽しいこと」を軸に仕事をしているといいます。

「社会を変えるには様々な選択肢をつくることが必要」であり、優れたアイデアも行動しなければ社会は変わりません。また、「エリート」はラテン語で「選ばれたもの」を意味するとして、会場の学生に「自分の利益を顧みず、他人や社会のために尽くす人になってほしい」と呼びかけました。

20歳から人生の問いである「お金とはなにか」に向き合い続ける新井氏。人生の指針となる本質的な問いを持つことで、迷わずに進むことができるといいます。現代社会ではお金が資産運用会社などに集中し格差が拡大しています。余剰資金は課題解決に使われることが少なく、大富豪の寄付でも根本的な解決にはなりません。一人ひとりが声を上げ、意識を変えることが必要です。

投資家ウォーレン・バフェットの言葉を引用すると、価格は「何かを買うときに支払うもの」、価値は「何かを手に入れるときに手にするもの」、価値には「社会や仲間が見出すもの」と「自分が見出すもの」の2種類があります。ネット社会では他人の評価に流されがちですが、「自分がよいと感じたものを信じる」ことが自分らしくいるために必要であり、「ご機嫌」になれるウェルビーイングな状態をつくることも大切だと語ります。

現在は、資本主義を変え共感型社会を目指すアプリ「eumo」を開発し、Web上で地域通貨のようなコインのやりとりをしているほか、株式会社温泉資源庁では、温泉成分を1万倍に濃縮する技術を活用し、地方で捨てられていた温泉を原油のように「資源化」して輸出するプロジェクトを推進。「大分県の温泉湧出量がUAEの原油産出量に匹敵する」という比較に会場から笑いも起こりました。利益の独占ではなく、地域資源から得た利益を地域内で循環させる仕組みの構築が目的です。集めた資金を株主に返金し、日本全国47都道府県にブランドをつくり地域を豊かにするためにお金を使います。

image_event_20250815.jpeg.005.jpeg「資本主義ではないお金の流れをつくりだすチャレンジは楽しい」と話す新井氏

「社会を変えるために今は多くのことができるので、学生には戻りたくない」と新井氏。目指す社会にするために「やるかやらないか」だと力強くメッセージを送りました。

質疑応答では、「貨幣をどう変えるのか」という質問に対し、「お金の流れを変えるには、お金そのものを変える必要がある」と回答。自ら経済を定義し、地域に根ざした独自の経済圏を構築する、温泉を社会全体の共有資産である「コモンズ」として捉え、「温泉本位制」のお金を発行する取り組みを進めていると語りました。

「お金よりも、自分が良いと思えて楽しい仕事を優先できるか?」という質問には、「自分次第」と回答。高収入を追うと選択肢が狭まるため、自分の価値観を見つめ直すことが大切だと述べました。「なぜ『お金とは何か』を人生の問いに掲げたのか」という問いかけには、幼少期にお金に苦労した原体験と、監査法人の代表との出会いがきっかけだと明かしました。そして、地方で奮闘する人々を金融の力で支えたい思いが温泉の取り組みにつながったといいます。

「社会全体が良くなるための教育が少ないのでは」という問題提起に対しては、社会は役割を持つ人々の連携で成り立ち、お金も知恵も分かち合うことが大切だと語りました。

フィールドワーク「大丸有まち歩きツアー」

image_event_20250815.jpeg.006.jpeg

初日最後のプログラムは、「大丸有まち歩きツアー」。初めに大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアの変遷を学ぶインプットトーク、その後実際にまちに繰り出すフィールドワークです。三菱地所や大丸有エリアマネジメント協会のスタッフもガイドとして合流し、複数チームに分かれてまちを散策しました。

インプットトークでは、大丸有エリアに大名屋敷が立ち並ぶ江戸時代から、明治維新を経て陸軍の練兵場としての軍用施設、その後三菱社に払い下げられ、西洋式オフィス街へとまちづくりがスタートした歴史が語られました。エリア全体でまちづくりを推進することで、ビル単独だけでなくエリア全体でも価値を高められるエリアマネジメントの考え方や、丸の内仲通りの歩道を広げ景観を再整備していった話など、学生たちは真剣な面持ちで聴講しました。
多くの気づきを得て、実際に大丸有エリアを見ていきます。

フィールドワークではホトリア広場や、大手町ビル屋上、丸の内仲通り、地下行幸通り、新丸ビル・丸ビルなどを回遊。
行政と連携し区道と民地を一体的で魅力的な空間とした丸の内仲通りでは、世界各国のアートが並ぶ「丸の内ストリートギャラリー」があり、アート作品が定期的に入れ替わっています。
大手町ビルの屋上には養蜂場や農園があり、行幸通りの地下には和傘が展示され、ビル敷地内の外構部で地上レベルより低くつくられた広場を「サンクガーデン」と呼ぶ等、ガイドから様々な紹介がありました。

image_event_20250815_2.jpeg.004.jpeg左:ガイドの紹介をききながらフィールドワークを楽しむ
右:まち歩きから戻った後も、積極的にガイドへ声をかける学生たち

実際歩いてみて「オフィス街なのに緑が多い」「クリスマスマーケットに遊びに来たことはあるが、新しい発見があった」といった声も聞こえました。そして3×3Lab Futureに戻ってきた後、自分からガイド役に話しかけに行く学生の姿も。講義とまち歩きで充実した初日を終えた参加者は、翌日からはさらに講義を深め、グループワークにも挑戦します。

>>DAY2   >>DAY3

おすすめ情報

イベント

注目のワード

人気記事MORE

  1. 1【丸の内プラチナ大学】2024年度開講のご案内~第9期生募集中!~
  2. 2【大丸有シゼンノコパン】大手町から宇宙を「望る(みる)」ービルの隙間からみる、星空の先ー
  3. 3大丸有でつながる・ネイチャープログラム大丸有シゼンノコパン 冬
  4. 4【丸の内プラチナ大学】逆参勤交代コース 壱岐市フィールドワーク
  5. 5【大丸有シゼンノコパン】【朝活】大丸有で芽吹きを「視る(みる)」ー春の兆しは枝先からー/まちの四季
  6. 63×3Lab Future個人会員~2024年度(新規・継続会員)募集のお知らせ~
  7. 7【レポート】遊休資源が輝く未来へ 〜山形に学ぶ持続可能な地域づくりの挑戦〜
  8. 8フェアウッド×家具~ものづくりを通じた自然や生態系への貢献~
  9. 9指導経験ゼロから日本一のチームを作った「日本一オーラのない監督」が語る存在感と自己肯定感
  10. 10【大丸有フォトアーカイブ】第2回 みんなの写真展  2月21日~3月4日